第七砦の巻
一行はダンジョン内部にある拠点、第七砦に帰還した。
第七砦には便宜上海と称させる広大な塩水域が十キロ程度先にあり、その上温泉もあるためだろう、最奥の砦の一つでありながら比較的道路も整備されているため物資にも恵まれ、最もにぎわっている拠点の一つだ。
ダンジョンはとにかく広いから遺跡群の中で手頃なものを改装して前線基地として使用し、付近にある余計な建造物は解体して資材として使う、当然遺跡の損壊に関しては批判もあるが、学術的価値は経済的価値にしばしば敗れ去るという嘆かわしい現実があるものだし、拠点があるからこそ研究も進む側面もある、インテリには複雑な心境であろう。
帰還した冒険者はまずギルド職員から戦利品のチェックなどを受ける。
「うう……ウナギ」
アキレアは名残惜しそうに玉石で作られたウツボのような魚のフィギュアを見ている、これはダンジョンのアンキライン環境で稀に見られるドウクツオオウナギという魔物を模したもので、遺跡ではこういったものも結構見つかる、怪鳥フィギュアと最後まで迷っていたが、そちらを選んだのだ。
「ねぇスワルティア、もうちょっと勉強できない?」
「アンジェリカの頼みでもそれはできないなぁ」
「グ、グム……」アキレアはウナギフィギュアに未練があるらしい。
「ごめんねー……ところでシオール君、今回は随分素直だね」
「……苦労して見つけてきたのは俺たちなのに、モノにしていいのは少しだけ、しかも珍しいモノは盗られるとか」
何度となく戦利品をちょろまかそうと試みたが、魔法によって持ち物をチェックするため無駄であった。スワルティアが査定した場合、冒険者の取り分を多めにしてくれるものの不正は見逃さず、賄賂も一切通用しない。
「ダンジョン自体が国有財産だし、私達は帝国の許可を得て探索してる立場だから」
と、いつも通りアンジェリカは言う。彼女は何度同じことを言われても辛抱強く怒ったりはしない。アキレアは何度同じ質問をするつもりだ? お前の頭に入っているものはなんなんだ? とシオールに対していつも思っているが、最近はツッコミを入れることも減った、怒りや苛立ちよりも呆れからである。
「ま、コイツはとられなかったんだし、妥協してやるよ」
聖剣のレプリカを鞘から抜く、特殊な武具の類はその研究が軍事力増強につながるため国が欲しがるがいまだ再現はならず、相応の技量がなければただの剣でしかない、また冒険者側のから需要も高いため、意地悪な査定者ならば賄賂を渡さないと買い取られてしまう代物だ。
「はいはい、お疲れさまでしたー、あー今、カルダミネたちも来てるよ」
「あら、やっぱり来てるのね」
「今お風呂にでもいるんじゃない? ……次の方どうぞー」
発掘品も国有財産としてギルドを通して国が買い取っており、遺物を許可なく所有したり売買する行為は犯罪である、拾得物のいくらかは発見したパーティがの取り分となるのは冒険者に対する譲歩で、宝探しをして何一つ自分のモノにならないのではモチベーションが保てないだろうということだ。
それでも不満はあるし、何よりギルドが買い取る際も安く買い叩かれている気がしている者が多く、結局冒険者とギルドの間に溝を作る結果となっている。
まだ食事の時間には早いが今晩のお薦めを見る一行。
ダンジョンレイヨウのシチュー、限定20食、焼き魚定食、季節の野菜サラダなど……
「昨日と殆ど同じだな」
「でも今日の焼き魚定食はドウクツオオウナギみたいね」
「ドウクツオオウナギ……実物見てみたい」
物資の多くはダンジョン外に頼っているが、食料はある程度狩猟採集で賄っているしそこには廃棄物も出る、そして人がいれば排泄物も、となれば当然農業もする。
これらの仕事は飯と寝床は保障される上に報酬もあるから実入りは悪くないが、冒険者は農民出身も多いから何のために冒険者になったんだ? という気持ちにもなるものであるという。
「やぁアンジェリカ、そのドウクツオオウナギがあたしらが狩った奴なんだ」
突如現れたパーティはアンジェリカと面識がある、というより他のパーティとの接点を持っているのは彼女だけだ。
男達はドウクツオオウナギとの激闘と活締めの技術、魔女とヒーラーは鮮度を保つための持ち帰る時の苦労話を語る、アンジェリカはその話に適切に付き合い、ローランドは不器用に相槌を打ち、シオールは興味がない。
「アンキライン帯ってドウクツオオウナギを支えるほどの食糧があるとは思えないんだけど、なんでいるんだろう?」
アンキラインとは地下水脈を通じて海水とつながっている汽水域を指し、眼が退化した甲殻類などが多い。
普段はろくに口も利かないアキレアが話に食いつくときは、だいたい専門家にでも聞いてくれと言いたくなるような話になる。
「さ、さぁ……まぁ食事のために来てるわけじゃないんじゃない?」
「うちらが狩ったやつも陸上にいたし、ほんと何しに来てるんだろうね」
冒険者の中には適切な狩りや漁の技術を持つ者、皮革加工などの職能を持った者、目利きが出来る教養人などもおり、そういった技能者は戦闘能力が低くても、パーティメンバーとして引く手あまたである。
逆にヒエラルキーが低いのは大多数を占める戦闘職だ。一応武装しているので戦闘はできるが、戦士を自称できる程でもないため便宜上そう呼ぶ、無能であろうと前科者だろうと武装さえすれば一応は誰にだってなれる。武器も伐採用の斧なんかは相当いい部類で、大体は鎌の刃を無理矢理縦につけたものや、釘を打った棍棒や木製のフレイルなど、労働者階級でも手に入るものを加工してたもので武装している者が圧倒的に多い。
まさしく底辺与太者、大多数を占める冒険者の現実を体現した存在だが、同時にとにかく何でもしなきゃ冒険者を続けられないこともあって、なくてはならないエッセンシャルワーカーという側面もある、無能と蔑まれるような人間でもとりあえず、仕事を選ばなければ食べていける。
ただし、戦闘職でも剣士や騎士は例外としてヒエラルキーだけは一応高い。
金属部の多い剣自体が高価な武器で、剣術は貴族や富裕層の嗜みということもあり、剣士や騎士というものは貴族や鄕紳など社会的地位のある階級出身がことが多いからだ。結果として彼らはパーティのリーダーとなることが多い、また遍歴の騎士の物語など、ステレオタイプな英雄のイメージと重なることも理由としてあるのかもしれないが、それ故に彼らは「勘違い野郎」「偉そうな貴族の馬鹿ポン」という評価される者も多く、仕送りをたっぷり受けていて気前がいいなどといった長所がない限りメンバーに加えたくない人種として敬遠されており、一般的に最もパーティに欲しくない人材であることが普通だ。
ちなみにシオールは気前は悪くないが金はない、ついでに言えば人の金も勝手に使うこともある……まぁ、金銭に無頓着なのだ。
ドウクツオオウナギを捕獲したパーティの長話に付き合ったあと温泉へ。男ふたりはさっさと出てしまうが女達は概ね長風呂である、それは単に身だしなみの問題だけではない、古来より公衆浴場は情報交換の場でもあるから、アンジェリカはなおさら長風呂になりがちであり、アキレアは基本アンジェリカにくっついて離れたがらない。
「荷物持ちを募集したら、なんか勘違い野郎がばっかり来たから全部帰ってもらった、雑用係を軽く見てるのもムカつくし」
彼女はカルダミネ、アンジェリカが助っ人として何度も加わったことがあるパーティの雑用係で、元々は中産階級の見栄のために雇われたメイド、所謂メイドオブオールワークスだったが、あまりに激務で薄給だったため、逃げだして冒険者入りした。
戦闘力は低かったが色々なことに気が回ることもあって今は雑用係、戦闘行為以外の仕事は殆ど彼女が中心で、パーティの快適な冒険者生活を支えている。
「雑用係とか荷物持ちって呼び方も悪いのかしら」
「まぁ武器を振り回すだけの能なし共が非戦闘員を見下したいって側面もあるから、呼び名が変わってもそれが今度は侮蔑的な意味を持つようになるだけ」
話が終わる気配がないためアキレアは、湯船から出たり入ったりを繰り返していたが、湯疲れしてきたようだ。
雑用係はパーティによって求められるものは違うが、家事から面倒な手続きや書類の作成など、とにかく痒いところに手が届く、戦闘には参加しないがパーティに加える価値があると評価されている人材で、とりあえず武器さえ持てばなれる戦闘職とは一線を画す存在である。荷物持ちは運搬するための膂力や体力だけではなく、戦利品を損壊することなく死守し、物資の管理や運用を的確に出来る能力が求められることもあり、優秀な荷物持ちのいるだけで快適さは段違い、さらには運搬に関わる業務でも割の良さそうなものを優先して請け負うことが出来ることだろう。
「体力には自信があります! 荷物持ちでいいからやらせてください!」
「雑用係でいいからパーティに入れて下さい!」
こんな感じで名の通ったパーティに潜り込もうする新人も少なからず存在するが、ナメてる奴と認識され、門前払いされるのがオチである。
「雑用係」や「荷物持ち」が下に見られるのは、こういった連中に対する軽蔑の念が一つと、漫然とした知識や職能への反感があるのだ、その上非戦闘員に対しては「戦ってない奴が偉そうに」という気持ちもあるのだからしたがない。
ただ、こういった認識は軍隊で言えば兵站を軽視することに繋がる。
兵站とはしばしば輸送や補給を指すが、実際は戦争に関わることで戦闘行為以外、つまり戦闘を続ける為に必要な後方の活動のほぼ全般が兵站であり、冒険者パーティという小規模集団であっても軽んじて良いはずがないのだが。
アキレアは限界を迎えたらしく「先に上がってる」とふらふらと温泉から出ていった。
「あたし、どんどん嫌な奴になってる…」カルダミネはため息をつく「散々バカにされながらこき使われて嫌な思いしてたのに……」
「四六時中いい人でなんていられないわよ……」
「あんたは四六時中いい人じゃないの」
「ヒーラーだから誰にでも優しくすると思われがちだけど、私にだって嫌いな奴はいっぱいいるわ……言えないだけで」
「いや、それが四六時中いい人でいるってことじゃないの、あーあ……人を見下すような奴にはなりたくないって願っていたのになぁ!」
見下されているからこそ誰かを見下してやりたい、そんな負の連鎖が冒険者を底辺与太者たらしめている大きな要因だが、冒険者を見下している人々もその点に関しては同類である、もっとも指摘したところで何かが変わるなどということはない。
「そういえば今日、ドウダンの命日ね」
「……スワルティアさ、明るく振る舞ってたけどやっぱり無理してる……三回忌だってのに、まだ悲しいんだね……今夜は付き合ってやるか」
「私も顔を出すわ」
世間話は情報収集だけではない、他のパーティやギルド職員との信頼関係を築く意味もある、特にアンジェリカは助っ人ヒーラーをやっていたこともあって顔は広いし、関係維持のためにあれこれと話も聞けば、世話も焼くのだが、しかし
「まだ風呂場で駄弁っているのか……」
一見無駄でしかないことを熱心に行うところもシオールが苛立ちを感じる点でもあり、当てつけのようにアンジェリカ抜きで話を進める、本人もそれに関して文句を言うことはないが……
「薬草取りとか駆けだしにやらせとけと何度言わせるんだよ」
「何度言えばお前は理解する?」呆れているシオールをアキレアは睨む。
魔女やヒーラー等、所謂魔法使いの類いは在野の知識人という側面があり、古くから魔法以外にも薬学や博物学に精通しているから、冒険者にありがちな杜撰な薬草採りについて色々と思うところがあるのもまた必然である。
「はいはい、無知な連中に乱獲させるから資源が枯渇する……だろ? 俺たちだけがルールを守ったからって、他の奴らはが守らないんだし意味がないだろうが……なぁ?」
「えっ?」
シオールがローランドに同意を求める時は自分の意見を通したいときある。
「……いや、その、まぁもう春は終わるし、薬草採りのシーズンは終わるし、まぁ……その」
「夏や秋が旬の薬草もあるよ」
「あ、そうなのか……」
「だからお前何が言いたいんだよ!」
そして、意に沿わないときは不機嫌さで周りをコントロールしようとする悪癖がある。
シオールも厄介だが、それ以上にローランドはアキレアが苦手……というか、どう接して良いかわからない、ただでさえ気難しい子だったのが、ゴブリンのコロニー討伐以降はさらに不安定になって突然キレるようになり、物騒なことをよく口にする割にはカッとなってやらかしたことに酷く狼狽する、そして小柄な女の子だからうっかり怪我をさせてしまいそうなのも怖い。
アンジェリカは彼女を溺愛しているし、師匠や姉弟子も彼女のためにわざわざ遠くから訪ねてくることもあるあたり無条件に愛されるということにも慣れているのだろう、殺伐していてスペック主義的なシオールとは根本的に合わないらしい。
面倒なふたりの板挟み、こういうときアンジェリカがいれば助け船を出してくれるのだが。
「……何度説明したらいい加減理解する?」と何度となくしてきた説明を苛立ちを堪えつつ始める。
まず、小さな株は採らない、大きな株も花が咲くので何本かは必ず残す、減少傾向にある自生地は数年採集を見送る、これは絶対条件であり基本だが、それすら守らない冒険者が多数派で、そもそも一口に薬草と言っても沢山の種類がありその生命力も様々であるから各々相応しい採集基準があり、資源を持続的に利用するためにはそれなりの知識が必要な筈だが、専ら駆けだし冒険者の仕事とされているのはおかしい、とアキレアは憤る。
そんな現状に専門家も危機感を感じていて、採集関する指導を行っているし、一応ルールは設けられてはいるのだが飽くまで努力義務であり、違反しても特にペナルティがない、勿論誤った植物を納品した場合は当然ペナルティがあるのだが……兎角それがギルドの資源に対する現状認識であり、冒険者はそのさらに下を行く、ド許せぬ……それが彼女の意見の要約である。
「みんなが守ってないから無視していいとかいうから底辺与太者なんだ! そんな奴らに任せないで道理を知ってる者が採集するのが義務なんだーっ!」
憤慨するアキレアにうんざりした様子のシオール。
短期的な利益の為に薬草を根絶やしにしかねない冒険者たちは愚かであるという意見は多分正しいのだろうとも思うが、アキレアのような態度じゃ却って反感を買うだけだとローランドは思う。
「この前ドリンク剤の値段が上がったの文句いってたけど……原材料の値段が高騰した結果なわけ、これは理解できるか?」
「だからって、俺たちだけが品行方正にやったって何も変わらないって現実が理解できないのか?」
小馬鹿にした態度のシオールの態度に、空気がヒリつく……これはマズい。
過去のアキレアの問題行動が脳裏を過ぎる。
「薬草が減ったのは魔物のせい? 資源管理も理解できない愚物のせいだよ、お前たちを鏖にして肥料にすれば、ちょっとは薬草の自生地も回復するだろうさ」
そう喧嘩を売った相手を殺しかけてパニックを起こした……にもかかわらず、別のところで
「最近、本来ここにいない筈の強力な魔物を見かけるとか何ほざいている? 適当に乱獲したらそいつらを餌にする強い魔物が飢えるって当たり前の話だよ、その程度のことも理解出来ない愚物共でも、奴らの餌になれば生まれて初めて世の中の役に立てるかもね」
などと喧嘩を売ったこともある、このときは「人間の味を覚えたら個体は駆除しなきゃいけなくなるでしょ」と、アンジェリカが宥めることで、それは未然に防げたが……あの子はおれの言葉に耳は傾けないだろうとローランドは思う。
敵に回すととんでもなく恐ろしいが、冒険者による乱獲を憂える人達から見ても、いちいち売らなくていい喧嘩を売るし、力が強大すぎて存在自体が脅迫になってしまうから、本当の意味で問題解決には寄与しない、それがアキレアの厄介さだ。
頼む、お互い余計な事を言わないでくれ……
祈っていたところ間一髪、戻ってきたアンジェリカにローランドは縋るような眼差しを向けると、状況を察した彼女はまず二人の言い分を聞いて整理する。
薬草採りなんてダサい仕事はやりたくないというシオールに、資源管理を意識できない輩に薬草採りをさせるべきではないというアキレア、互いの論点がずれていて会話が噛み合っていないだ。
「アッちゃんがいつも言うように薬草採りは知識のある者にやらせる仕事っていうのは正しいと思うし、何より駆けだしが第七砦付近で薬草採りするのもねぇ……」
「だからって俺たちがしなきゃいけない理由はない、大体報酬だってたいしたことないだろ」
「ダンジョンで得られる素材の値段は高騰しているみたいなのに、報酬の上昇率はそこまでではない、現場の私達としてはひっかかるところがあるけれど……」
冒険者ギルドはどこの馬の骨ともわからない連中が大多数を占める冒険者を管理し仕事を斡旋する組織、本来は組合という性質上その権利の保護も重要な職務だったはずだが、そこはあまり機能しておらず、国もダンジョンにいる安い労働力としてしか見做していない以上は、現実的な問題として持続できる生活を守るためにも資源管理は急務であるという流れから説得する筈だったが。
「報酬が上がったら、ダンジョンに自生する薬草は採り尽くされるだろうね、ギルドの運営がうんこなおかげで与太者共が薬草を乱獲してるけど、連中が与太者共をゴミ扱いしてるお陰で薬草がまだ滅んでないってのは悪い冗談みたいな話だよ」
アキレアは不機嫌になると露悪的な皮肉を吐く悪癖があり、これがしばしば話を拗らせる結果となる。
「あんまり汚い言葉は使わないの」
「だって……」
「汚い言葉を投げかけたって、相手が嫌な気持ちになるだけで逆効果なのはわかるでしょう?」
「そりゃぁ……そうだけど、でも言ってもわかんない奴にはいい加減ウンザリなんだよ、もう……」
「資源管理のために許可制にしたほうがいいって、ギルドでもそういう意見は出てるし、冒険者もみんながみんなそうじゃないでしょう? さっきのドウクツオオウナギを捕った人達もね、ちゃーんと資源管理については同意してくれてたんだし」
「でも、ギルドからしたら面倒なだけで何の利益にならないから変わらないんでしょ……で、そのせいで薬草が枯渇したって、あいつら別の理由をでっち上げて責任はとらない」
「つーかさ」シオールは気怠そうに言う「薬草が減ったのだって魔物のせいだろ」
「あン?」
シオールにそこまで悪意はない、ただ薬草採りなんてしたくないから、適当に聞いたことがある話を持ち出しただけだが、多少でも知っていれば有り得ないとわかる説や、既に散々否定されている説を事実であるかのように持ち出されることは、その筋の者を激しく苛立たせる。
!?
「久々にキレそうなんだけど……もういっぺん言ってみ?」
シオールも流石にヤバい……と気づいた。
余所のパーティに喧嘩を売った挙げ句、まとめて半殺しにした上で「あたしが冷静じゃなかったら、この愚物共はミンチになってる」と嘯くヤバい奴、そのくせちょっとしてから急にパニックを起こしはじめる意味不明な奴、それがシオールの知っているアキレアだ。
「もー……魔物のせいで減ってるなら、人間がここに来る前に絶滅してるってアッちゃんが言ってたじゃない?」
アンジェリカはアキレアを抱きしめる、動きを封じるだけではなく、彼女はこうすると多少は落ち着くのだ。
「はぁ……わかったわかった、薬草採りに付き合ってやるよ……面倒だし」
シオールの余計な一言にローランドは青ざめたが、アキレアは睨むだけでそれ以上は何も言わず、アンジェリカの胸にしがみつく。
「ありがとう……じゃ、明日は忙しくなりそうね」
一触即発の状態が解除され、ローランドは胸をなで下ろし、アンジェリカはアキレアを連れて席を外した。
まったく、イカれた女だ……
シオールとしては現実的な正論を言ってるだけなのに、アキレアは突然キレ始めるから困っている。それについて何度かアンジェリカに文句を言われたこともあったが、突然理由もなくキレる奴に配慮することなど不可能だし、シオールとしては「俺は誰かに媚びたりしないし、いうべきことはいう」タイプなのだという自負もあるのだ。
アキレアの力は圧倒的だ、その力を周囲に見せつけたゴブリンコロニーの討伐以降、自分たちのパーティに対して(実際はシオール、たまににローランドも一緒にである)イキった態度をとってくる奴は随分減った、生意気なクソガキだが界隈最強の魔法使いであることは認めざるを得ない。
そして、あの頭がおかしいバケモノもアンジェリカにだけでは懐いている、足手まといになってきたとはいえヒーラーは貴重だし、何より飼い主……アキレアちゃん係としてパーティにいる価値があることはシオールも理解している。
アンジェリカの能力が高ければ、こんな面倒なことを考えずに済んだものを、とシオールは思わずにはいられない。
それにお節介で仕切り屋なのが、アンジェリカだ。
シオールが功績を立てたとき、嫉妬した連中が「ここのパーティのリーダーはシオールではなく実質ヒーラーのアンジェリカ」などと横やりを入れて、足を引っ張ってくる可能性もあって、それも面白くない。
名声を得るためには、最強のパーティを率いるリーダーでなければならない。




