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勇者ではなく、英雄ですらなく  作者: マンディ
美しくも理不尽な世界へ
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始まる冒険譚、あるいは犬死Ⅰ




オーク狩りの任務から3日後、伝達係を通じて呼び出しがあったので『パマギヤシラ』の基地に出頭する。


ヴァレンシアの家に泊まったときは、約束通り一緒に寝たが、危惧していたようなことはなく、本当に同じベッドで眠っただけだった。

しかし、私達が受けさせられるであろう任務の殉職率について言われてからは、吐き気を催すような不安に苛まされることになった。

結局、あれ以上ヴァレンシアが教えてくれることはなかったからだ。


新しい任務が、そもそもヴァレンシアが言っていたような任務とは別の仕事かもしれない、それか、ヴァレンシアがいつものように冗談を言って私をからかっていたのかもしれない。

自分にそう言い聞かせて今、基地の前まで来ているが、とっても入りたくない。


しかし、このままいても仕方ない。



意を決して基地に入ると、オレカヴァが待ち構えていた。


「おはようございます、サトゥルーガ。ヴァレンシア中尉は既にシュトーム少佐の執務室で待っていますよ」


そのまま真っ直ぐシュトームの執務室に入ると、シュトームが厳つい笑みを見せる。

執務室の中央に位置する応接用のソファーには、長い脚を見せつけるように組んで気だるそうにしているヴァレンシアがいた。


「おはよう、アリスちゃん」

「待っていたぞ、サトゥルーガ。君もそこに掛けてくれ」


シュトームに勧められるままヴァレンシアの隣に座ると、オレカヴァが対面に腰かける。


「サトゥルーガにヴァレンシア中尉、先日のオーク狩りはご苦労だった。こちらにも犠牲者が出たのは残念だが、まさかブラッディオークが2体も出現するとはな。よくぞ対処してくれた」


シュトームが賛辞を述べるが、その顔は険しくなっていく。

やはり実感が湧かないが、ブラッディオークとやらの出現はそこまで問題視されるものなのだろうか。


「他の基地からの報告も受けたが、やはり貴官らの働きは大きい。ヴァレンシアは勿論のことながら、サトゥルーガ、貴官がここまで活躍するとは思いもしなかった。まさか、ヴァレンシアと並んでブラッディオークをほぼ単独で殺す程とは、素晴らしい戦果だ。流石、かつて英雄を追い詰めただけあるな」

「何それ詳しく」

「いえ、実際に私だけで為した事ではありませんから」


突如食いついてきたヴァレンシアを無視し、謙遜する。

だいたい、ヴァレンシア自身だって化け物だ。彼女こそ、本当に単独で容易くあの赤いオークを殺していた。


「相変わらず年齢に似つかわず謙虚だな」


シュトームが苦笑する。私の横では、無視されたヴァレンシアがふてくされていた。

そんなヴァレンシアを横目で見て噴き出してしまったが、それに気付いたヴァレンシアが睨みつけてくる。


「そんな貴官らの功が見込まれ、この度、新たな任務に従事してもらうこととなった」


シュトームが姿勢を正し、改まって口を開く。


嫌な予感がする。いつもと違い、こんな仰々しく任務の伝達がされることは今までなかった。

こちらが浮かべる疑問に答えるように、シュトームが説明を始める。


「これからの任務は、端的に言えば長期間、長距離の偵察任務だ。名目は偵察とはいえ、実際の内容は多岐に渡る。そもそもの目的は情報収集、分析が主になる」


やっぱりヴァレンシアが言っていた通りの任務になりそうだ。


「一体何に関する情報でしょうか」

「近年、魔物の動向が活発になっている。その情勢について、各地を飛び回り情報収集を行なってほしい。無論、それだけではなく、王国に関する情勢、他国の動き、必要があれば別途指示が入るだろう。それを、君達2人にやってもらう。誇るといい、これは王宮から貴官らに託された任務だ」


それは誉れ高い任務だ。しかし、ヴァレンシアの言っていた殉職率の高さや、何故『パマギヤシラ』が行なうものか、はっきりしない。


「ちなみにこの任務の前任者はどうなった?確か5組くらいこの任務に従事しているはずでしょ」


ヴァレンシアがニヤつきながらオレカヴァに問いかける。

オレカヴァは隠すことでもないというように、淡々と答えた。


「1週間程前の報告では、3組はまだ健在のようですが、2組は殉職したようです。うち1組にあっては強力な魔物に遭遇したようで、遺体の確認すら出来ていませんが、遺品からみて間違いないでしょうね」

「だってさ、アリスちゃん」


ニヤつき顔をこちらに向けるヴァレンシア。絶対に答えを知っていた。私の反応を見て楽しんでいる。

下手したらオレカヴァも一緒に愉悦に浸ろうとした可能性まである。


こいつら……!


「この任務では危険な目にあうことも多々あるだろう。先ほども言ったように、偵察や情報収集だけではない。単なる偵察や情報収集だけなら正規の軍で間に合うからだ。我々の本懐は『勇者の助力』。勇者や王国の障害になり得るものがあれば、その武力をもって排除してもらうことになる」


なるほど、殉職率の高さはそれが原因か。

抽象的な説明が多いために分かりにくいが、要はあちこちを回って都合が悪いものを見つけたらお前らで対処しろ、危ないこともあるがやりがいがあるから頑張れ、ということだろう。

中には汚いことに手を染めるから軍やギルドには頼めないのだ。


「要するに、死ぬかもしれないけど各地を巡って勇者様のために色々とやれ、ってことでしょ」


ヴァレンシアが上官の前で、私の思ったことを代弁してくれた。

馬鹿かこの人は。


「それだけ、貴官らには期待がかかっているということだ。こちらも出来る支援は惜しまない。ヴァレンシア中尉、サトゥルーガを導いてやってくれ。貴官らは将来、この国にとって欠かせない人材になることを私も確信している」

「だってさ、アリスちゃん。これから長い旅になるけど、よろしくね」


投げやりな決意表明を寄越すヴァレンシア。まさか本当にこんなことになるなんて……。

もはや不安を通り越して楽しみになってきた。


今までの任務と違い、現地でこちらの自由裁量により行動できるのだ。そう考えれば、細かい目的のある冒険と大差ない。


「2日後に出発になるが、その際また基地に来てくれ。貴官らに渡すものがある。それまで、貴官らも準備するといい。準備金はあとでオレカヴァ大尉から支給される、足しにしてくれ」


まるで手向けだ。



せめて、この任務が私の幸せに繋がることを心の底から祈りながら、ヴァレンシアとともに席を立つ。



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