我が家とお茶会、そして幸せ
世界を越えて、私は家に帰りついた。
いつもの我が家、いつもの私の部屋に続く世界の入り口から部屋の中に降り立つ。
靴はもちろん脱いで異空間にしまってある。
器を直すのが終わってやっと帰ってこれたという所。
静かな部屋の中を見回し、私は息を一つ吐いた。
窓から外の明るさを見るに今は午後二時くらいか、初希は仕事から帰って来て今は寝ているだろうな。
ただいま、と言いたかったが起こしてしまってもかわいそうだ、とりあえずお茶でも飲むか。
私はそう思い、玄関に靴を置いた後にキッチンに行き、水を入れたやかんを火にかけた。
そういえばビリゥヴァの修理が終わり、帰って来たので私はそれを異空間から取り出し、椅子に座ってそれを見る。
マントであったはずのそれは黒いブレスレットになっていた。
これに念じるとマントに姿が変わる。
この世界でビリゥヴァを着けていると間違いなく不審者に見られる事を考えてヴォバォモが改造してくれたのだ。これでいつでも肌身離さず持っていられる。
あいつはいい仕事をしてくれたモノだ。
ブレスレット状のビリゥヴァに施された意匠を眺めていると初希の部屋のドアが開く音がした。
「あっガゼル! 帰って来たんだ、おかえりなさい!」
眠そうな目をしていた水色のパジャマ姿の初希は私を見て眠気が吹き飛んだようで表情を明るくする。
「ただいま、すまないな、寂しくなかったか?」
「さみしかった、だけど今ガゼルがいるからさみしくなくなったよ!」
「おっと! それならよかった」
胸に飛び込んでくる初希を受け止める。
初希の体は小さいが結構な勢いで飛び込んできたので衝撃もすさまじい。
一応成人はしているはずなのに仕草が子供っぽいのはいつもの事だな。
「ちょうど湯が沸かしているところだ、久しぶりにお茶でもしないか?」
「うん、今起きたところだからちょっとだけ待っててね」
そう言って初希は一度トイレに行った後、部屋に戻っていった。
おそらく寝起きの髪を整え、パジャマから着がえるのだろう。
パジャマのままでも特に構わないのだが、言うと初希の機嫌が少し悪くなるのでこちらは準備をしながら初希を待つ。
ビリゥヴァを腕につけて、湯気の出てきたやかんに向かった。
・
「本当に色んな所を旅して来たんだね、ガゼル」
「そうだな、でも世界はまだ広い、生物が生まれて増えていくように今この時にも世界は増えている」
「へえ~、話が壮大すぎて全然想像できないね」
秘密にしていた事をばらした私は初希にこれまでの世界で旅して、見てきたことを話していた。
初希はミルクティーを飲みながら私の話を興味深そうに聞いている。
「ガゼルはそんなにたくさんの世界を旅して来たのに何でこの世界で暮らすことに決めたの?」
「初希がいるから、というのが一つだが、そうだな……」
そういえば私はこの世界に来た時何を思ったか。
今までにものどかで争いのない世界はいくらでもあった、海魔という人間を脅かす魔物がいるこの世界はそんな世界達と比べると静かには暮らせないだろう。
確か私は世界を渡り歩き、そろそろ居を構えてもいいのではないかと思い立ったのではなかったか。
そうして住む世界を探していた時にこの世界に来て、他の世界と比べても普通の部類に入る子の世界であれば、私を狙うものからは容易に見つかる事は無いであろうし、魔力を隠せば故郷を出る前に過ごした生活をまた味わえるのではないかと考えたわけだ。
そうしてこの世界に来て、初希に出会った。
「という事はわたしとガゼルの出会いは奇跡的って事だよね、たくさんある世界の、たくさんいる人間の中で出会えたんだから」
「そうだな、そういえばそうだ」
運命というモノはさっぱり信じていないが、初希と出会えた事にはそんな導きを感じない事もない。
「これからもよろしくね、ガゼル」
「ああ、こちらこそよろしく」
初希の微笑みで心に光が差し込んだように思えて私の顔を自然にほころんだ。
この幸せがいつまたこの前のように崩れそうになるかわからないが、その時にも守っていけるようにしないといけないな。
そう思いながらも私は今この時の平穏を楽しもう。




