終わりの報告、始まりの知らせ
レイシア・カレイユに到着したのは夕刻だった。
随分と懐かしく感じる城門をくぐり、ヴァレンシアとともに『パマギヤシラ』の基地に向かう。
先に家に帰って身体を清めたいと言ったが、任務終了の報告が先だよ、とヴァレンシアに諭された。
意外と真面目なんだなと感心したが、お楽しみはその後で、と付け加えやがったので逃走を図るも一瞬で捕まる。
「アリスちゃんが言い出したんだから、約束は守ってもらうぞ!」
オーク狩りのときのような気迫でそんなことをのたまうヴァレンシア。仲間の死は無意味だったのではないかと悩んでいた気配は欠片も残っていない。
そもそもあれを本気でとられるとは思わなかった。
この人にはペドフィリアの気があるのではないか。
「約束を破りそうなのは貴方でしょう!寝てあげますけど、私に触らないでくださいよ!私は寝るとしか言ってないですからね!聞いてるんですか!?」
こちらの話を聞かないヴァレンシアに引き摺られながら基地に入ると、オレカヴァが独りで待っていた。
シュトームは留守にしているようだ。
「お待ちしておりました、任務ご苦労様でした。」
「久しぶりだね、オレカヴァ大尉」
ヴァレンシアが親しげに声をかける。
それに対し、オレカヴァも気軽に返す。
元々顔見知りだったのだろうか。
「ええ、あなたも元気そうですね、ヴァレンシア中尉。それにしても、サトゥルーガ官とは随分仲が良さそうですね」
「うん、今日は一緒に寝るしね」
突拍子もなく馬鹿なことを上官に告げるヴァレンシアだが、オレカヴァはそれに反応を示すことなく、こちらに目を向けた。
「あなたも大変そうですね、サトゥルーガ」
「そうお思いなら、助けて頂けませんか」
ヴァレンシアに腕を掴まれたまま、こっちは半分本気で伝えたのだが、オレカヴァは鼻で笑われただけで、特に何も言わなかった。
ヴァレンシアもヴァレンシアだが、この人も大概だ。
「任務のおおよその報告は受けています。こちらにもそれなりに犠牲があったようですね」
「そうね、任務は成功したけどブラッディオークを相手にするとは思わなかった。
もしあのままあの集落を放置してたら、厄介なことになってたね」
ヴァレンシアの言う通り、ブラッディオークがあのような街の近くに現れた例はなく、本来は人間が立ち寄らない場所、大規模なオークの集落にしかいない。
それこそ、ダンジョンのような魔物の巣窟にいることが多い。
逆に言えば、ブラッディオークが住み着いていたあの集落は、今回の任務がなければ手がつけられない規模まで膨れ上がり、あの森一帯が危険地帯となっていたことだろう。
ぽつりと、オレカヴァが口を開く。
「……これはあなたとサトゥルーガ官にのみお話ししますが、最近似たような情報が各地から上がってきています。」
「厄介な魔物が普段出てこない所で現れてるって?怖いねー」
「そうです、侵攻といってもいいでしょう。『魔王』にこそ動きは見られないようですが、魔物の活発化は確かです」
魔王、魔王か……。魔王については未だにはっきりとした話を聞いたことがないので、げその存在にはいまいち現実味が感じられない。
それが目の前で、大人2人が『魔王』と口にしているのを見るのはシュールだ。
「そっか、私達も忙しくなりそうだね」
「近々、また任務の通達があるでしょう。それまではどうか、ゆっくりしていてください」
露骨に嫌な顔を見せるヴァレンシアだったが、ふと何かを思い出したように、
「そうそう、今回の任務ではアリスが大活躍したんだよ。私とアリスで、1体ずつブラッディオークを殺したんだから、今運搬させてる死体の素材は優先的に私達に回してよ」
「そうでしたか、あなたはともかく、サトゥルーガ官の活躍は素晴らしいですね。そのうち、お祝いでもしてあげましょう」
「いえ、私は1人でブラッディオークに勝ったわけでは……」
勝手に盛り上がる2人だったが、これはこれで悪い気がしない。
まあ、大嘘というわけでもないし。
「素材も有効活用して、今後も任務に励んで頂きましょう。それとヴァレンシア、あなたにまた例の話が来ていますが―――」
「いや、その話はいい。聞きたくない」
例の話とは何だろうか。私の前ではっきり言わないということは、聞いても教えてもらえないが何だか気になる。
「そうですか、分かりました。では、次の任務までは休養していてください。
しばらくは御二人に活躍してもらうことになるでしょうし」
……しばらくは御二人に活躍してもらう?
「オレカヴァ大尉、それはどういうことでしょうか」
「シュトーム曰く、今回の任務の結果次第では、ヴァレンシア中尉と組んで任務をこなしてもらうとのことでしたが、これなら大丈夫でしょう。
良かったですね、きっと華々しい任務が増えますよ」
オレカヴァが珍しく笑顔を見せて淡々と告げる。わざと不気味な笑みを作っているように見えるのは気のせいではだろう。
一方のヴァレンシアに目を向けると、こちらはこちらで怖い笑顔を浮かべている。
「それは朗報だね、アリス。今夜は今後のために、もっと親睦を深めようか」
逃げるように基地を出ようとしたが、すぐに首根っこを摑まえられ、ご機嫌のヴァレンシアに引き摺られながら基地を後にすることとなった。




