始まる冒険譚、あるいは犬死Ⅳ
翌朝、起きてすぐにテントを撤収し、出発の準備をする。
既に燃え尽きた篝火の跡を挟んだ向こう側では、同じように出発の準備に勤しむ商人とその護衛の姿が見えた。
「おはようございます、リーパさん」
「おお、おはよう、ヴァレンシアさん!サトゥルーガさんもおはよう」
「おはようございます……」
朝はやはり苦手だが、そこに商人の大きな声が頭に突き刺さる。商人に悪気はないのだろうが、不快だ。
「私とサトゥルーガはもう出発できます。『アート・ラヤ』まで、よろしくお願いします」
「我々も間もなく出発できる。昨晩のようなことはもうないと願いたいが、こちらこそよろしく頼むよ」
そしてそれから数分後、『アート・ラヤ』に向け出発することとなった。
先頭を護衛の2人が進み、その後ろに商人が御者として乗る馬車、そのすぐ横をヴァレンシアが並走し、後ろを私がついていく。
「ところでヴァレンシアさん、野暮なことを聞くが『アート・ラヤ』にはどのような用件で?旅のようなものをしているとは伺ったが……」
「はい、しばらくあの街に滞在するつもりでして。宿泊先を見つけたら、冒険者ギルドにでも顔を出してまずは仕事を探そうと考えてます」
ヴァレンシアの話は、特段嘘というわけではない。実際、『アート・ラヤ』に着いたら冒険者ギルドに赴き、魔物狩りの依頼を探す予定だ。
もちろん、生活費を確保するためではない。私達は単なる冒険者ではなく、定期的にそれなりのお金が支給されることとなっている。
宿代も生活費もそれで充分に賄える。あって困るものではないので、金稼ぎも兼ねるのは悪い事ではないが。
まずは『アート・ラヤ』周辺の魔物の状況を調査するのが主な目的だ。
昨晩、商人が言っていたようにこの辺りの魔物の動向も活発気味になっているという情報はある。
街にいる軍の人間に聞くだけでも、そうした状況の把握は済みそうではあるが、先日のブラッディオークの件もあり、自分達で直接調査することになっている。
ヴァレンシア曰く、私の訓練も兼ねてとのことだ。
他にも、冒険者ギルドに入り浸り、伝手や情報網を広げることも考えている。
幸先は良かった、この先も良き出会いに巡り合えることを願うしかない。
出来れば人はもう殺したくない……。
そして陽が頭の上まで昇りきった頃、ようやく目的の街に到着した。
レイシア・カレイユよりも一回り大きな城壁に囲まれているこの街は、都市としての規模も大きい。
王都からもそれなりに近く物流が盛んであり、大規模な市場である『大市』の存在により、経済的な発展が著しい都市だ。
そして多くの商人、旅行者などが頻繁に訪れることもあり、街の存在の要である経済発展を守るため、冒険者ギルドにも常に仕事が依頼されているはずだ。
アート・ラヤの冒険者ギルドは質が高いことで知られており、それはつまり、請け負う仕事もそこそこ歯ごたえがあるものが多いということ。
私達の情報収集にもうってつけだ。
城門ではリーパが衛兵に、私達もリーパの護衛であると伝えている。
特に揉めることもなく、そのまますんなりとアート・ラヤに入ることが出来た。
この商人は、確かにこの街でもそれなりに顔が利くようだ。今後も仲良くするとしよう。
そのままリーパに案内され、活気に満ちた街の中を進むと大きな宿泊所に辿り着く。
1階が酒場になっている典型的な宿屋だが、この街では2番目の規模らしい。
ここでもリーパの口添えで、本来では考えられない格安で滞在させてもらえることになった。
上手く行き過ぎてこの先大きなトラブルに巻き込まれるのでは、と不安にもなってくるが、フラグを立てたくないので考えないようにする。
「では、私はこれで失礼するよ。もしこの街で何か不便なことがあれば、いつでも私の商会に来てくれ。これも何かの縁だ、出来ることがあれば力になろう」
「何から何まで、本当にありがとうございます。そのときは、是非ご相談させていただきます」
宿屋の受付の前でリーパと別れ、そのまま部屋に向かう。
「あー、ようやくまともに休める。話好きには少し困ったけど、あの商人も人が良くて助かったよ。まずは湯浴みだね!」
ヴァレンシアが自分の装備を外しながら、愛想笑いで凝り固まった頬をほぐす。
「そうですね、お尻も痛いですが、お風呂に入れないのが一番苦痛でした」
「少し休んだら下で食事でもして、まずは街の下見でもしようか。しばらくは拠点になる街だし、自分達が居る場所の状況も把握しておかないと、問題が起きたときに対処が遅れたら厄介だよ」
もっともらしいことをしたり顔で言うヴァレンシアだが、この人が何か問題を起こさないか心配だ。
オーク狩りのときに派手な花火をあげて、オーク共の注目を引いたことは忘れない。
「……何その顔は。何か言いたいことがあるなら言い給え、サトゥルーガ官」
「いえ、別に何も、ヴァレンシア中尉」
その後しばらく、あまり広くない部屋の中をヴァレンシアに追い掛け回された。




