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貴女の為に英雄になる (旧・ココから始まる英雄譚)  作者: るるいえ
三章 深い森の古竜
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一話 探求者1

 朝の鍛錬を終えたら、ユメルは水浴びをした後、黒い革の鎧を纏い『その日の気分のパンシエッタ』に向かう。

 ワイバーンの素材で纏められたその装備は彼女自身の力で討伐されたものではないが、アルフレム達が彼女が持つべきだと送ったものだ。

 受け取れないと辞退した彼女に、あの日の事を忘れないようにと言い含めた上で贈られたそれは値段にすれば一式数十万ジルは下らないだろう品だった。

 革であるのにも関わらず、金属の鎧に負けぬ防御性を持ち、ワイバーンの爪で作られた直剣は鉄よりも軽く、よく切れる。

 分不相応だとは着るたびにユメルは思う。しかし、驕る事なかれとそう着るたびに言われてる気がして気が引き締まるのは確かだった。


 昼になる少し前、ガイアスとアルフレムと共に店に入ると昼食を取るもの、そしてパンシエッタに報告をしているもの等、数多くの探求者がそこにはいた。

 彼らはこうした依頼を受けた資金を使い、探求の旅に出かけるのだという。もっとも、依頼がメインであり、探求を行わない者もいるにはいるらしいのだが、そういう者は『万屋』と同じ探求者から揶揄やゆされる。

 ユメル達は店の壁に張り出されたコルクボードに向かうとそこに貼られている依頼を吟味する。


「今日は何にすっかな。調達、探し物はもう教えることないからなぁ」頭を掻きながらアルフレムは頭を捻る。


 この一ヶ月、討伐や調査という依頼を一度も受けた事は無かった。

 ユメルはその理由は実力不足であると思っているのだが、彼女の実力で言えば端くれの探求者以上の物は既にあった。末端の騎士と同等あるいはそれ以上の実力だ。

 それにも関わらずそれらの依頼を避けているのは、アルフレムが過保護なのもあるが、ただ単に探索技術をおざなりにすればいつか痛い目に合うというのが一番の理由だ。

 ガイアスはそうしてアルフレムが唸っているのを見ると、一枚の依頼を手に取る。その依頼には怪物屋敷の調査という文字が大きく書かれていた。


「これはどうだろうか」

「『調査』か」アルフレムはユメルを見る、それを行えるだけの地力は既にあるのは確かだ。

「竜人の話なのかもしれんが、斬り覚えるという物がある。実践でしか身につかない技術もあるのだ、アナスタシア殿を見れば彼女の剣術の本質も似たようなものだと思うが」


 たしかに、とアルフレムは頷く。自分も最初は手探りで技術を磨いた覚えがあるからだ。

 そして、その依頼をガイアスから受け取ると、それをユメルに手渡した。

 依頼とアルフレムを交互に見るユメルにアルフレムは、ニカッと笑うと彼女にこう告げた。


「その依頼、お前の力でやってみろ。大方の検討は俺は付いてるがヒントもやらん。

 もし無理だと思ったならば素直に逃げて俺たちを呼べ」

「む……、自信はないが、力は尽くそう」


 それでいいとアルフレムは頷き、頭を撫でた。ある程度の仕事をこなした自信は必要だが、見習いにありがちな根拠のない自信、万能感は身を滅ぼすからだ。

 ――もっとも、手痛い目にあったユメルはもう大丈夫だろうが。

 あまり手を貸しすぎるのも成長には繋がらない。それも理解している彼らは今回はユメルに任せることに決めた。

 そんな彼らに見守られながらユメルは依頼書を眺める。

 ――怪物屋敷の調査

 有名な商人がある日忽然と姿を消した。街から出た痕跡がないため、騎士が調査をしたところ、商人の屋敷で魔物が目撃された。

 討伐はしたものの、依然、どこからか魔物が屋敷の中に入り込み余談を許さぬ状況である。

 この屋敷を調査し、魔物が入り込む原因を見つけて欲しい、又、可能ならばその原因を排除して欲しい。

 詳細な場所は……。

 依頼人 パリスタン税務官 成功報酬3000ジル 特別報酬5000ジル


 魔物が発生する屋敷か、とユメルは喉を唸らせる。

しかし、ふと依頼と関係のないことで気になりアルフレムに彼女は尋ねた。


「建て壊せばいいんじゃないか?」

「あははは、まぁ、そうなんだけどよ。ほら依頼人が税務官ってあるだろ?

 建物壊すのにも金がかかるし、それに東街の屋敷っていったら一軒30万ジルは下らないんだ。死人ってことが証明されれば相続人がいない限り国の所有物になるからな

 安全性を保証して売り出したいんだろ、だから特別報酬が高額なんだ」

「大人の事情ってやつなんだな」


 うんうんと唸るとユメルは紙をもち、パンシエッタへと向かっていく。

 そんな彼女の後ろ姿を見ながら、大丈夫かね、とアルフレムは親心を抱かずには居られない。

 実力的には問題のない依頼だが、万が一が良くあるのが探求者という仕事だ。

 そんなアルフレムをガイアスはふっと鼻で笑った。


「まるで、初めて娘をもった父親だな」

「ああは言ったものの、死人が出ることが当たり前な仕事だからなぁ、心配にならないわけないだろ」

「私やバーナード様も少し前まで、そう思って危険な事柄から遠ざけていたが、あの子の最近の姿を見て考えを変えたよ。

 あの子は真剣にあの化け物と対峙しようとしている。なら、俺たちに出来るのはその道を示してやる事じゃないかとね」


 それはそうだが、とアルフレムは理解は出来るが、未だに納得には程遠い。

 ユメルが選んだその道の邪魔をするつもりは毛頭ないが、まるで一人の少女を磔刑台に向かって歩ませる気分になるのだ。

 シュペルミルと呼ばれたそれに自分もガイアスも敵わない事は理解している。

 しかしながら、それを少女へと押し付けている現状は到底ではないが納得が出来るものではない。

 確かに、あの力の凄さは最近嫌というほど理解した。考えればその通りに行使される魔術、限界などなく、条件も無視して行使されるソレは確かにシュペルミルと対峙する上で必要となるだろう。

 悶々と一人で唸っているとアルフレムの前にユメルが戻ってきた。そして彼女はビシッと敬礼をする。


「行ってくるぞ、師匠」

「ああ、無理はすんなよ」


 朗らかに分かっていると笑顔で返事をする彼女。何を求めてこの道を選んだのか、アルフレムも理解できてしまっている。

 だからこそ、見送る彼女の背に少しだけやるせなさを含んだ笑みを向けた。

 


 

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