↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/29

三人の休暇旅行の巻

 次の日、アンジェリカに会えることで嬉しそうなアキレアは「お客さん、どちらまで?」と柄の長い箒にまたがりつつドヤ顔で問う、マリーも笑顔で答える「ナモナキまでお願いします」


「あいよ……ナモナキね、お客さんがた、後ろにまたがってくんな」

「三人乗りは大丈夫ですか?」

「やってみるさ」


 なんていいつつ、アンジェリカとマリーのふたりを乗せたことはあるし、早くアンジェリカに会いたいのだ。


 アッちゃん嬉しそう、ん……アコニーがなんか二ヤついてる?


 実はアコニーもちょっとワクワクしている、以前マリーに「アコニーも乗ってみない?」と言われたとき、なんとなく断ってしまったが、本心を言えばかなり楽しそうだと思っていたのだ。


「じゃ、いくよ」箒にまたがった三人が浮かぶ「風防(かざふせ)」


 空気が回りだす、飛行の際衝突する虫などの飛翔物を受け流し、体にあたる風を減衰させ帽子が飛ぶことも防ぐ、魔女が箒で飛行する際には必須となる魔法だ。

 高度と速度が上がってゆく。


「おお、これは」

「アッちゃん、いつもより速くない?」

「大丈夫、あたしにしっかりつかまってな」

「うん」


 マリーはアキレアに抱きつく、いつもは上から覆いかぶさるように抱きしめるが今は腰に手を回している、ぶかぶかのローブに隠れているアキレアの体は小さく華奢だ。

 全体的に細いことは知っていたが、しがみついてみると本当に腰が細い、この小柄で華奢で可愛らしい少女が箒を自在に操り、時に強大な魔法を行使する、なんだかその不思議にもどきどきする。


「きりもみとか、とんぼ返りとかできませんか?」

「当然」

「あーっ! ちょちょちょっと! そうのはだめ!」

「マリー……女は度胸、なんでも試してみるものです、きっといい気持ちですよ」

「アッちゃんだめ!」

「マリちゃんが怖がってるから、また今度ね」


 アンジェリカに会える、アキレアはそれは嬉しくてたまらない、そして速度上がる。

 魔法で強化した駅馬車でも三時間程度かかる曲がりくねった山道を高速かつ空路で一直線、一時間とかからなかった。

 ナモナキは山の麓の平地から小高いところにかけて家があり、大小の川がいくつかあるため水資源は豊富そうだが、耕作面積は段々畑などを含めても狭く、それを補うがごとくあちらこちらに果樹を植えてある。

 アンジェリカの家小高い場所にある大きな家とのことで一目でわかったが留守だった。

 戻ってくるまでしばらく村を見て時間を潰していたが、村の治療所の窓からアンジェリカが見える。


「アンジェさん……」アキレアはもう泣きそうだ。


「アッちゃん?」


 ここに以前からいる伯母さんヒーラーに頼んで、中で業務が終わるまで待たせてもらい、アキレアはしがみつきたいのを堪えて、アンジェリカとずっと話をしてきた。

 その日の業務は特に何事もなく終了し、帰路についた。


 独りで住むには大きな家、ダンジョンへの道を作る仕事に従事した魔法使いの宿舎をバーベナが改築して使っていた研究室で、空き家になっていたのをいずれはここで治療院を開くことも見こし、アンジェリカに貸与したのだという。


「アッちゃん、おいで」


 飛びついて胸で泣いて甘えるアキレアに慈愛に満ちたまなざしを向けるアンジェリカ、彼女もアキレアのことを思わぬ日はなかったのだろう。

 マリーは少し切ない気持ちになる、ローランドもこの二人の入り込む隙のなさに、切ない思いをしていたのだろう。


 やっぱりアッちゃんにとっての一番はアンジェさんなんだ……アンジェさんもアッちゃんがかわいくてしょうがないみたい……


「よしよし……頑張ってるわね」

「申し訳ない、本当は前もって手紙でも出しておくべきでしたが……御覧の通りでして」

「ううん、すごくうれしい」

、

 アコニーはシオールはますます明後日方向に向かって突っ走っているという話や、相変わらずアキレアとは険悪であるということを冗談交じりで言う。

 ただ、アキレアの様子を見て、パーティ内はもっと深刻な状況なのではないだろうかとアンジェリカは思わずにはいられない。


「ま、なるようになりますよ、二人の面倒は私が見ますので」


 アコニーとしても当初は危うい気配のするアキレアと距離を置きつつ付き合うつもりだったが、今はすっかり親しいといっていい距離感になっていることに気づく、そして自分がふたりを守っているように、案外彼女らに自分も守られ救われているということにも。


 アンジェリカとしても、二人がアキレアと仲良くやれていることには安心しているし、特にマリーとの関係はとても良好でアンジェリカもうれしくなる、マリーもアキレアにとって自分が思っている以上に大きな存在であることがわかりとてもうれしい。


「ローランド君は、どう?」


 自分のことを好きになってくれたかもしれない男性であるし、アキレアを優先しがちなアンジェリカではあるが彼に対する好意はそれなりにある。


「うん……ずっと、元気ない、それにあいつ、ローランドさんに冷たいんだよ、友達なのになんであんなに冷たいんだ」


 思ったことを口にしてアキレアは思う、でもあたしだっておんなじなんじゃないか……と、アキレアはアンジェリカに強くしがみつき、胸に顔を押し付ける。


「我々には心を開いてくれませんから、こちらからは打つ手なしといったところでしょうか」

「あ、あたしはよく話したりしてるよ、でもやせ我慢は騎士道の華なんだって……」


 アンジェリカがもし、ローランドのことが好きだったらどうしようと思ってしまう。

 救うために自分が傷つくこともいとわないそんな友情を示すローランドの如くありたいという気持ちは持っているのに、結局は自分の気持ちは一番大事で、苦しんでる友達を見て見ぬふりをしてるんじゃないかと自己嫌悪に陥り、またアンジェリカに強くしがみつき胸に顔をこすりつける、小さなころから何かあれば大きな胸に甘えて辛いことや嫌なことを紛らわせてきた、母性的な愛情にずっと守られていたいのだ。


「物語みたいな騎士道を実践しようという御仁が実際いることにわたくしは大変驚いておりまして」


 まぁ世間的にはいろいろとズレた人ではある……と思いつつ口にはしない。


「男の人にこういうのもなんだけど、彼は結構かわいい人なのよ」

「熊も象はかわいいといった……いや失礼、やせ我慢の騎士にはそう言ってくれる人が必要なのかもしれませんね」

「あ、アッちゃんのほうがかわいいですよ」

「ふふ、そうね」


 急に何を言い出すこのボケナスは……


「いやいや、マリちゃんこそ」


 と、ちょっと照れ隠し気味にアキレア笑う。


 二人ともかわいいとアンジェリカは笑う、アコニーだって実際は二人を可愛い奴だと思っている。

 ローランドもいないことだし、本人の前では答えにくい問いをしようと思ったが、これ以上問うことはやめにすることにした、ローランドの純情を見て少しは何かしてやろうという気もあったが、優先順位はアキレアのほうが高い。


 それから一週間、アンジェリカの家に滞在することになった。アコニーは家事……とはいっても、アンジェリカがそもそもマメにやっているので「ボケナスのお守りはお休みです」とのんびりやっている。

 マリーとアキレアは学校に通っている子供たちと遊ぶ、マリーは孤児院出身で年下のやんちゃな子供たちの面倒はよく見ていたし、聖女候補は子供とかかわることもイメージ戦略の一つにあったこともあり、子供の扱いに慣れている。


 子供とほとんどかかわったことのないアキレアだったが、なんと魔法で遊んでくれる変なお姉さんという感じで子供たちの人気者になった。


「お客さん、どちらまで?」


「月!」という子供にアキレアは笑って答える「ちょっと遠すぎるなぁ、お空の上って空気も薄いし寒すぎるんだよねぇ」


 アキレアは高山病の話を実体験を交え、無茶をして失敗したり、周りを心配させたりしたことを笑い話にして語る。


「アッちゃんってお母様や先生たちよりすごいよ、みんなこんなふうに飛べないもん」

「そもそも箒に乗せてくれないしなー」

「アッちゃんが先生だったらいいのに」


 アキレアも案外自分が子供好きであることに驚いている、年上の女性たちに可愛がられて育った彼女は、自然と子供に対してもそう接することできたのだろう。


「先生は大人だし責任があるからね、あたしみたく好き勝手はできないんだ、それにみんなのためにお仕事して疲れてるから、こんなふうに遊んでられない」

「ふーん」

「みんなのお父さんやお母さんくらいになると、一晩寝たくらいじゃ元気にならないんですって」


 そういうマリーの一言に子供たちは心当たりがあるらしい、彼らも疲れている親を見ているのだから。


「とにかくさ、もうちょっとおっきくなるとわかるよ、先生たちは大人として頑張ってて、あたしは気楽な立場だったんだなーってね」


 この子らからみたら自分も結構大人のお姉さんなのだ。相変わらずアンジェリカにべったり甘えているが、甘えるだけではない自分もいるのだという些細な自覚、少しだけ大人になることを受容できる気もしてくる、それでも段々身軽ではいられなくなってゆく体の変化に抵抗はある、大きなおっぱいは大好きだが、大人になりたくないから自分がなりたいとは思わない。


「それにあたしは説明が下手だから先生にはなれない、学校に通ってた頃、魔法のこと聞かれたことがあってね、張り切って説明したんだけど全然意味が分からないって……それっきり! こんなんだから全然友達ができなくて辛かったなぁ、あははは」


 アキレアたちを遠巻きに見ている少年に気づき声をかける。


「おーい、そこの若いの、箒に乗ってかない? いまならなんと無料! 百年後も無料だけどね、生きてたらだけど」

「仕事があるから……」


 輪に上手く入れてなさそうな子には積極的に話しかけ中に入れようとする、人付き合いの苦手な子はそれくらいでは周りとは打ち解けられず、次の日も相変わらず遠慮がちに遠巻きにいてまた気にかけたくなるのだが、マリー曰く、贔屓される子は疎まれるものだからかえって孤立させてしまうとのことなので、難しい。

 そして、孤立気味の子だっていろいろなのだから、一つの対処法をすべてに適用はできない、通りすがりがどうにかできることではなく腰を据えて対処しなきゃいけない問題なのだが、大人たちだって余裕があるわけではない、ふたりが子供たちと遊んでいるのも大人たちへの臨時休暇という側面がある。


「あいつ、学校にもあんまり来ないんだよね」


 それからマリーには気になることがある、そういう子の中には学校に来ないで仕事をしている子、友達はいるが武器を使った遊びばかりで、ほかの子たちと別の遊びをしない子たちなんかがいる。


「なんかさー勉強してたら理屈ばっかり捏ねて使えない人間になるって父ちゃんにいわれてるみたい」

「えっ……」

「そーゆー家、結構あるよね」

「まぁウチはお母さんが強いから学校いけてるけど、お父さんは女が勉強したら、男が生まれなくなるとか言ってるし」


 それは魔法使いの子供はだいたい女の子ばかり生まれるという事実から出来上がった迷信であることは察しが付く、しかし勉強不要論は意味が分からないとマリーは憤慨する、学校に行くことは認めつつも、要らん知恵をつけたから口答えをするようになったみたいな言い方をする親がいたり、この教育に対する反感の程度も様々らしい。

 そして、教育を軽んじている層は、水資源が豊かな反面氾濫のリスクにさらされてきたこともあり、土木技術の魔法を行使する魔女、外の社会から情報を持ってくる世間師などといった知恵や教養の恩恵が身近にある土着の人たちよりも、腕一本で成り上がりたいと夢見ていた冒険者出身が多い様子である。


「アッちゃん、ちょっとわたしバーベナさんのところに行ってくる」

「あっ、マリちゃん……」


 マリーが憤慨しているのをアキレアは初めて見た。

 なぜ親が子供の教育を否定するのか、それは子供の未来を奪うことにほかならない、そしてそんな大人をなぜ放置しているか、マリーにはわからないのだ。


「もちろんそういったことは把握してますし、こちらとしても困ってはおりますが、我々が言ったところで納得する話ではないのですよ」


 マリーを見て元宮廷魔術師のバーベナは彼女が例の元聖女候補であることに気づく、妙な義憤に駆られているところ、そして物腰も聖女として教育を受けた者のそれだったからだ。


「まず、彼らはそうやって生きてきたんです、教育はたいして受けてないけど仕事をして家族を養っている、それはとても立派なことだと思いませんか?」

「それは、そう思います……けど」

「いろいろな人がいますから全員がそうだと言ってしまうのもまた乱暴な話ですが、そうやって生きてきた人の中には子供に教育を受けさせることが可能性につながることがピンとこなかったり、自分の人生を否定するものに感じられてしまう人もおりまして」

「どんな理由があろうとも……みんなが遊んでるのに仕事しなきゃいけない、人生の選択肢も限られる……それはあんまりじゃないですか」

「全くもって同意しますが、彼らを論破し恥をかかせてやれば気持ちは良いかもしれませんがそれで価値観が変わるはずもなく、それどころか反感を抱くようになり、こちらのやることなすこと全てを敵視する事態になりかねない」


「そんな……」と言いつつも、マリーもわからない話ではない、人間は自分が嫌いな相手の意見なんか聞きたくないものだし、敵対する相手のやりたいことはすべて間違っている、利敵行為であるとすら考えてしまうものだと、アコニーが言っていた。


「彼らの面子を潰さず顔を立てつつ、子供の教育を受容できる心持ちにできたらよいのですが、それも難しい、だから今はそんな子たちにどうにかして教育を届けるかいろいろと試行錯誤を続けてはいるのですが……力不足でして」


 そして「言い訳をしてしまうようですが」と前置きし、元々この村に住んでいる人々と冒険者たちの間で相互不信が生まれないようあれこれやっていて、まだまだ手が回っていないところが沢山あるけど、様々な意見を持つ住民が協力してくれているからナモナキが回っている、だからこそ異論はあっても尊重しなければならないだと。


「それでも伴侶を得、家庭を持てた元冒険者はそれでも幸福な部類です、独り身の者たちにも必要とされる居場所も必要でして」

「武器の扱いを教えている人は」

「腕に覚えがあった者ほど、他の生き方を選び取れず独り身になりがちなのです」


 物語の英雄のようにその強さで栄光を掴むことを夢見た者は、暴力が忌避される普通の社会での居場所はあまりない。いい年して独り身、家族もないが腕っぷしは強い、となれば何かあったときそういう目で見られやすい。


「冒険者としての問題をそのまま抱えてナモナキに流れ着くのです、蔑ろにすればやがて村は分断され回らなくなってゆくことでしょう、それは何としても避けたい……彼らにとって武器の扱いを子供に教えることは、彼ら自身が子供大切に思うことにつながり、人生を肯定する上でも重要なことです」


「すみません」話している間に少し頭が冷えてきてきた「何も知らない外野が、なんだか偉そうなことを言ってしまって……」


「いえいえ、我々としては若い子が世間に憤ってくれるのを見ると安心しますよ、アンジーが一目置くわけです」

「恐れ入ります」


 今生きづらさを感じている人を救済することは当然重要だが、今後そういった人たちが増えないようにすることも並行して行う。見捨てられた人というものは保護されている人を見ると、自分たちも保護して欲しいとは考えず、奴らだけ贔屓されていて不公平だ、甘えるなと考えてしまうものだのだから。

 そして、冒険者なりのアイデンティティがあり、自分たちを見下す敵対的な存在から尊厳を守らんとする社会的、文化的な筋を理解しなければ何も変わらないとバーベナは言う。


「私自身、冒険者になって間もないころは、彼らは無知で愚かだから自ら首を絞める道を選ぶのだとは考えていました、彼らがどのように世界を見ているかも理解しようともせず、当事者よりも現状を理解できているつもりの傲慢で鼻もちならない小娘だったんですよ」


 マリーは成り行きで冒険者になり、目的なんて抱く余裕もなく日々を過ごしてきたが、自分がやりたい、やらなければならないことが見えてきた気がする、かかわる人間の誰もが幸せにならない理不尽な価値観がまかり通る冒険者の世界を少しでもマシにしたいということだ。


 ここに来てから毎日アキレアはアンジェリカと一緒に寝ている、いつまでこうしていられるだろうと思うとアキレアは切なくなり、余計にアンジェリカにしがみついて甘えたくなる、体の変化に抗うように子供であろうとする、自分が納得しようとするまいと止められないことなのはわかってはいるのだが。

 ちょっと大人になることを受容できたと思っても、やっぱり体の変化がすごく嫌で、怖くて恥ずかしいものに覚えてくる。


 アンジェリカはきっといつかどこかの男と結婚するだろう、それもすごく嫌でアンジェリカにしがみつく、ずっとこうしていたい……アンジェリカは姉で母で友達で、そこには幼い恋愛感情もある、お姉さんだからで目をそらしてきたけど絶対にそれはあるのだ。


 アンジェリカのアキレアに対する感情も庇護欲や母性愛だけではないのかもしれない、アキレアはかなりの美少女だし、正義感と過激さ、強さと弱さ、思慮深さと直情など複雑に入り混じる危うい魅力、この子のために何かしてあげたいという気持ちがわいてくる。


「アッちゃんが結構みんなに可愛がってもらってるみたいで安心してる」


 アキレアはアンジェリカの胸に顔を押し付けながら「うん」という。

 アキレアを恐怖の天才魔女とみているもの者も少なくないが、人となりを知っている者の多くは、危うくてほっとけない妹のような存在とみている、遠くにいる師匠や姉弟子たちは彼女を思ってくれているし、ギルド職員のスワルティアなんかもちょっと変わってるけどかわいい女の子と評している、持ち前の愛嬌と素直さを見せれば、手助けしてくれる人はいくらでも現れるというのは、決して欲目ではないと思っている。

 

 でも、シオールは、ローランドはどうだろう?

 シオールはプライドが高く抜き身の刃のような若者ですぐに敵を作ってしまう、彼はアンジェリカを疎ましく思っていたようだし、これ以上はどうすることもできない、アキレアとも折り合いが悪いのも、やりづらく、正直どうすべきだったのか最後までわからなかった。


 ローランドはただじっと耐えて……誰かが手を差し伸べてくれるのを待っているのではないだろうか? 自分に好意を抱いてくれているんじゃないかと思ったあたりから意識するようになったし、それ以前から好感の持てる人物だと思ってもいた。ただ彼は自分よりもずっと若く、三人目の妹と同じか一つ下くらいの年、それがアンジェリカを臆病にさせる。


「ローランド君は誰かに頼れないから、アッちゃんたちで守ってあげて」

「うん、友達だもん」


 アキレアの胸が痛む、またアンジェリカに強くしがみつき胸に顔をこすりつけて甘え、精神の安寧を図る。

 ローランドのことはいい奴だと常々思っているし、あちらも今まで誰にも語らなかった過去を語るくらいには信頼してくれているというのに。


「あのさ……ローランドさんね」


 アキレアはローランドが話してくれたことをアンジェリカに手身近に話す。

 母さんが孤立していなければこんなことにはならなかったかもしれないという言葉の裏には、母に対する思いだけではなく、自身の心細さも現れているのではないだろうかとアンジェリカは思う、思いにうすうす気づきつつも見て見ぬふりをしてきたのは、とても残酷な仕打ちだったのではないかと。

 重い過去を持っている男の重い感情を向けられて嫌だと感じない時点で、それはもう好きといって差し支えないのかもしれない。


「私ももっと、できることがあったかもしれないわね……」


 哀しそうな表情でアキレアを抱きしめるアンジェリカにアキレアは「アンジェさんは……」ローランドさんのことどう思ってる? と言いたかったけど言葉が続かない、無言だったが哀しそうな顔で抱きしめられたとき、その答えを見た気がして、顔を胸に押し込んで涙をぬぐった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。