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アキレアの生い立ちの巻

 気が立っているアキレアは早足になる、本当なら杖で殴りつけながら言ってやりたいと思っている内容をブツブツ吐き出すのだ。


「まったく、無知な奴は無知であり続けることで現状を変えることを拒む! そのせいで自分が不利益を被っても、都合のいい理由をでっち上げて現実を直視しない!」

「よく、堪えてくれたわ……」


 彼女の価値観において徳義にもとる相手にはいきなり喧嘩をふっかけてくる狂犬気質だが、自制する努力はしていることをアンジェリカは知っている、そして自分がパーティを去ったとき一番心配なのがアキレアだ。


 !?

「あたしは冷静だもん」怒りに満ちた表情で笑う「冷静じゃなかったらあの愚物を消し炭にしてる!」


「ちょっと冷静じゃないわね……」


 キレやすくて向こう見ずなところは嫌っている筈の冒険者らしいが、本来好奇心旺盛だし、落ち着いている時は思慮深く、反社会的な発言が多い割に変なところでモラリストなので、好奇心などという余裕はなく、一発逆転を夢見ていて長期的な視点が存在しない冒険者たちとは反りが合わない。


「アンジェさん……」


 アキレアはしんどくなると必ずアンジェリカにしがみつき胸に顔を押し付けて甘える、嬉しい時もじゃれついて甘えてくる、アキレアはアンジェリカのことが大好きだし、そんなアキレアのことをアンジェリカもかわいくてしょうがない、公平でいようと思ってはいるが、彼女の正義感が理解できるというだけではなく、どこか贔屓目に見ているのではないだろうか、と思うことがある。


「どうしてこうなんだろ……」


 それは冒険者だけではない、自分自身に対しても思っていることだ。

 落ち着いてくれば、衣食足りて礼節を知るという言葉の通り、冒険者にありがちな場当たり的な気質の多くは余裕のない生活にに起因していることくらいアキレアだって理解っているのだ。


 余裕のなさから育った習慣は、腕が上がり遺跡の遺物で武装し、生活が楽になっても染みついてしまうことが多く、その力で乱獲をするのだから大変なことになる。

 強者が討伐と称して行う殺戮により、有用な素材が取れるとされる希少な魔物の中には個体数が激減しているものもあり、当然素材の値段は当然高騰することを問題視する向きはあるが、魔法使いなどのインテリですら「どうせ自分たちが言ってもしょうがない、であれば乱獲できるうちに乱獲して儲けておくか」などと考えている現実が彼女の過激な言動を誘発するのだ。


 魔女の教えにある「この世のありとあらゆるものは、子孫から借りているものである」というものは、アキレアにとって重要な指針だ。

 彼女は貧乏な農民の末娘……いや、五歳の頃に弟が産まれたがすぐに死んでいる。


 弟の死から一か月程度後のこと、森で兄とはぐれて人形を片手に泣いていたところを三人の魔女に拾われた。家族がそのうち迎えに来てくれることを待っていたし、街に出たときも探してくれてはいたが、家族がアキレアを見つけてはくれなかった。


 魔女たちは彼女を可愛がったし、老魔女コルディリネは先生、二人の姉弟子、年上で冗談が好きな大姉様(おおねえさま)、まだ子供で植物が好きなほうを小姉様(ちいねえさま)と呼んで慕うようになった。


 魔女は古来より身寄りなき女子の救済措置として機能している、かつて人々は土着信仰的な価値観を持つ魔女を人々は頼りつつも忌んでいたのだが、帝国の勢力拡大に伴う動乱によりうまれた大量の孤児を受け入れた魔女の数が増加、通常ならば帝国を恨み危険因子となるところだが弾圧は避け、異教の神は聖教における天使であるとしてうまく習合しつつ、さらに在野の知識人である彼女らに教育者としての立場を与えることで味方に引き入れ、社会的地位の向上により魔女の反抗心を緩和させた上に、魔女が民衆に読み書き計算を教えたことで帝国全体の教育水準が劇的な向上、それがきっかけとなりここ数百年、帝国内に字の読めない者はほとんどなく、それが繁栄の礎となったことは言うまでもない。


 そして、その習合の中で聖女なる女性の宗教指導者も生まれ、その力も帝国の快進撃を支えることとなった、兎角魔女という異教の者も上手く自陣営に取り込んだことは、帝国の重要な成功体験であり、その成功体験をもとに周辺で暮らす様々な文化を持つ集団を取り込むことでさらなる繁栄を生んだ一方混乱も生まれ、また同時に教育レベルが上がることで、帝国の在り様に疑問を抱く者が生まれたことは言うまでもなく、現在はそこを抑え込むため愚民化政策や、国民を監視する流れを作った結果、国力は低下し続けている。



 話を戻そう。

 薬草のことや歴史、それから人間のことなど、魔法だけではなく様々な事を教わった。先生の元には様々な人が尋ねてきたし、色々な人に会い色々なものをみる、それも魔女の修行の一環だったのだろう。

 ただ、不幸にも彼女は内気な性格な上に、周りには同年代の子供が殆どおらず、専ら関わる人間は年上で、人形やぬいぐるみが友達だった。


 先生は後進を育てる才があった、それは魔法の才能があったからではなく、寧ろ不足していたからこそどこに躓くのか、どうしたら解決出来るかを試行錯誤し続けた結果のものであり、彼女の執筆した教本が魔法の入門書として広く使われているほどだ。


 先生は常々こう言っている、転んでは立ち上がり、転んでは立ち上がる、そうやって魔女の年輪は刻まれてゆくと。


 アキレアの稀に見る才能と先生の教育者としての能力も相まって信じられないほど速く躓くことなく、魔法を習熟してゆく、最初は魔女達も驚きつつも喜んでいたが、箒で空を飛びつつ風の魔法で加速や急旋回するといった危険な遊びや、どこで覚えてきたのか強力な氷の魔法で夏の湖に足場や小島を作る、そしてできるようになる喜びもあって、古く難しい魔導書も読み漁り習得する、周囲は早い段階でその才能が普通ではないことに気づき、彼女の将来について頭を悩ませることとなった。


 先生にとっては最後の弟子になるだろうし、姉弟子にとっても歳の離れた妹みたいなもので、過保護になったところもある……挫折を知らずに育った者は立ち上がる術を知らずに育ったということでもあるのだ。



 10歳の時、街で姉弟子たちとはぐれたとき偶然街で兄と再会する。子供の成長は早く五年たてばもう別人だが、額と頬の両サイドに丁度正三角形を描くようにほくろがあったため一目でわかった。


 五年ぶりに会った兄に勇気を出して声をかけアキレアだと告げたが、こわばった顔でそんな奴は知らんと、逃げるようにどこかへ去っていった。


 先生達には兄に会ったことは言えなかった。

 薄々感づいてはいたが、はぐれたのではなく口減らしの為に森に捨てられたという事実を認めざるを得なかった。


 捨てられる前日、久しぶりに母に抱かれて眠り、乳も吸ったことを思い出す……母は哀しそうな顔をしていた気がする。口減らしはやむを得ないことだった、でも今もこうしてあたしは生きているし、先生も姉様たちも可愛がってくれている、だから家族を恨むまい、アキレアはそう思うことにした……死んで生まれてきた弟の濡れた小さな手を思い出す、あの乳は本当は弟が吸うはずのものだったのだろう……ふと、口減らしという言葉が脳裏を過る……死因を追求するまい、ただ……豊かなら助かる命だったと思う。


 この世のありとあらゆるものは子孫から借りているものである……つまり、自分が口減らしされたことで、会うこともないであろう甥や姪に返すことができるのだ。

 彼女が資源管理に異常に拘るのも、それが不幸を減らすという考えが根底にある。


 時が経つにつれ、髪を自分で編むようになったし、姉弟子たちにべったり甘える時間も短くなってゆくにつれ、いつまでも子供ではいられないことを感じていた。


 ある日、尋ねてきた姉弟子のエリート魔女ヴィオラに魔法を見せると丸くして驚いていた、先生達も驚いていた、その成長は推定を大きく上回っているものだったからだ。


「この才能を眠らせておくのは魔法界の損失ですよ」とヴィオラは英才教育を進めてきたが、先生は今はまだ……と渋い顔をしていたし、アキレアも三人と離ればなれになるのは嫌だったが、一方で友達も出来るなんて言われたら、心も揺れ動く……先生も姉様たちも大好きだけど、やっぱり友達は欲しいし、怖い気もするけど、もっと知らない世界を見たいという気持ちもある。


 12歳になったアキレアは先生達の許を離れて中央の教育機関へ行くことを決意する。先生達は渋い顔をしていたが、先生ももう歳だし、姉弟子ふたりだっていつまでもアキレアのお守りはしていられない、それに過保護だったかもしれないという気持ち、何より強い力を持ちながらその使い方がわからなければ、自他共に不幸にしてしまうことだろうと考えたのだ。


 色々と心配ではあったのだがアキレアの意思を尊重し「無闇やたらと力を見せびらかしたりしちゃダメ」という忠告と「嫌になったらすぐに戻っておいで」と真新しい大きめのローブを何着か、それから帽子を用意してくれた。


 旅立つ前日、久しぶりに小姉様に髪を編んで貰ったり大姉様と一緒に寝た、小さい頃から辛いことがあると大姉様の胸に顔をこすりつけるように押し付けて甘えていたが、これが最後になるのかなと思うとなんだか少し悲しかった。

 人形やぬいぐるみは家に残って貰った、全員連れてはいけないし、連れてく子と連れて行かない子を分けるのはとても悲しいことだから。


 先生は言う「生きていたら取り返しの付かない間違いを犯してしまうこともあるけど、それが自分の行く末を照らす明かりになることもあるから」と。


 中央の教育機関に連れてこられたエリート候補生達は皆15歳くらいで、アキレアが拾われたときの大姉様はこれくらいの歳だった。

 アキレアは飛び級生というわけだ。


 今なお魔女の担い手の多くは孤児や捨て子であり、自分たちのような子供が減ることを望んでいるもの、そうなれば魔女の数は減り、継承されず失われる魔法や知恵もあるというジレンマがある。帝国の土台が揺らいでいる今、世界が変わり徒弟制が成り立たない時代が来ても、魔女が伝えてきたものを存続させるための手段を模索しており、学校もその一つなのだろう。


 入学したアキレアは薄々感じていた不安、友達ってどうやって作ればいいか解らないことをハッキリ自覚する、案外実地に行けばなんとかなるだろうと思っていたが、全くそんなことはなかった。


 一応自己紹介の場でそれぞれが自分の魔法を見せる、アキレアは思った「これはみんなに認めて貰えるチャンスなのでは?」と。

 みんな華やかでお洒落な感じで魔法を見せている、なんとなくこんな感じでやればいいのかな? というはわかったが、それを模倣しても所詮人まねだ。


 なんか自分の魔法はすごいみたいだし「すっごーい!」「アキレアちゃんかっこいいー!」「なでなでさせてー」みたいな感じで人気者になれるのでは? と夢想する。


 そこでアキレアがやったことは、家の古い魔法書にあった火球の魔法「焦華」を天空に何発かぶっ放すということ「きれーい」「花火みたーい」という大喝采……を期待していたが結果は違った、焦華はその威力から軽々しく扱ってよい魔法ではなく、それを連射する姿に周囲は恐怖を覚えたのだ。


 力を無闇に見せびらかしちゃ駄目と忠告されていたことを今更思い出し、その理由も理屈ではなく心で理解できた、特に親しくもない人達に自分は一瞬で周囲を消し炭に出来ます! なんて自己紹介をしたら孤立するか、近づいてくる奴はその力を利用したがってる奴だろうと……冷静になって考えてみたらわかることだった。


 どうしよう……取り返しの付かないことをしてしちゃった? だいじょぶ……仲良くなればいいだけだもん……


 中央の教育機関が育てるのは、幹部魔女候補生や宮廷魔術師など社会的地位のある魔法使い、確かにそれなりの技量は求められるが、組織運営に必要な社会性や諸々の教養、指導者としての素養などをはぐくむ場でもある。

 魔法の天才であるということは大きな評価点ではあるが、社会性に欠け、パニックを起こしやすく、理屈の上ではやるべきではないと理解していることをやってしまう未熟さなど、周りに守られていたころには本人も周囲もよく見えていなかった欠点が明るみに出たのである。


 教師も学友もアキレアを腫れ物に触れるような扱った、天才で年下ということもあって寮のルームメイトたちは気を遣ってくれている感じではあったが、当然上手く馴染めない。


 遊びにも一応誘ってくれるが、ただ付いてくだけで話を振ってくれても全然会話が続かない、そんな自分が嫌で泣けてくる、これ以上周りを引かせるのが怖い、本心を言うのも怖い、淋しいなんて口に出して鬱陶しいとか思われたらどうしよう、何が正解なのかどうしたらいいかわからない。


 気を使って「どうやったらそんなことできるの?」と訊いてくれた人だって何人かいたが、アキレアは人に教えることができなかった、なぜならば天才ゆえにセンスでやってのけてしまう、ほかの人たちがどこが難しいと感じているのかわからない、だが人に訊かれたのが嬉しく張り切ってそこをなんとか説明しようとすれば


「これをこんなかんじでぎゅーっとして」と、身振り手振りを繰り返し「そこでしゃきーんって感じでするの!」


「あ、ああ……シャキーン……」


「そんでね」と訳の分からない魔法の話が止まらない、周りも最初は気を使って聞いてたが、いつまでも終わらないので困惑しつつ愛想笑いで「あ、ありがとう参考にする」「頑張ってみるね……」などと言って話題を変えるのをみて空回りしている自分に気づき自己嫌悪に陥る。

 当然、再び訊ねてくれたりはしなかった。


 上手くできなかったからこそ、どこで躓きがちなのかがよくわかり、それを一つ一つ試行錯誤と鍛錬で乗り越え、今や多くの魔法使いが読む教本を書いた恩師コルディリーネ先生の偉大さを痛感する。

 天才だなんて言われても、その力は自分だけのものでしかなく、人に貢献することができない自分は全然ダメなのではないかと。


 前略みんな、お元気ですか? みんなに怖がられて友達が出来なくて淋しいです、なんてことは書けないけど、嘘もつけない……書きかけて、出せない手紙ばかりが増えてゆく。


 魔法に関しては天稟を持つ少女は、自分ができることの説明も友達を作ることも、孤独と戦う術も持ち合わせていなかった。


 それからアキレアは友達を作れる魔法を探すため図書室に籠もるようになったが、人の心を操作する外法など教育機関の図書室に置く筈などないし、対人関係に必要なものは魔法ではないことは知っているが、憔悴し冷静な判断力を失っているアキレアは得意分野である魔法で人の心を掴んで好かれようとひたすら明後日の方向に全力疾走する。

 そして周囲は「ひたすら魔法の探求に勤しむなんて、やっぱりあの子は私達とは違う」という目で見ており、しかもその過程で次々と難しく厄介そうな魔法も幾つも覚え、さらに無駄に危険な力を蓄えてゆく。

 周囲はアキレアにある種の畏敬の念を抱き、そして彼女はますます孤立を深める、別に誰が悪いわけではない、ただ色々とかみ合わせが悪かっただけだ。


 先生たちのところに帰りたい……でも、心配かけたくない……最近夢の中でよく、うっかり周りを火の海にしたり、氷付けにしたり、嵐を巻き起こして学校を瓦礫に変えている……別にいじめられたとかじゃなくて、間違ってそういうことをやってしまう夢、目覚めてみると何故そんなことをしてしまったのかわからない。


 不安定な情緒は不器用さとしくじりだけではなく、子供から大人に変わる心身の変化も重なっている部分もあるから尚更どうにもならない、心が子供のままでいたいと願っても、そんな思いとはお構いなしに体は変わりつつあるのだ。


 いつも通り図書室に籠もると見せかけて学校を出た。冷静な判断力があるならばそれは一番周りを心配させる行為なのだが、先生や姉様たちに孤立していることは知られたくない、学校に馴染めない、なんか間違って沢山の人を傷つけてしまう気がする、その時のアキレアはここから出るしかないと考えていたのだが……頭が冷えてくるととんでもなくバカなことをしてしまったことに気づき、そして……今、どこにいるかもわからず、途方に暮れた。


 ひとりぼっちよりも、家に戻れなくなるほうが怖い……泣きながら森を歩いていると、六人の賊に囲まれている男女に出くわした、女は魔女のようだが魔法を使えないほど疲弊しているようだった。


 どうしよう……助けなきゃ! そうは思っているのだが、人に魔法を向けたことはないし、そもそも人を殺してしまうのは怖い……が、あの二人を見殺しにもできない……アキレアは息を整え「えいっ」と賊たちを風の魔法を拡散させ、ひとりひとり同時に個別に吹き飛ばす、その魔法は精密で、全員背中から落下、うち四名は呼吸困難で動けなくなっており、動けるうちの一人は足を痛めたらしい。


「えっと……悪いことはしちゃだめ!」


 賊に対していう台詞ではなかった。


「な、なんだ……こいつ」

「テメエに何の関係があンだよ?」


 突如現れた変な子供に賊たちも困惑しているところに、畑を耕す魔法の応用で地面を隆起させ、威嚇する。


「大勢で取り囲んで悪いことしようとしてる! 暴力はだめ! 絶対!」

「このガキャぁやんのかコラァ!」

「大人なめんなよテメー」


 自分自身のそれも暴力による脅迫であることは自覚していたが……天空に大きな火球を放つと、賊たちは青ざめ「わ、わかった……」とお互いを庇いながら去ってゆく。


「ありがとう……助かったわ……」

「えっ……うん」


「ビンロー大丈夫?」 女は傷ついた男に肩を貸す「立てる?」


「ああ……すまねぇ、俺がしくじったばっかりに」

「しょうがないわよ……あそこまで体を張るとは思わなかったし」

「クズ野郎共でも仲間意識だけは強いからな……」


 賊には友達がいるのに自分には出来ない……アキレアはそれが悲しくなってくる。

 そして、今更のように幻を見せる魔法で十分撃退できたのでは……と少し後悔する、幼く経験不足であるにも関わらず強力な魔法を行使できる才能は彼女にとって不幸なのだろう。


「友達を思いやる優しさはあるのにどうして、酷いことをしようとするんだろう……」

「そりゃあんた、社会からつまはじきにされた連中同士助け合わなきゃ生きられないし、苦楽をともにすれば連帯感が強まる、他に居場所もないしね」

「かわいそう……」


 共犯意識……そういえば、そんな話は先生から聞いたことがあった気がする。


「そうだね、山賊なんてほとんどがギルドを追放された元冒険者だからさ、同業者として思うところはある……」

「同業者?」


 魔女曰く、

 冒険者の大多数は定職に就いていない武装者故に底辺与太者と蔑まれている、そんなやくざ者たちを冒険者ギルドという信用ある公的機関が管理することで、立場をある程度は保障してくれているわけだ。


 ギルドから追放され、帰る場所もないのであれば大抵の場合、所属、信用、身分の全てを喪失した棄民となり、暴力以外に得意なこともないのだから徒党を組んで賊となるしかなく、かつての同業者たちから討伐対象として追われる身となる。

 また、ここのようにダンジョンからちょっと遠い土地の山賊をわざわざ冒険者に依頼して討伐させるのは見せしめの意味もあるのだろう、と。


「そんな、前までは仲間だった人たちを……誰かが助けてあげたらこんなことには……」

「同業者は仲間って意味じゃないから、友達もいれば嫌な奴もいるし、気の毒な理由で追放された奴もいるけど、大半は素行の悪さが原因だからねぇ」

「てか、冒険者で気の毒な奴とか普通だろ、素行の悪さも無能も本人の問題だし甘えンなよと、ギルドから追放される時点で同情の余地はないな」


 事情はよくわからないが、同じ立場の人なら辛い気持ちをわかってあげればいいのに、なんでそんな優しくないことを言うんだろうとアキレアは思う。同じ苦しい立場だからこそ、苦しい立場の人間に対して冷淡になってしまう人の心がわからないのは、悪意にあまり暴露されず育ったためなのだろう。


「ま、本来は冒険者ギルドには、落ちこぼれのセーフティネットって役割もあるんだけど、制度上認められている権利を行使したら落伍者だと見做されて、冒険者の中で肩身の狭い思いをするのよ」


 魔女はにそう耳打ちされたアキレアはますます訳がわからなくなった、そして「ギルド側も建前はともかく、本音では切り捨てることを良しとしている」と。


「冒険者ギルド自体が冒険者のための組合というより、使う側に都合のいい組織になってしまったところがあるからね」


 男がこちらをチラッと見たので魔女はさっと話題を変えた。


「それにしても、あんたすごいわね、どこの子?」


 アキレアは事情を話した、心細かったし彼女は同じ魔女だったからだ。

 横で聞いていた男が言った。


「なら、俺らと冒険者やんない?」

「えっでも……」

「学校にいて楽しかったか? みんなお前に意地悪してただろ、嫉妬してンだよ」

「そんなことされてないけど……」


 アキレアとしては急にワケのわからないことを言われ首を傾げるしかなかったが、男は納得してない様子で「ふーん」と言う。


 意地悪どころかみんな寧ろ気を遣ってくれていた、でも……友達ができないままの学校生活は辛いし、好意的に接してくれる二人と冒険者をやったほうがいいかもしれないと、アキレアは思ったのだ。



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