決戦の準備と平和、そして突然の訪問
何もない平和な日々が過ぎていく。
私はそんな日々の中でマリィコールズとの決戦のために力を蓄えていた。
部屋の中は暗い、カーテンを閉め切り、外部からの介入を最低限に抑えるように詠唱によって境界を作り、世界の外からの連絡のほとんどを断ち、黙々と準備を進めている。
長く集中していて疲れてきたので、首を回し肩を伸ばして立ち上がった私はカーテンを開けて外を眺める。
日は沈み、暗い空が広がった。
初希はどうしただろうか、部屋の中に気配はなく、しかしまだそこまで遅い時間ではないので仕事には出ていないはずだ。
早番とも言っていない。
どこへ行ったのか、家の中に一人だと思うと急に寂しくなってきた。
一人には慣れているが心は動く。
羽織っていたビリゥヴァにヴォバォモがつけてくれた新機能、ビリゥヴァ自身の隠蔽機能を使い、その姿を消し、自分の部屋のドアを開け、私はとりあえずキッチンに出て、流し台の蛇口をひねってやかんに水を注いだ。
湯を沸かし、コーヒーでも飲もうというワケだ。
そ初希の身に、本当に危険な何かが起こったのなら事前に察知できるようにはしてある。
ん? そういえば初希は今日は休日だと言っていたな。
ふとテーブルを見ると私用の丸いコースターの下に紙きれが挟まっていることに気付いた。
初希の書置きか? 手に取ってみる。
『ガゼルへ
今日は友達といっしょに出かけてきます
ついでに買い物してくるからばんごはんまっててね
初希 』
初希の所属する海撃隊は全世界で海魔と戦うために作られた巨大な組織の日本支部で、日夜海から現れる海魔を撃退する事を目的としてるため、休みが非常に少ない。
初希はその海撃隊の中の複数ある部隊の一つの隊長を任されていることもあり、さらに多忙を極める。
寂しいが、休みは羽を伸ばしてしっかりと体と心を休めてほしいし、友人と遊ぶことも大切だしな。
私も何度も友人に助けられた。
そういえばこの前ソゥヲバーリュの中に増やした人格は世界管理官の開発した専用デバイスに移されて、AIの代わりとして仮想世界に体を得て、ソゥヲバーリュの補佐をしているらしい。
私に対しての態度でもわかるように、冷静で厳しい、やばい、とソゥヲバーリュが嘆いていた。
今度会いに行った時にあいさつするか、私が一応生みの親ではあるし。
などととりとめもない事を考えていたら外から階段を上ってくる足音が聞こえた。
古い団地の最上階に位置するこの部屋は、近づく外の足音だとか喋り声がこちらまで届く。
音は複数、ここまで上がってくる。
隣の家は空き家、という事はこの家に用がある人間に違いないが。
宅急便だとするならばもう少し重い足取りだし、いつも私が絵を売っている男が来る予定はない。
足取りは軽やかにドアの前までやって来た。
「ちょっとまってよ小波ちゃん!」
「いいや待たないよ、お邪魔しちゃうよ!」
片方が初希である事はわかるがもう片方の小波という名は知らない。
おそらくは初希の友人であろう。
そう言えば、初希は私の事を友人に話しているのだろうか。
一般人で通しているが、この世界の社会的に言えば働いておらず、絵を売って日銭を稼いでいた人間なのであまり他人に話せたモノではないしな。
これはいったん自分の部屋に退避しておいた方がいいか。
出て行ってあいさつして印象悪くしたりすると初希に迷惑がかかる。
まだ湯気を立てているコーヒーを注いだカップを手に取って立ち上がり、ドアノブが回る音を聞きながら自分の部屋に引っ込みドアを閉めて内側から鍵をかける。
真っ暗な部屋に外からの光だけが差し込み、折り畳みの小机を取り出して足を立てずにそのまま床に置き、そこにカップを置いた。
「いや~久しぶりだね初希の家」
「だからちょっと待ってって!」
玄関の方からさわがしい声が聞こえ、次に焦る初希の声、友人と話すときはまた違った喋り方をするんだな。
そう思いながらコーヒーを静かに口内に流していたら足音は何故か足音は私の部屋の前までやってきて止まる。
「それでこのドアの向こうにいるのが彼氏さんだね? おじゃましまーす!」
そして、いるかどうかわからないのに部屋の中の私に声をかけ、ドアノブをひねって来た。




