勇者の存在価値Ⅲ
この街の領主の依頼を引き受けて2日経ったが、件のドラゴンとやらは姿を見せていない。
領主であるフォルドの話では、今から6日前の目撃が最後だ。
頻繁に目撃されているわけではないから仕方ないが、依頼とはいえ今まで勇者として同じ街に何事もなく数日滞在することはなかったこともあり、気分的に落ち着かない。
今日も街から出て周辺を探索するが、成果はない。
暇だ……、それに邪魔くさい。
低級な魔物が斑にいる程度で、殆ど散歩と変わらない。
邪魔なのはこの魔物ではなく、領主の命令で行動を供にしている数人の領兵だ。
勇者殿独りで魔物退治をやらせるのは忍びない、と領主が言い出し、半ば強引に押し付けられた。
お陰で街から出る度にこうして引き連れて歩かなければならない。
この領兵達が魔物を見つける度に殲滅してしまい、いよいよやることがなくなってしまう。
討伐対象のドラゴンとやらが現れたときには足手まといにしかならないだろうが、実際は私の監視役だろう。
このまま何日もこの街にはいられない。
明日も対象が現れなければ、もうここを出るべきだ。
もちろん、中々魔物が出てこないのでもう別の街に行きますね、と言っても許されるはずがないので、そのときは勇者として王都に口添えしてやるつもりだ。
あまり勇者の肩書きだけを振り回すのは好きではないが、そうすれば王都から兵士と『英雄』級の者が何人か派遣されるはずだ。
『英雄』級の者がいれば、幻想種が相手でも問題ない。領主のフォルドも喜ぶに違いない。
英雄といえば、その英雄を追い詰めた私の親友は元気かな。
リードナ達と旅をしていたとき、彼らの中でも度々話題になっていた。特に実際に対峙したオルドは喜々としてアリスの話をしていた。
「今日もドラゴンは来ないですね、勇者様」
領兵の1人がぽつりと言った。
その言葉には安堵と焦燥が混じっている。
いつ来るか分からない敵に備えるのは精神的にかなり負担になっているようだ。
「そうですね、今日はもう街に戻りましょうか―――」
こちらが言い終えるよりも早く、けたたましい鐘の音が響き渡る。
音源はフォルドが領主を務める街からだ。
本来は規則的に、穏やかに鳴らされ、祭りや祝日などを知らせるはずの鐘が、今は特定の間隔も回数も無く、ただただ闇雲に打ちつけられる重々しく轟く。
まるで自我を持った街の悲鳴だ。
周りの領兵とともに、すぐに街の方角を見やる。
街を取り囲む巨大な城壁が指先よりも小さく映るほどの距離。それほどの距離からでも、街が悲鳴を上げている原因ははっきりと分かった。
街の上を、何かが悠々と旋回している。
この距離で視認できることから、その巨大さが窺える。
魔物の中でも危険とされる竜種、件のドラゴンがついに姿を現した。




