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身の危険を感じ、距離を取ろうとしたバーデルに先んじて動いた者がいた。
「俊敏なおまえが動いたら当てるの難しいんだから、じっとしてろ?」
そう言ってディアラがバーデルを背後から拘束した。
ディアラは女性ではあるが――体格的にも筋力的にもバーデルより優れてる。
俊敏性でこそバーデルが勝るが、こうして先んじて背後から拘束されれば、バーデルに逃れる術はない。
「くそっ、放せ!味方パーティーからの攻撃をなんで受けなきゃならないんだ!」
当然の主張だが、ユハスは嘲笑う。
「おまえが言うと笑える台詞だな。」
バーデルは、本人の意志は関係なしに脅威の味方攻撃率を誇る、学院内における味方攻撃の代名詞だ。『標準狂いの狂戦士』の異名まで持つバーデルが、いつも言われている台詞を言っていることをユハスは揶揄する。
「俺のはわざとじゃない!」
「そっちの方が性質が悪いと思うが?」
「う、うるさい!性格の性質が悪いおまえに言われたくない!」
憤死しそうな勢いで憤るバーデルを、ディアラは背後から宥める。
「まあまあ。俺も一緒に受けるんだし安心しろよ。」
「おまえの異名を知っていて安心できるわけねーよ!」
逃れられないのを承知の上で、それでも暴れるのをやめないバーデルの台詞にガルディウスは首を捻る。
「……異名?」
「ディアラもバーデル同様、不名誉な異名持ちだ。」
「どんな異名を持ってるんですか?」
「近いうちにわかるさ。それよりエリシャ。さっさとやれ。」
「は、はい!」
ユハスに促されて、エリシャは詠唱を開始する。
「炎の精霊サラマンダーよ 我は魔法使いイザナールに連なる者 契約の名のもとにその力を乞い願う……」
正式な手順を踏んだ精霊魔法の基礎とも呼ばれる初級の火属性攻撃魔法――
「ファイアーボール!」
適正な魔力量、丁寧な魔力コントロールの元生み出された、お手本のような炎の玉がバーデルたちを襲う!
「ぎゃあーーっ!!」
バーデルの絶叫。
その後に残されたのは――
「「……あ、あれ?」」
予想外の結末に、バーデルとガルディウスの声が重なった。
拘束を解いたディアラから解放されたバーデルは、自らも体を見おろして眉を寄せる。
「……熱くも、痛くもなかったぞ?」
全く火傷などない体。感覚的にもダメージはない。
ガルディウスも驚きからバーデルをまじまじと見つめる。
「装備も全然燃えてませんね。」
耐火性に優れるわけでもないただの丈夫な布にすぎない部分にも、焦げ跡一つ存在しない。
「どうなってるんだ?」
首を捻る二人に、ユハスは言う。
「簡潔に言えば、見た目も手順も完璧なファイアーボールだが――効果は『癒し』でしかないのさ。」
魔法科1年、『癒し』の固有魔法持ちであるエリシャ。
彼女はどんな魔術も『癒し』にしてしまうという、落ちこぼれ魔法使いなのである。
エリシャは癒しの魔術以外での実技はどれも落ちこぼれですが、筆記はどの授業でも優秀です。
知識量、魔力コントロールともに優秀でありながら、固有魔法の弊害のために落ちこぼれてしまっている生徒です。




