サーリョックォと狂気、そして罠
突然の事で少し動揺したが、私はすぐに初希を探すために世界の狭間へと飛び出した。
転移されてはどこに行ったのかわからない? そんな事は無い、マリィコールズやら、他の組織から狙われている私と共にいる初希が狙われることもあるだろうと思い、初希がどこにいても知る事の出来るように、天法の一つをかけておいたのだ。
あの世界に隠居してからは出来るだけ目立たないように姿を隠しながらも天法を習得した。
詠唱や他の術があるためほとんど使う時はないと思っていたが、役立ってよかった。
私は神経を集中させて初希の居場所を知覚する。
とても弱い術なので見えるのは約数秒だが、それで十分だ。
見えた座標の近くへと転移していく。
広がる光景は辺り一面銀世界だった。
しかし、吹雪が吹いているわけでわない、銀色の水晶の大地が広がっていた。
私はこの大地を知っている。そしてこの世界にすむ主も知っている。何度も訪れざるを得なかった場所だ、いやでも覚えてしまう。
そして、この場所に初希がさらわれたという事はその犯人も知ることが出来た。というかあのパーカーのような服を着ている者がいるとするならばその時点でほとんどわかったようなものだが。
もう一度転移を使い、その犯人がいるおおよその場所へ転移する、視界が眩しい銀世界から一転暗く冷たい石の部屋に出てきた。
そしてそこに初希が倒れていて、犯人がそばに立っていた。
犯人は私を待ち受けていたようで、私を見て笑みを浮かべる。
「久し振りに会えたから心から大感激だよ、ガゼルさん、こんにちは」
「やはりお前だったか、サーリョックォ」
フードを取ったその顔は実体があるようでなく、ぼんやりとしているがかろうじて人間である事が分かる。
「いつも言ってるよねガゼルさん、サリ―の事はサリーって呼んでって」
「特に親しく思っていないお前を愛称で呼ぶものか」
「つれない奴だよいつも通りしけてるね、せっかく探し出してあげたのに、サリーの運命の人」
サーリョックォが腕を広げて恍惚の表情を浮かべる。
勿論私は奴の運命の人でも何でもない、向こうが勝手に言っているのだ。
最初にこの世界に入った時に襲われてあっさり返り討ちにしたのだが、それを根に持ったのか、その後ことあるごとちょっかいをかけてくるようになって、そしてその憎しみが長年の時を経て何故か愛情に変化していたのだ。どういう変化をしたらそうなるのかさっぱりだがな。
私が隠居すると心に決める要因の一つにこういう輩から逃れるという目的もあり、姿を消せば記憶も風化して諦めるかと思っていたが、そんな事は無かったみたいだ。
「ガゼルさん、でもでもせっかくの再会だけど今はやるべきことがあるから、このサリーの運命を邪魔するゴミクズを排除しなくちゃいけないから」
サーリョックォが地面に寝転がっている初希に小動物であれば死に至る視線を送りながら言う。
「手紙を正直に信じてガゼルさんから離れていれば、運よくエンドフォグが世界に大量発生してなければサリーが直接手を下さないであげれたのに、命を失わないで済んだのに、このゴミクズが悪いんだ」
「私の恋人をゴミクズ、というのか、サーリョックォ」
「ゴミクズだよ、ガゼルさんにまとわりつくゴミクズ、ガゼルさんはサリーだけのの運命、サリー以外を目に入れちゃダメだから、目を曇らせるからゴミクズ」
怒りが心を沸き立たせるが、抑えて私は冷静に務める。
奴には私の言葉は全く通じないのだから会話など意味がない。
私が無声詠唱を唱え始める。
「ああ、その目は、その顔は、やっぱりガゼルさんはこの女のせいで曇った、曇ってしまったんだ……でも安心して、サリーは曇ったガゼルさんを浄化できるから」
サーリョックォが狂気を感じさせる目で私を見て、手を上げると、ただでさえ暗い部屋が視界を確保できない位に暗くなる。
身体を動かすと、何か、重い物を体につけられた感覚、簡易的な封印のようなモノか。
「そこで待っていて、ゴミを処理して来るから」
見えない彼方からサーリョックォの声、そして気配が消える、また転移をしたようだ。
この世界は奴が作り出した世界、奴に分があるし有利なのは当然、私の動きを予想し気づかれないように封印を仕掛けておいておびき出したのだろう。
だが、それでも私は行かなければならない、巻き込んでしまった初希を救うために。