10話:悪魔の光景、ルリイズムの聖典
病室の冷たい無機質な天井が、気づけばピンク色に染まっている。
カノンが聖母のような、しかし底知れない虚無を宿した笑みで箱山を見下ろしている。
「箱山くん♡ 貴方なら、私の信じる『ルリルリ』の正当な教義を継承できるわ。そうよね?」
箱山はベッドの上で身じろぎする。意識は混濁しているが、その瞳にはカノンの姿が鮮明に映る。
「さぁ、この布教活動を片っ端から始めましょう。資金は……そうね、貴方の全資産と、今後一生分の労働力を担保にすればいいわ」
「……全資産? 布教……?」
「ルリルリへの課金のために! 貴方の知性も、論理も、すべてはルリルリのチェキを1枚でも多く手に入れるための『リソース』なのよ。ほら、計算して? 貴方が今、この瞬間も無駄にしている呼吸を、ルリルリへの祈りに変換する計算式を!」
カノンが箱山の額に冷たい指先を押し当てる。その瞬間、箱山の脳内に大量のチェキ画像と、意味不明な「ルリイズム」の経典がインストールされていく。
「う、うあぁ……!偏差値が……僕の、完璧に構築された計算式が、すべて『ルリルリへの献金』という関数に置き換えられていく……ッ!!」
「いい子ね。葵ちゃんへの家庭教師? あら、あれはルリルリのCDを全国の書店に並べるための、ただの『資金調達ミッション』よ。さぁ、もっと私に貢いで。貴方の人生という名のチケットを、全部ルリルリに捧げて?」
箱山は叫び声を上げて目覚める。
それはかなり生々しい悪夢そのものであった。
心拍数は異常値を叩き出し、脂汗が病衣を濡らしている。
「……ッ、ハァ、ハァ……!!……なんだ、今の……」
薄暗い病室。
手元にあるのはルリルリのチケットではなく、無機質な点滴のチューブだけだ。
「……ルリイズム……チェキ……。……あんなもの、論理的整合性が皆無の、ただの集金装置だ。……なのに、なぜだ。
……なぜ、僕の心臓は今も『ルリルリ』を求めて律動している……ッ!!」
箱山は自身の胸を掴み、戦慄する。
彼が一番恐れていたのは「カノンに利用されること」ではなく、
「自分が進んでルリイズムの教徒になり、カノンに貢ぐことを至上の喜びだと錯覚すること」だった。
この度は家庭教師コメディをお読みいただきありがとうございます!明日も12時10分に次話を更新します。
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なお、夜は20時10分に毎日更新している別作品で『告解者』という完全シリアスなサイコサスペンスも書いておりますので、もしよろしければお読みいただけると嬉しいです★




