アンジェリカのこれまでの巻
アンジェリカは田舎町で代々ヒーラーをやっている一族の長女として生を受ける。
ヒーラーを含め母親が魔法使いだと男の子があまり生まれないこと、それから殆どが女性で収入も悪くない点から、伴侶が魔法使いではなくても、四人姉妹以上の父親や、妻の稼ぎで暮らしている男を指す慣用句として「魔法使いの亭主」という言葉もあるほどで、アンジェリカの父も祖父もまさに魔法使いの亭主であった。
曾祖母は引退しているが、祖母も母も働き者で周囲からの信頼も厚く、祖父は絵に描いたような好々爺だし、父も稼ぎは少ないが愛妻家……本人は大恋愛の果てに一緒になったといってはばからないが、母と父の姉……伯母は仲が良く、そのいつも後ろを父がくっついて歩いていたのが、いつの間にかそんな感じになったということで
「母さんと結婚できなかったら、お父さんは冒険者になってたかもなぁ」
などと言っている。
そんな父はダンジョンの話なんかは結構好きで、そういった書籍も結構家にあったし、たまにダンジョンの入り口近くにあるドミナスから来たものがいれば話を聞きたがる。
「冒険者は慢性的にヒーラー不足なんだよねぇ、娘さん五人もいるんだし、どうだい?」などということを言う者もたまにいたが「いやいや、ダンジョンに興味はありますが、可愛い娘を危険なところにやりたくはないですよ」と笑って断る。
兎角ダンジョンの話は好きではあったが、ギラついたところはなく、近所の男の子たちと釣りをしたり、何かを作ったり、楽器を教えたりする陽気なおじさんであった。
兎角、アンジェリカの家庭は平穏そのものだった、曾祖母、祖父母両親は健在、姉妹仲もいい、ヒーラーの技術があればくいっぱぐれることもないだろう。
ただ、アンジェリカはこの先の人生がなんとなく想像出来てしまった、母親と妹たちと村でヒーラーをやりながら、あと数年すれば顔見知りのそれなりに善良で継がせる後ない男と結婚、妹たちもいずれ結婚し、何人かは近隣のヒーラーの少ない土地へゆくのだろうと、そんな流れもなんとなく見えている、多分それは悪い人生でもないのだが……当時の彼女は若くそんな平穏無事で何もなさそうな人生がむなしいものに思え、17歳で故郷を飛び出した。
お父さんは気まずい思いをしただろうな……と、申し訳ない気持ちもあったが、自分の可能性を試してみたい……と、何者かになれる気がしていた、思い返してみれば、その何者が何なのかもすらわからなかったのに。
最初の仲間は戦争難民二世で十五才のサポナリア、ランドリーメイドをやっていたものの、激務と薄給で同僚達は心が荒んでおり、イジメのターゲットになったので逃げ出したものの、行き場もなく途方に暮れていたところ、優しそうだったから声をかけたという人懐っこい少女だ。
メイドの姿で逃げ出し、持ち物は僅かな手荷物だけ、見捨てるわけにはいかず、狭い部屋でサポナリアとの同居生活を始めた。
冒険者としての力はかなり乏しいが愛嬌のある少女で、彼女の存在はアンジェリカにとって大きな支えになっていたが、これが単に心細さや庇護欲に起因するものだけではないことに気づくのはのちのことである。
ヒーラー募集はいくらでもあり、とりあえず臨時メンバー募集のパーティにヒーラーとその助手としてパーティに参加する日々を送る、サポナリアに戦闘力はなかったが、幼い身の上でできることをやって努力しており「若いのに大変だね」と肯定的に見てはくれたが、パーティに入れてもいいかと言えば、そんな余裕はないとのことで、パーティに加わるならサポナリアを一緒でなければ嫌だった。
サポナリアを含めて引き受けると申し出たのは、二十年近く共にやってきたというベテランパーティ深紅の刃、若い頃につけたパーティ名であることが察せられ、やたらと魔物と戦闘したがるあたり、あんまり成長してない? と早くもアンジェリカは不安になった。
今思えば若い娘の前でカッコいい大人の男みたいな姿を見せたかったのだろうが、根本的に価値観がズレていた……毛皮だとか角などといった素材を欲しているなら、戦闘行為よりも罠猟がいいのでは? という疑問に対し「傷のない一枚の毛皮よりも、傷があっても沢山の毛皮のほうが金になる」「狩った魔物の数が実力の証明、他の奴らからも一目置かれる」という主張には閉口した。
そして二十年近く続いた男所帯に若い娘が入ってきたという状況故、半年あまりで崩壊する。
当時のアンジェリカ達は、中年にさしかかった男性が十代の小娘に妙な期待をした結果、見苦しい修羅場を演じるという現実に幻滅した。
彼らは十代半ばで成り上がりを夢見て冒険者となり、何かを得ることもできないまま三十代半ばとなった、その二十年は徒労でしかなかったと認めたくない、だからこそ冒険者稼業で知り合った若い伴侶でも得られなければ割に合わないと思っていたのではないか。
今のアンジェリカとしては、自分も含め大人というのは子供が思っているほど大人ではないほうが多いものだし、彼らの焦りや絶望がわからなくもないが、思わせぶりな態度がどうとか、お前たちはパーティクラッシャーだ、などと糾弾もされ、ああはなりたくないな……と強く思った。
冒険者の夢や浪漫、成り上がりといった盛んに流布される甘言よりも、大人達が揶揄する底辺与太者という評価がどうやら正しいらしいということを思い知らされ、家を飛び出したことを後悔していたが、サポナリアを独りにはできないし、意地もあったから帰りづらい。
次に加入したのは「探索集団 カツオノエボシ」という女ばかりのパーティで、役割の異なる複数の個虫が集まって出来たクラゲに由来し、女性中心のパーティは変な名前が多いのだが、それは変な名前の女性パーティは上手くいく、そんな験担ぎがあるからだという。
リーダーのバーベナは没落貴族の家の出で父と兄から期待を押しつけられて宮廷魔術師となったが、お偉方との板挟みとなり自殺してゆく同僚たちを見て、次は自分の番だと思ったので逃げてきたのだという、冗談めかして「両親と兄には会わせる顔がない」と言うが、多分本当だったのだろう。
「私は魔法を使う力はそれなり、研究者としてもそれなり、政治的な立ち回りは駄目……だったけど、そこまで真面目じゃなかったからこうして生きている」
彼女の本分は風屋……ヒーラーも含めた大抵の魔法使いは日常生活に使える程度の魔法を一通り教わるが、その中でも得意な分野を持つ者は○○屋を自称し、研究職は概ね○○屋である。
言うまでもないことだが、魔法を行使する能力と魔法の可能性を探る能力は別物で、宮廷魔術師はある程度高いレベルでの両立が求められ、出世を望むならば政治的な立ち回りまで必要とされる局面もあるが、バーベナ曰く「そういう同僚もいたけど、関わり合いたくないタイプの女だった」という。
パーティのサブリーダーは辺境の少数民族のドロセラ。
彼女は罠猟のプロフェッショナルでありながら卑怯者の狩りだと言う。ドロセラの民族は弓の扱いに長けていたが、それに苦戦した帝国により奪われ、密か男たちはに細々と技術をつないではいたものの狩猟を捨ててしまった。狩猟は農閑期の重要な収入源、田畑を守るために罠を仕掛けていた女たちが止むなく猟師となったが、比較的最近弓は民族の手に戻った、そうなれば卑怯者の罠は無用、ドロセラ本人は民族の誇りが一つ手に戻ったことをうれしく思う気持ち半分と、祖母の代から民族を食いつないできた罠猟に対する複雑な思いからここに流れてきたのである。
元娼婦のカメリアは都市部の比較的豊かな家の出で画家を目指していたが、ある時父親は急死、跡を継いだ兄は見た目も態度も言動もそして自己評価も頼れる男といった感じだったが、彼に借金のカタで売られた。
「なぁに、お前はなら大丈夫だ、絵はどこでだって続けられるだろう?」と、苦界に身を沈める原因になった兄が前向きなことを言ったときは流石に何度もぶん殴った。
仲間の娼婦や客の絵を描きながら希望をつないできたところ、後にパートナーとなる少女アニスと出会う。
アニスは都市部の貧民出身で、幼い時分にチンピラだった兄を恨んでいるチンピラに、飲んだくれの父親が殺されたところ逃げ、途方に暮れていたところを親切なのかそうではないのかはわからない人の口添えで大きな屋敷のキッチンメイドとして働くことになったが、ここもここで殺伐とした地獄だったのでまた逃げ、今度はチンピラにつかまり娼館に送られ、カメリアの世話係をやりつつ脱走を計画、成功し今に至る。
とにかく逃げ足の速い娘である。
この通りワケありで冒険者稼業に入った女たちは「そりゃそうだ、当たり前だ」と納得しつつも夢も希望もない底辺与太者の現実に幻滅、みんな明るい未来など見えなかったが、だからこそ互いを守りあって生きていた。
冒険者は概ね「置かれた場所で咲きなさい」という言葉が嫌いだ、自分たちの置かれた地獄から逃げてはならないのかという強い憤り、サポナリアとドロセラのような立場の者としては、故郷や民族の誇りを奪った奴らが何を抜かすという激しい怒りがある、アンジェリカは自分だけがただの我が儘で飛び出したことに申し訳なくなってくることもあったが、仲間達は一人くらい世間を恨んでない奴がいないと危ない方向に行くからそれでいいと言ってくれた。
バーベナの魔法は強く、猟師の娘ドロセラも一応山刀を用いた槍で動物とやりあった経験はある、他三人はそういったものはなく、武装は金属パーツをつけた長めの棒や、ペティナイフの柄を棒に変えただけの槍などリーチの長さを確保したものだった。
当然パーティ全体の戦闘力が高いとは言い難いため、音や香草を焼く匂いなどで誘導、魔法などでなるべく戦闘は避けるし、狩りも罠猟だ。
強い奴が偉く、乱獲した数を実力の証とみる冒険者界隈では馬鹿にされることもあるが、余計な傷をつけずに得た素材のほうが良い値で売れるし、護衛としての力に不安ありつつも、細やかな気遣いや強さを絶対視する底辺与太者的価値観から遠いのも良かったのだろう、研究者の水先案内などといった仕事にはリピーターもいた。
元宮廷魔術師のバーベナの教養は言うに及ばず、カメリアは絵が上手くそれなりの教養人だし苦界に落ちた身の上ゆえに知っていることもある、ドロセラは猟師故に山野で生きる知恵を豊富に持っている、ヒーラーのアンジェリカも回復魔法だけではなく、それなりに教養や人に寄り添う術もある、サポナリアとアニスは産まれも育ちも貧しく過酷で、まともな教育など受けてはいなかったが、だからこそ見えていた世界もあったし、持たざる者という自覚ゆえに勉強熱心で、アニスは身軽で身体能力も高い。
アンジェリカたちが入ってからパーティが明るくなったというが、それはサポナリアの力だったとアンジェリカは後になって思う、苦しい時に重宝する性格というものが彼女にはあり、それはチームを和気あいあいとさせる得難い才能なのだ。
皆が持っているものを持ち寄り補いあいながら学び、気の合う仲間達と同じ経験をし感情を共有できた彼女にとってもっとも楽しい時代だった。
だが、どんなに楽しくても長く続けていれば現実が見えてくる。
冒険者の多くは叶わない一発逆転を夢見ている貧乏人ばかりだが、冒険者相手の商売はやけに景気がいいとか、冒険者がまとまった金を手にしても大抵の場合、その使い方がわからず散財する……そして、かつて飛ぶ鳥を落とす勢いのあった凄腕集団が加齢により衰えてゆくのも沢山見てきた。
今はそれなりにやっていけるが、体が利かなくなって引退したあとどうするのか、少なくとも老後も安心して暮らせるくらいの貯蓄は難しそうだ。
カメリアはいう「だから娼婦は働けるうちに教養を蓄えて、芸事や手習いの先生になったりするんだけど、ただ冒険者やってるだけじゃ潰しが効かないからねぇ」
冒険者の中にも成功者はいるのだが殆どが足を洗っているにも似たようなものなのだろう、そんなごく稀な成功者の話を喧伝し、真に受けた若者を冒険者に仕立てあげ、強い奴が偉いというシンプルで殺伐とした、思慮や教養を軽視する価値観の中で搾取するというビジネスモデルが確立しているのだ。
冒険者の多くは誰かが流した「都会の底辺労働者は成り上がるチャンスのない、搾取されるだけの哀れな奴ら」という現実は知っているが、自分たちも同様の存在であるということは知らない、というか認めたがらない者が多く、そういった話をしようものなら「都会の底辺よりはマシ」「貴族出身者の冒険者はいても底辺労働者はいない」「都会はそんなに人手不足か」「じゃぁお前が底辺労働者やればいいだろ」と言った反論になっていない反論が来る、おそらく都会の底辺労働者に冒険者の同類と言っても「要するに定職についてない奴だろ」「あの底辺与太者共ね」といった返答が返ってくることだろう。
底辺同士を対立させ連帯させないだけで、短期的には安く使える労働力が確保出来る……長期的に見れば国力が低下するし、国力が低下すればますます扱いやすい労働力を欲するようになるといった負のスパイラルに陥るとバーベナは憤慨していた、多分理不尽な世界にみんなで立ち向かいたかったのだろう、けれども……
カメリアは「中産階級が貧困層に落ちるのは安く使える労働力を増やす流れってこと」とあきらめ顔で笑い、アニスは「難民のせいで仕事が減ったとか、憎しみを煽るのは団結させないためか」サポナリアは「貧困の再生産の流れね、ま、あーしには家庭を作る余裕なんてなさそうだけど」と力なく笑い、ドロセラは「弱いものはいつだって振り回されるしかないからねぇ」と遠い眼差しでこぼす。
アンジェリカはバーベナの気持ちを考えると何も言えなかった。
なまじ物事を知ったせいもあるだろう、みんな複雑に絡み合い病んだ社会に抗う術がないと戦う前から諦めていた、それでも仲間達と一緒にワイワイやっていることは楽しかった。みんな夢みたいな成功なんてそこまで望んでいなかったし、よりよい社会の実現なんて大きな夢にかける力なんてないし、寧ろ今幸せな夢を見ている真っ最中だった。
もし、バーベナが「世界の理不尽に立ち向かうべきだ」といえばみんな付いてきたとも思うが、自分一人では絶対に為し得ない理想や社会正義ために仲間の人生を使う事はできない、だから確実に夢を見続けられる選択ができなかったのだろう。
冒険者は底辺与太者だし日に日に世界は悪くなってゆくけど、どこかに辿り着かなくてもいい、ただみんなでずっと夢見心地でいることを願っていた。
夢はいつかさめてしまうものだが、見ていられたことが幸せだったとアンジェリカは思う。
現実が見えてくるということは人生に失望することばかりではなかった、杜撰なのは冒険者ばかりではなく、冒険者相手の商売でもいい加減がまかり通っていて、パーティの仲間達は「あたしらのほうが、連中よかなんぼかましなのでは?」ということに気づく、これは社会で生きてゆく上で冒険者としての成功などよりもずっと価値のあるものだったのかもしれない。
アンジェリカが加入して五年ほどしてバーベナがカタギの男と一緒になり冒険者から引退し、ダンジョン前の街ドミナスに最も近い村落ナモナキへ行った。
その後も新しく魔女のメリッサを迎え入れ探索者集団 カツオノエボシは継続した、みんな居心地の良い場所を守りたかったのだろう。
だが、それから二年後、メリッサが故郷へ帰ると決めたことで「楽しかったけど、いつまでもこんな仕事は続けてられないから」とパーティは解散、カメリアとアニスは冒険者を引退しナモナキへ行き、ドロセラは「名残惜しいけど、私もそろそろ別の人生を考えないと」と言って、ドミナスを去った。
サポナリアは「アンジーについてくよ」と言ってくれたが、小遣い稼ぎで始めた副業が上手くいってるし、ソレ絡みで仲良くなった男だっている、若くて頼りなさそうだが人の良さがにじみ出ているし、しっかり者のサポナリアなら大丈夫、あの子はもう私がいなくてもやっていける、寂しいけれど邪魔はできない。
思い返してみれば、ふたりの間にあったものは、友情との境界があいまいな性欲を伴わない恋愛じみた感情だった気がする、それはとても居心地のいいものだし、少女にはよくあることだ……もっとも二人はもう少女でもなかったが。
あの時家庭を持つ余裕なんてないと笑ったのは、好意を抱いてくれていている異性を意識しつつもまだ受け入れる準備ができていなかったからではないかと。そして、性欲を伴わぬ恋愛じみた感情は片方が異性を意識することで終わりを迎え、仲のいい友達であると納得する流れにするしかない。
アンジェリカも故郷へ向かう駅馬車のホームに何度か立ったものの、なんとなく仲間達との楽しい日々への未練があり、ふるさと行きの切符だけが溜まってゆく。
ヒーラーである彼女は引く手あまただったが特定のパーティには所属せず、助っ人ヒーラーとしての日々を送る、フリーのヒーラーという貴重な立場ゆえ安全は保障されていたが、やはり最初に参加したパーティのことが尾を引いていて、原則として女性メンバーのいるパーティのみの参加、ただし女性の助っ人がほかにも要る場合は男性のみのパーティに加わることもあった。
多くのパーティと仲良くなったが、去ってしまった昔の仲間達と較べてしまう、いつもこれで最後にしようと思いつつも、ヒーラーのいないパーティの助っ人要請が常にあり、断るのもなんだか気が引けるからとズルズルと続ける、何時しか駅馬車のホームに経つこともなくなり、望んでいたものとは別の形で、どこへも辿り着かない人生に足を踏み入れつつあった。
あのときカタギになっていれば、冒険者時代を「私にだっていい時代はあったのよ、お金はなかったけど楽しかった」なんて懐かしく振り返ることが出来ただろうとたまに思うことがある。
罠猟師のドロセラがどこにいるのか今ではわからないが、昔の仲間たちはバーベナの住むナモナキにいて、今も仲良くやっている。
画家になったカメリアとアニスは一緒に暮らしてるし、サポナリアなんてもうじき二人目が生まれるという。
それは勿論喜ばしいことだが、自身の現状と比較して情けないやら悲しいやら、様々な感情が去来するものだ。
ベテランの冒険者というのは多くの場合、歴戦の古強者などではなく、人生の損切りに失敗し引き時を見失った者だ。
その中では魔法使い……特にヒーラーという職能は食いっぱぐれにくい職能だから一般的な冒険者と比較してずっとマシなのだ、だからこそ続けられてしまう、なまじ続けられるから損切りが出来ない。
冒険者となって八年と少し、他の冒険者に喧嘩を売って袋叩きにされたシオールと、助けを求めるローランドに出会う。
「油断した、剣を使えばあんな奴らに負けやしないんだが」と、冒険者同士の喧嘩では武器や殺傷力のある魔法は御法度というルールを無視した発言をするシオールにローランドは困惑していた。
その後、兎角シオールは問題行動が多く、ローランドに助けを求められ、なんとなく親しくなってゆく。
シオールにはギラつく飢えがあった、貴族の次男故に爵位も領地もなにも受け継ぐことはできない、だがこのまま終わりたくない、成り上がって自分を軽く見ていた連中を見返してやりたいという強い感情や、英雄願望に由来しているのであろう無礼で無神経な態度に、たまに引っぱたいてやろうかなと思うこともあるが、しょうもない理由で冒険者になり、出来ることなら気の合う仲間達とどこへも辿りつかず、綿菓子みたいな夢を見続けていたいと願っていた自分だってそこまで立派な人間じゃない、それに彼はまだ若いんだし……と、いう気持ちにもなったし、自分勝手なシオールに振り回されている、見た目によらず気が小さいが、心優しいローランドのことも気にかけていた。
ある日、強力な魔物を討ち取ったシオールに出くわしパーティに誘われる、その時彼女は思ったのだ、この子たちは誰かが見ていてやらないと死ぬな……と。
危なっかしいからほっとけない、それに若者の夢の手助けをするのも悪くないかもしれない……それがパーティに加入した理由だ、その後パーティと喧嘩別れして、見限ってやったんだと涙目で強がる12歳の魔女アキレアがパーティに加わり現在に至る。
若さ故の未熟さと著しい成長……いや、この子たちは三人とも今まで見てきた人達とはモノが違う……そして自分ずっと格が落ちるということも……また、リーダーであるシオールが自分を足手まといだと思い始めていることにも気づいている。
シオールは上昇志向が強い、それがいつかはわからないが、若く能力のあるヒーラーが現れたらお役御免になることだろう、少し淋しいが若者の手助けをするのも悪くないと思って加入したのだし潔く身を引くことに決めているが、不安定な心を抱えるアキレアのことは可愛くてしょうがないしとても心配だ、それに言いたいことが上手く言えない、不器用で優しいローランドも。
それに今まで諸々の手続きやら面倒なことはアンジェリカがやってきた、保護者気取りであれこれ世話を焼きすぎたのだ。自分がパーティを去るまでに教えなければならないことが沢山あることに気づく、二年も経たないうちに、ここまで成長するとは思わなかったとはえ、本当ならもっと早い内にすべきことだったのだろう。
できる限り自分の持っているものを彼らに残したい、何が必要になるかなんて本当のところわからないし、全てを教えることなど到底出来ないが、自分を支えてきたものを後輩に残すことを連綿と続けてきたから今の暮らしがある、それが良き人間というものだとアンジェリカは思っている。
山刀を用いた槍は阿仁のマタギが使用していたフクロナガサという、柄の部分がソケット状になっていて、木の棒に差し目釘を打てば槍になる山刀のような形を想定しています。




