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ガルディウスとは逆にペア希望者には事欠かないのが、魔法も武闘も一年最強と噂されるクロードである。
そんなクロードは、魔導水目当てのユハスとともに、またもサザーラの院内クエストでシモンの洞窟へと潜っていた。
「学武会間近で院内クエストとは、余裕だな。もうパートナーは決めたのか?」
クロードの目的は勿論紋章術実技一位の一年生――ガルディウスであるのだが、それを知っていながら素知らぬ顔で問いかけるユハスに、クロードは頷く。
「ああ。武闘科のフェリクスだ。」
フェリクスは、一年の武闘科で一番の実力者だ。
魔法科ながらに武闘科授業でも一位の成績を叩きだしてきたクロードは、武闘に限定してもフェリクスを上回る成績なのだが、クロードの本分は武術ではなく魔法にある。
学武会においては魔法科として後衛役に徹するつもりで、前衛役として最高位にいるフェリクスをパートナーに選んだ。
武闘科の中には、武闘科の授業で圧倒的な力量を示すクロードに対し、魔法科のくせにと負の感情をを持つ生徒もいるが、フェリクスにはそういう所もなく、寮のルームメイトということもあって気心も知れている。
「面白味はないが、妥当だな。他を寄せ付けない圧倒的な優勝が目に見える。」
皮肉気に笑うユハスに、クロードは肩をすくめる。
魔法科一位と武闘科一位の最強ペアである。
「確かに同じ一年相手でフェリクスと組んで負ける気はしないな。」
自惚れる気はないが、謙遜もしない。
フェリクスに対する信頼と、自分の力への自負。
そんなクロードの言葉に、ユハスはニヤリと笑った。
「そいつは条件にもよると思うが。」
「……条件?」
「ああ。おまえがもし、後衛に徹するのなら――勝つとは限らないと、俺は思うぞ。」
学武会において後衛が前衛のような近接戦闘を行うことが禁止されているわけではないのだ。
とはいえ――評価点の加算にはならず、どちらかといえば減点につながりかねない行為ではある。
「もとより後衛に徹するつもりだが……そんな強力なペアがいるか?」
魔法科と武闘科の上位生徒の実力は大体把握している。
しかし、誰が組んだとしても、それほど脅威とは思えないのだ。
実力がはっきりせず気になる一年と言えば紋章術の実技一位の生徒だが――実戦向きとは言い難い紋章術を主体に使う魔法使いが、実戦形式のトーナメントで脅威となるとは思えない。
心当たりがなく首を傾げるクロードに、ユハス不敵に笑った。
「お前のような鼻につく天才への嫌がらせに、俺が用意してやろう。」
「……おまえが絡むわけか。まさか一年生相手に人体実験とかしてない、よな?」
ユハスの底意地悪い研究成果が背後にあるとなれば、確かにそれは油断できない。
どんな性質の悪い仕掛けがされているか、想像するだけで暗澹たる気持ちになる。
「さてな。学武会でのお楽しみだ。」
底意地悪く笑うユハスに、クロードは溜息を吐いた。
(俺自身にも危機感はあるが、それ以上にその対象にされる相手がどんな目にあうか……気の毒すぎる。)
かといって、どう言ったところで人の言うことを聞くとは思えない厄介な幼馴染に、クロードはただ良心を痛める意外にできることはないのである。




