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魔獣に対抗するための手段として『魔法』が確立される以前から、世界中に魔法はあった。
ただし魔法を使える者は限りなく無に近く、一般の人々からすれば魔法なんていうのは空想上の産物、絵空事のような認識であり――それらは限られた特殊な人々にしか使うことができない奇跡だった。
「エリシャが得意とするのは、今の魔法のように体系化された誰もが使える魔術ではなく、固有魔法なんだ。」
「固有魔法というと……術式や呪文を必要としない先天的に使える超能力や、後天的に芽生える奇跡の力のことですよね?」
「ああ。おまえの『神眼』も、一応固有魔法の一種だから、同類と言えば同類だな。」
「でも……僕は落ちこぼれですけど、固有魔法の使い手=落ちこぼれではないですよね?」
ガルディウスが落ちこぼれなのは、極端に低すぎる魔力値と、知識レベルの問題であり、『神眼』が原因となっているわけではない。
「まあ、必ずしもイコールではない……が、統計的に固有魔法の使い手は、固有魔法以外の魔法が苦手な者が多いのは事実だ。固有魔法と体系化された魔法は、使い方が根本から違うからな。固有魔法が使える者にとっては、体系化された魔法がかえって使いにくいというのは、ままある話だ。エリシャはそのうちの一人――否、むしろその最たる例と言えるだろうな。」
「どんな固有魔法の使い手なんですか?」
「『癒し』だ。」
治療や補助系の術が多い神聖魔術や他の魔術の中にも、癒しの魔法は数多く存在する。
しかし、固有魔法の『癒し』はそれとは似て異なるものだ。
一般的な癒しの魔法は消費魔力にその効果が比例する上、その行使には効果に応じた医療知識が必要になる。
回復力を活性化することで治癒の追いつく、かすり傷や軽傷程度であればともかく――重症の治癒に必要な知識は並みの医者を超える。
高い魔力と、高度な医療知識――そんな一般的な治癒魔法に必要とされるものを度外視した、規格外の超魔法が固有魔法の『癒し』である。
「癒し……だから、通常より癒しの術は効果が高いということですか?」
だから小治癒は普通の人優れているけど、他の魔法は出来が悪くて落ちこぼれているということなのか――そう考えたガルディウスの言葉を、ユハスは一笑する。
「それで済めば良かったんだがな。エリシャの固有魔法による弊害はそんな生易しいものじゃない。口で説明するより、馬鹿は見た方が早いか……おい、エリシャ。ファイアーボールでも見せてやれ。」
ユハスの言葉に、おずおずとディアラの背中から顔を出したエリシャは、涙目で首を横に振るが――
「ほう、拒否か?……そんな権利があるとでも?」
目を細めたユハスのそんな一言に、エリシャはプルプル震えながらもディアラの背後からあきらめたように出てきた。
「や、やります。」
悲壮な表情でそう言うエリシャの姿に、バーデルは自分を見ているような気分になった。
(おまえもユハスに逆らえないんだな……)
同志を見つけ、親近感を覚えるバーデルであったが――
「とりあえずバーデルにファイアーボールだ。」
「わ、わかりました。」
他人ごとではない命令と受諾に、それどころではなくなった。
補足:
ガルディウスの生まれ持った『神眼』は、固有魔法に分類されますが、魔術によって付与された『神眼』は、固有魔法ではありません。
ユハスが一応と言っているのは、『神眼』は一般的な魔法でよく再現されている固有魔法のためです。




