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勇者ではなく、英雄ですらなく  作者: マンディ
美しくも理不尽な世界へ
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始まる冒険譚、あるいは犬死Ⅴ



余計な運動とたっぷりの時間をかけた湯浴みを終えて食事を済ませた後、街に出ることにした。


滞在していた宿屋から通りを2本ほど横切ると、この街のメインである『大市』と呼ばれる巨大な市場が広がっている。


本来、大市とは年に1、2回、数週間の期間限定で一部の都市にて開催される大規模な市場だ。

しかし、この『アート・ラヤ』に限っては例外で、逆に数週間の休止期間以外はほぼ毎日大市が開催されている。


デュランスカヤ王国の中でも最も大きな交易地である経済都市とされる所以であり、あらゆる人間や物の行き交いが激しい。当然、経済だけでなく情報という面でも大いに期待できる。



「相変わらず大市はお祭り騒ぎで凄いね。アリスちゃんは実際に見るの初めてだよね?」

「はい、こんなに活気のある市場が年中行われてるなんて、信じられません」

「休止期間はまだだいぶ先のはずだから、そのうちゆっくり見て回ろうか。ここなら、必要なものが出てきたらすぐ用意できそうだし」


商売という面では各街のギルドが仕切り、外部の人間を排除する閉鎖的な街も多いが、この街では、大市であれば外国の商人も商売が可能だ。

その分、様々な武器、防具から各地の特産品や名産品までこの街で一通り揃えられる。


ひとしきり街の大通りを練り歩いてから、目的地のひとつである冒険者ギルドに向かうことにした。

1日では街の細部まで回ることができないと悟り、残りはまた別の日に行くことにして、今日は最後に冒険者ギルドで登録だけ済ませるつもりだ。




「ここがその冒険者ギルドですか……」

「中々立派だねえ」


『アート・ラヤ』の建造物は、商店や教会、宿屋、貴族の家まで大きいものばかりだったが、目の前にある冒険者ギルドの建物は一際巨大だ。


円柱型の荒々しい石造りの外壁は粗雑に見えるが、汚れは殆どなく丁寧に手入れされていることが分かる。3箇所に出入り用の両開きの扉があり、それぞれの扉の上にはこの街の冒険者ギルドの紋章があしらわれた大きな旗が靡いている。


「今更ですが、私みたいな子供でも登録は出来るのでしょうか」

「王都にいたときにアリスちゃんくらいの魔法使いの冒険者も見たことあるから、年齢的な制限はないはずだよ。私達には『レイシア・カレイユ』の推薦状もあるし、問題ないって」


ヴァレンシアが言う推薦状とは、私達の能力を『レイシア・カレイユ』の冒険者ギルドが保証する証書のようなものだ。これがあれば、この街の冒険者ギルドで登録をしても1からランクを上げる必要はなくなり、推薦状で保証された能力に応じたランクからスタートができ、仕事の幅も拡がる。

もちろん、これは『パマギヤシラ』が用意したもので、言ってしまえば偽造だ。少なくとも私は『レイシア・カレイユ』の冒険者ギルドに行ったことがないのだ。

しかし、偽造とはいえ曲がりなりにも王宮のお墨付き、手続き上は『レイシア・カレイユ』の冒険者ギルドにも記録として活動実績が改竄されており、もはや本物と区別することは不可能だろう。



重々しい扉を開くと、建物内の喧騒が一斉に耳に入り、思わず顔を顰めてしまう。


建物の内部は中央に受付があり、その周りに掲示板やテーブル、椅子のセットがいくつも並んでいる。

受付の数メートル隣には、街中にあるものにも劣らない規模の酒場が併設されており、この喧騒の一番の原因はどうやらこれらしい。


よく見ると、席に座っている殆どの者の卓上には酒と食事が並んでおり、各テーブルで談笑している。中には既に出来上がっており、仲間と肩を組んで歌っている者もいる。


そして酒や食べ物を口にする者全員が武器を携行、あるいは自身の傍らに置いていた。皆、冒険者なのだろう。

この酒場は冒険者ギルドに所属している者のみが利用できるのだろう。

仕事を終わらせ、報酬を受け取ってそのまま酒場で仲間と楽しめる。何とも合理的だ。

これもギルドの大きな収入源になっているに違いない。他の街の冒険者ギルドもこんな感じなのだろうか。



「初めまして、ですね?ようこそ『アート・ラヤ』の冒険者ギルドへ。当ギルドに何かご依頼がありましたら、こちらで承ります」


受付に行くと、若い女性が愛想よく声をかけてくる。ヴァレンシアの隣にいる私と目が合うと、一層愛想の強い笑みをこちらに向ける。


「いや、私達は冒険者として登録に来たんだ。はいこれ、前に居た街の推薦状」


驚きの表情を浮かべた受付嬢が何かを言う前に、ヴァレンシアが懐から出した推薦状を押し売りのように受付嬢に押し付けた。

困惑した顔を笑顔で隠そうとしているのか微妙な表情をした受付嬢は、推薦状に目を通して更に驚愕してみせる。


「え、ランク4ですか!?」

「そう、私だけじゃなくこの子もだからね」


受付嬢の困惑の原因は、どうも私らしい。こちらと推薦状の交互に視線を向けてくる。


「やっぱり推薦状は本物……。失礼致しました!改めまして、当ギルドへようこそお越しくださいました。我々も人手不足に悩まされているのですが、即戦力の加入は大歓迎です。では登録を行いますので、少々お待ちください」



そのまま受付嬢と口頭でいくつかやり取りを行い、最後にペンダントのようなものを手渡された。

人の眼球程度の大きさで、赤みのある透明な宝石にこの冒険者ギルドの紋章と番号が刻まれている。

この街の冒険者ギルドに登録された、正真正銘の冒険者である証だ。


これは心躍るものがある。そう、こういうのが異世界の生活ではないか。


「これで当ギルドの依頼を受けていただくことはもちろん、併設しております当ギルド員専用の酒場もご利用いただけます。早速依頼の一覧をご覧になりますか?」

「今日はやめとこうかな。明日また来るから、今後ともどうぞよろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします!」


何故かテンションが高くなっている受付嬢の視線を背にし、そのまま冒険者ギルドを後にした。


私は何も説明を受けていないが、ランク4というのはどれくらいのレベルなのだろうか。

スタートがランク1というのは知っているが、そこから考えるとそこまで上でもない気がする。


しかしヴァレンシアに聞いても、明日になれば分かるよ、と気味の悪い笑みであしらわれて終わる。

こういうときは大抵禄なことがないのを私はもう知っている。



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