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勇者ではなく、英雄ですらなく  作者: マンディ
勇者として醜く理不尽な世界へ
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勇者の存在価値Ⅰ








独り、暗い街道をとぼとぼと歩く。

半分ほど欠けた月の明かりは夜間の移動には心許なく、ようやく視認できるようになった街明かりを目指して進むしかない。


今日はあの街で休もう。



勇者、勇者様、勇者クレア……、今まで様々な街に寄る度に勇者として歓迎はされるが、最近はそれに少し苦手意識を持つようになっていた。


最初は、自分が勇者であるという誇りと、周りの期待と称賛に対する不安を感じていたが、今ではその対応がただ面倒でしかない。


そして散々歓迎されたあとは、街の代表者などが決まってこう言うのだ。

『実は勇者様に、頼みたいことが……』


その内容は殆どが魔物退治、稀に盗賊のような連中の撃退。


そしてそれをこなせば喜ばれる。もしくは、穏やかな街であれば、人間離れした膂力を目の当たりにした住民達に怯えられ、遠回しに街からの退去を強いられる。


もうそれくらいで傷つくような乙女心ではないが、それでも心地良いものではない。

次の街はどうだろうか。




こちらが何者かを悟った門番が騒ぎそうになるのを何とか宥め、ようやく街に着いたときには既に住民の殆どが寝静まっており、見かける人間は衛兵か飲んだくれた者くらいだった。


こちらを見ても、旅人か流れ者の冒険者を思われるだけで、宿の受付もすんなり通ることができた。

この街は王都から離れているためか、私の外見だけでは勇者だと分からないのだろう。

これはこれで新鮮だが、それと同時に安堵する。


やっとゆっくり休めそう。


王都で大々的な勇者誕生のセレモニーが行われ、王都はもちろんその周辺の街では自由に歩き回ることもままならなかった。

街に行けば、その街の有力者と食事の席を設けられ、まだ経験も少ない勇者生活のことを根掘り葉掘り聞かれる。


それ以外は魔物との戦闘、そしてまた別の街に移動。



でも、これから先は王都から離れる一方だから、次の街では門番にも騒がれずに済むかもしれない。


前に行動をともにしていた勇者リードナやその仲間達から、『勇者』や『英雄』という肩書きは、その存在そのものが大きな意味と役割を持つとよく言われたが、最近その言葉の意味をようやく実感してきている。

といっても、街に行けば騒がれる程度の認識ではあるが。




宿の酒場でまだ呑んでいる者達に気付かれないように階段を上り、自分の部屋に入ってすぐに装備を外し、ベッドに倒れ込んだ。


一睡もせずに2日間も歩き続けたのだから、今日はもう寝させてほしい。

いや、その前にシャワーは浴びないと……。


一瞬落ちそうになる意識を何とか保ち、部屋に備え付けられた簡易シャワーの準備をする。


もし明日も平穏に過ごせそうなら、この街をゆっくり歩いて回るのもいいかもしれない。

たまには街の酒場で、一般住民の喧騒に耳を傾けてもみたい。

お忍びで下町に遊びに行く貴族も少なくないと聞くが、その気持ちが最近よく分かる。


そう考えると、少し楽しみになってきた。


そういえば、リードナからは、行動を共にする『仲間』を早めに作った方が良いとも言われたっけ。

時間があれば冒険者ギルドとやらに顔を出してみるのもいいかもしれない。


仲間が出来たら、旅路も楽しくなるのだろうか。

リードナ達との行動も、今考えれば悪いものではなかった。



アリスに会えたら、間違いなく誘うのに。

魔物退治よりも、私にとってはアリスとの再会の約束が一番大事だ。


彼女なら、勇者となった私にも皮肉たっぷりの台詞を投げつけてくれるに違いない。

あの小さなひねくれ者が、次に会うときにはどれくらい成長しているかも楽しみだ。




シャワーを終え、今度こそ眠ろうとベッドに飛び込む。

起きた後の予定をベッドの中である程度考えておこうと思っていたのだが、思っていたよりも疲労が溜まっていたのか、薄っぺらいシーツの感触を確かめる暇もなく、あっと言う間に眠りに落ちてしまう。


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