仮初の生き方Ⅰ
「ヴァ、ヴァレンシア、少し手伝ってもらえませんか!」
冒険者ギルドに登録した翌日、私とヴァレンシアは早速ギルドの仕事をひとつ選び、それに励んでいた。実際に選んだのは殆どヴァレンシアの独断だったが。
仕事の内容は、『アート・ラヤ』にほど近い場所に位置する農村の廃墟に、魔物が巣食い始めたとの話が出たため、その調査、魔物がいればその殲滅だという。
よりによって、目撃された魔物はオークだという。
魔物の詳細な勢力も不明なため、仕事のランクは4、私とヴァレンシアが受けられる限界の難易度。
もちろん、何もないか、本当に魔物がいたとしても低級のものが数体という可能性はあるが、逆にオーク以上に危険なものがいることだってあり得る。
仕事を受けるときに、他の冒険者とチームを組んでいくように受付嬢から勧められたが、それもヴァレンシアが勝手に断った。
「いやー、こっちも忙しくてさ。アリスちゃんも怪我はしないように頑張って!」
そうして今、件の農村廃墟にて、オークの群れを相手に女2人で立ち向かっている。
魔物は確かにいた、それも本当にオークだった。
数は、以前『パマギヤシラ』の任務で襲撃した集落ほどではない。ちょうど20体。
問題は、この小さな農村の廃墟にオーク全員が集まっていて、それに対するこちらの人数は2人。これだけオークが密集していれば、1体ずつ順番に消していくのは不可能だった。
案の定、孤立気味だった1体をこっそり殺したところ、即座に他のオークに気付かれた。
そこからすぐに囲まれ、対複数戦を強いられる現在に至る。
残りのオークは6体、3体ずつが私とヴァレンシアに張り付いていた。
オーク達を挟んで私とヴァレンシアは戦っているが、これはオークに分断されたといっていい。
獣もどきの分際で、無駄に整った連携を見せてくるため、厄介極まりない。
こちらの助力を断ったヴァレンシアはというと、同じく連携を駆使されているが立場は完全に逆だ。3体のオークを完全に翻弄している。
しかしヴァレンシアはオークを殺そうともしていない。牽制程度に魔法や剣を振るい、距離を保つだけだ。その合間にこちらをチラチラと見てくる。
ヴァレンシアが言わんとしていることはもう分かっている。
ヴァレンシアはもうオークを10体殺した、だから残り半分は、まだ4体しかころしていない私が殺れ、ということだ。
私まだ子供なうえに、軍の訓練所を出て1年と少ししか経っていないのに。
なんでこんな糞どもと命のやり取りをまたやっているのか。
「あああ、鬱陶しい!」
最も近い距離にいたオークが足を踏み出し、棍棒を叩き込まんと腕を上げた瞬間に剣先をその分厚い太ももに突き刺す。
オークが上げる野太い悲鳴に顔を顰めながら、脚を庇おうとして前傾姿勢になるオークの顔面に蹴りを放った。
とどめを刺すために頭を鉄槌でカチ割ろうとしたが、脇にいた別のオークに阻止される。
決して素晴らしい連携とは言えないが、本当に面倒だ。
邪魔だ、本当に邪魔だ……。
「邪魔だ!!」
割って入ってきたオークの脇腹に鉄槌を打ち込み、呻き声を出す前にその喉笛を切り裂いた。
剣を振るった勢いのまま横に蹴り倒すと、喉元から血を噴き出しながらオークは絶命していく。
脚を押さえながら立ち上がろうとするオークに向かって跳躍し、今度こそ脳天に鉄槌を叩き込んでやった。
ひしゃげた頭蓋から血とともにドロリとした何かがそのオークの命とともに零れ落ちる。
その光景に足をすくわせている別のオークに視線を移し、どこを狙うか見定めながら鉄槌を手元で回して弄ぶ。
そしてすぐに距離を詰め、オークの膨れた腹に剣を走らせた―――――
「……はあ、疲れた」
ヴァレンシアのそばにいた最後のオークを殺し終え、ぼそりと呟く。
「お疲れ、アリスちゃん!良い戦いだったよ、正直ここまでやれるとは思ってなかったかも」
「……あ、危なかったですよ……」
結局、残り6体に対してヴァレンシアは本当に手を出さなかった。出してくれなかった。
ここまでやった自分を自分で褒めてやりたい。
「これで、仕事は終わりですか」
「いや、まだだよ」
そこでヴァレンシアの顔から笑みが消え、いつになく真面目な顔を見せた。
「……何か?」
「多分、あっちかな」
ヴァレンシアが剣先で、20メートルほど先の崩れかけた建物を示す。
元は教会だったらしく、朽ちてはいるが残骸でどうにかそうだと分かる。
ヴァレンシアと一緒に、どうにか扉の機能を保っている入り口を開けると、そこにはオークがいた。
「これは……」
「この農村にオークが住み着いてから、それなりに時間が経っていたんだろうね。すると、大抵『こういう』のも湧くんだ」
目の前には、小さなオークが10体近く固まってうずくまっていた。
小動物のような愛らしさも感じられ、これがあの醜悪なオークに成長するとは俄かに信じられない。
こちらを見る目には明らかに怯えの色があり、それぞれが手を取り合って震えている。
建物の崩れた箇所から、先程の光景を見ていたのかもしれない。
そう、ここにいるのはオークの子供達だ。




