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聖女になれなかったマリー巻

 マンジュ……後のマリーは孤児院の前に捨てられていた赤ん坊であった、当然親の顔は知らないし、まぁそんなものだと思い、大勢の孤児たちと割と能天気でお転婆な娘に育つ。


 孤児院には割と本がたくさんあり、特に「なぜなに○○オール百科」シリーズがお気に入りで、妙に迫力がありすぎる挿絵と、外連味のある内容が魅力の児童向け書籍である。

 その中でもなぜなにダンジョンのひみつオール百科がフェイバリットで、雷の魔法を動力源とする技術や製紙や印刷の技術が大きく発展したのはダンジョンからの発掘品のおかげといった事実だけではなく、たくさんの胡散臭い話が書かれており、この本がきっかっけで彼女はいつかダンジョンを見てみたいと願うようになった。


 十歳の時、帝国の聖女様とお付きの人が大勢でやってきて、神器であるフォリアの大聖杖を女の子一人一人に触らせる行事に参加することとなった。曰く聖女様になれるかもそれない子が触ると光るとのことで、実際マンジュが触ったときは光ったし、マンジュよりも強く光った子もいた。

 その子は仲良しだったし友情以上の感情を抱いていたので、遠くに行っちゃうんだぁと悲しい気持ちになっていた。


 だが数日後、何故かマンジュにお呼びがかかって首を傾げる、その子はマンジュと別れることを悲しんではいたが、なんとなくほっとしているようにも見えた、なぜならその子は孤児院にいるちょっと年上の男の子が好きだったのだから、どのみち片思いだったことも知ってはいたし、なんとなく人生とはそんなものなんだろうと幼心に感じる出来事であった、


 好きな子だけじゃなく、みんなと別れるのは当然寂しかったが、行けばみんなの生活がよりよくなると言わたらそういうわけにもいかないし、綺麗な服も着せてもらえるしおいしいものも食べられる、勉強も教えてもらえるし本だって沢山買ってもらえるといい話ばかりを聞かされたが、当時のマンジュはなぜなに○○オール百科の胡散臭い内容に魅了されていたこともあり、漠然と「なんか裏があるのでは?」と考えたが、どのみち断る権利もなかっただろうということもわかっているそれなりに聡い子であった。


 ……その後のことは本人のあずかり知らぬところでいろいろと決まり、コニファー侯爵の養女となった。それが古都コニファーにちなむ称号だということくらいは孤児院育ちのマリーだって知っているくらいには、存在感のある貴族である。

 そこで貴族の子女としての教育と、そして定期的に合宿のような聖女としての修行ももしつつ、日々を送る。

 侯爵は「後継ぎなどどうでもよい、私が死んだあとは好きにするがいい」と勝手なことを言って困らせる変わり者なだけではなく、黒いうわさもあったがその能力は誰もが認めていたし、愛妻家でマンジュにも優しかった。

 マンジュは侯爵夫妻に可愛がられ愛されていた、それがのちに苦しみや悲しみにつながろうとはその時はまだ知る由もない。


 十五で本格的に聖女候補になるため帝都へ、そこの寮で働いていたメイドのウズ……後のアコニーと出会った。

 寮のメイドは聖女というものをよく知っていることもあり、ここから聖女のお付きとなる者は少なくない、お付きになればいろいろなところに旅行もできるし、お給料もよいからと告白するウズの正直さは気にいったし、どこか寂しそうな眼差しも気になった。


 そして「本来ご令嬢の世話係などというガラではありません、生活ためです」と言いながら世話を焼き、いろいろと世間のことを教えてくれるし、浅慮なことやれば「ボケナス」と注意してくれる、何よりあまりに通いすぎてほかの候補の娘たちもウンザリしてしまうほど大好きな博物館通いだとかにも、文句を言いつつ付き合ってくれる。


「聖女になるために引き取られたんだけど、わたし本当はダンジョンの秘密に迫りたかったんだよね」

「社会的地位をかなぐり捨てて、底辺与太者と嘲られる食い詰め者になりたいと」

「落第したら自由にやれるかな?」

「侯爵様に相談なさってみては」

「お養父様(とうさま)なら絶対ダメっておっしゃるよね……そこで聖女か権聖女やりつつ副業で冒険者を」

「いくら聖女様がボケナスだったとしても、底辺与太者になるわけにもいかないでしょう」


 聖女とは神器フォリアの大聖杖を通じて神に選ばれたふたりの乙女、正しき世界へと導き手である……とのことだが、教育を受ける中で、聖女候補から落第した学友たちが学校から次々と去ってゆくという経験、そしえ聖女に関する世間の印象と現実には結構なズレがあることも知るが、それ自体はよくあることだとウズは言う。


 元聖女の先生曰く「聖女の資質自体はそれほど特別なものではありません、まして神の御心によって選ばれてなどいないし、そもそもそのような慢心を神は望まぬ筈です……」とそれ以上何か言いたげだったがその先は言わなかった。


 全知全能にして無謬(むびゅう)の神様が本当にいらっしゃるのならば……だけど


 と、孤児院で生まれ育ち、貴族の社会のドロドロしたものも多少は知っているマンジュは思う、神様が何でも知っていてなんでも出来るなら何故これを放置しているのか、そして聖典で語られる神罰は理不尽なものも多く、何でも出来るならもっとやりようがあるだろうにとツッコまずにはいられないし、神学者のそれらに対する解釈もなんか苦しい詭弁だなぁと思ってしまうが、聖女は一応聖教の最高権威なのだからそんなことは言えない。


 曰く、

 聖女の資質なんて神器が反応するくらいの魔法の素質があればよく、候補は主に孤児院など身寄りのない子供たちから調達され、その中から聖女の奇跡を演出するにふさわしい見た目の良い娘を貴族が引き取り教育を施して仕立て上げるというやり方が主流で、稀に養女ではなく実の娘であることもあるが、その場合も政治的な駆け引きにおいて政略結婚が聖女に変わったというだけだということ。


「先生、それは暗にご自身も美人だとおっしゃりたいのですか」と、聖女候補の娘が半笑いで問う「いやまぁ美人なのは確かですけど」


「そういいたくなる気持ちはわかります、ですが……以前、選定にかかわっている人たちがべろんべろんに酔っぱらっているときに、大聖杖がまばゆいばかりに光った子が候補に選ばれなかった理由を尋ねたとき」


 先生は酔っぱらいっぽい仕草をして言った、「ああそりゃ見た目で落とされたのだよ、奇跡を起こす聖女が不美人じゃかっこがつかないでしょ」その迫真の演技で笑いが起こると先生は満足気な表情を見せる「……などと異口同音でのたまっておりましたので間違いないでしょう」


 ああーそういえば、確かにちょっとときめくくらいかわいい子が多いなぁ……とマリーは思った、てか、見た目も選定基準の一つってことはわたしもかわいい子認定? なんて考え、この期に及んで照れたりしている、だからボケナスと言われるのだろう。


「兎角、私たちが貴族に引き取られたのはただの幸運、見いだされることなく埋もれている人は大勢います。ゆめゆめ己の実力で聖女候補になったなどと思わぬように」


 これは聖女が代々伝えてきた戒めでもあるという。

 聖女は神に選ばれた神聖な存在なのではない、その本質は政治と戦争の道具であり、偶像でしかない、たとえそうであっても今できる最善のことをすべし、神聖さは神より賜った特別な何かではなく、自らに課すルールの中にこそ存在するのだと。


 マリー達はあるとき刑務所の慰問へ行く。過酷な刑務労働に従事する者たちを使い、神器フォリアの大聖杖行使の練習をするため、囚人たちは前もって組分けされており、それぞれ選別して疲労や傷をいやすのだ。


「喜べ、クズども!」刑吏は叫ぶ「今日は聖女様たちが貴様らに慈悲を与えてくださるのだ!」


 うわぁ、なんでこんな言い方をするんだろう……


「最初ははマンジュからですよ」

「は、はい」


 マンジュは大聖杖を掲げると、よくわからない感覚に襲われた。

 大聖杖は治癒など一部の魔法を大幅に増幅しつつ、大量の人間がぶつかる戦場で敵味方の判別ができる程に意識を拡張させると、何か得体の知れないものに触れる感覚もあり、今回自分が癒すべき人たちが見えてくる。


 万寿が癒した囚人たちは疲労や体の痛みが消えたことに驚いている。

 練習は上手くいったが、当然心身共に負担が大きく、マンジュはひざまずく。


「よぅし! 元気になった者は作業に戻れ! そうでない者も安心するがいい、貴様らは罪深く愚かで救いようがないゴミムシだが、慈悲深き聖女様は一匹たりとも見捨てたりはなさらないのだ!」


「大丈夫?」「顔色が悪いわよ」聖女候補たちがマリーを気遣う。


「初めては誰しもがこのようなものです……次はヨモギがおやりなさい」 


 この経験を繰り返すほどに世界を動かしている不正や理不尽なシステムへの憤りが強くなってゆく、それが「正しき世界の導き手」なるものの正体だとしたら空恐ろしいものだと、元聖女たちは言う。

 候補生だったマリーも言われてみれば、神器による洗脳じみたものの影響下にあるかもしれないという感覚はある、だけどみんな戦友だという気持ちは自分のものであって、神器に与えられたものなんかじゃないと信じている。


 その後も魔法だけではなく、辛抱強さなどの資質でふるいにかけ、友は去り……最終的には十人程度にまで選別された。そして最後にものをいうのはバックにいる者の政治力だ、聖女になれなかった者も権聖女という聖女の補佐役、状況によってはスペアとなる。


 元聖女権聖女たちは代々「聖女は呪われている、このシステムを壊さなければならない」とひそかに後進に伝え続けてきた。

 候補生同士で気の合う合わないはあれど、みな戦友のような意識がある、それは途中で脱落し魔法使いになった者たちに対しても同様だ。そんな中で政治的な駆け引きから、望まぬ政治的な対立に巻き込まれ、聖女が決定した後も本人たちの心情とは関係なく以前と同じではいられないこともままあるのだからたまらない。


 神器によるある種の洗脳、政治の道具にされ戦友たちと立場をめぐって争う羽目になる悲しみと、そして大勢の兵士の傷と疲労をたちどころに癒し、戦闘行為の続行を強いて……疲れ切った敵軍の兵士たちを殺戮させるという悪魔の所業を奇跡の力、神の恩寵と吹聴し、それを聖戦たらしめる罪深さ。


 また、そこに慈善活動の一環として、権聖女や候補生を引き連れ紛争で傷ついた者たちに手を差し伸べるマッチポンプ……感謝されることも苦しいが、中には冷ややかな目を向けてくる戦争難民や傷痍兵もいて、それが本当につらいと元聖女だった先生は言う、戦場に出た経験のないマンジュも候補生として慈善活動に参加したことはあったが、そういった視線を向ける者は確かにいたことを覚えている。


 おそらくは帝国が倒れたとて代わる権力が聖女の力を利用することだろう、真の敵は社会や権力に根を深く張るシステムであり、聖女やその周辺の者たちだけでどうにかできるものではない、それどころか権力を握る者たちすらシステムの奴隷、その座に居座るため白々しい大義を騙り、盟友を裏切り、利用できるならば敵国とも通じ、帝国を憎悪するカルトとすら手を組む、心はすり減り腐ってゆくが、権力を守ること自体が目的になっているのだからしょうがない。


 一世代につき選ばれる聖女はふたり、養父が候補の中で特に誰と仲が良かったかをよく訊いていたのは、親心から一番仲のいい娘の後見人と手を組むつもりだったのだろうか。

 マンジュとしては聖女になんてなれなくてもいいから、みんなとギクシャクしたくない、それだけだったが、養父は「お前の気持ちはわからないわけではない、だが何も失わずして何かを得るようというのは都合のいい考えでしかないのだ」と話がかみ合わない。


 侯爵も外交屋としてだけではなく、さらなる影響力を得るため、聖女の後ろ盾という立場も欲したことは想像に難くない。

 鑑みて、侯爵は自身が抱える力への欲求と、マンジュの幸せが同一のものに感じられていたのだろう。


 マンジュは聖女の最有力候補だったが……侯爵に疑惑がかかった。

 聖女選定において不正を働いたことの追求から始まり、それはのちに知ることだが……実は他国と通じ二重スパイをやっていたことが明るみに出のだ、後ろ盾が失脚したのだからマンジュは当然聖女候補から外れる。

 確かに戦友と争ってまで聖女になんてなりたくはなかったし、本当はやりたいことだってあったが、まさか養父が犯罪者になったことで、そこから解放されてしまうとは。


 養父がたくさんの人を不幸にしてきた人であるという話は耳をふさいでも聞こえてくるものだし「私がお前を聖女にしてやる」などと言っていたのだから、きっとその為に沢山の人が不幸になったことも想像に難くないが、それでもマンジュから見て侯爵は良き父であり良き夫だったと思っている。

 聖女には相応の権威は与えられてはいるが、所詮戦争や政治の道具、自分のことを政争のカードとしてしか見ていなかったのあれば、私欲のために不正を働いた貴族が処断されそれの巻き添えになった、ひどいなぁ運がなかったなぁと、嘆き恨みに思うだけだったことだろう、だが侯爵夫妻が自分を愛してくれていたことは間違いなかった、だから辛いのだ。


「お前を聖女に仕立てることができたならば、こんなつまらないことにはならなかったのだがな、そこの薄汚いメイドとどこへなりと逐電するがよい」


 それは養父のなりの愛の言葉だった。養母も別れ際に「お父様のことを許してあげて」と泣いていた。

 自分の今の立場に関する漠然とした不安もあるが、それ以上に親が不正を働き、犯罪者として罰せられるということがとても辛く悲しい。


 そしてウズはアコニーを名乗り、マンジュもその名を捨てマリーと名乗るようになる。

 アコニーはただのメイドではなく何か得体のしれない人で、かつて名乗っていたウズも多分本名ではないだろうし養父の失脚に絡んでいることもなんとなく感じるところだが、友達になってしまったし嫌いにはなれない、何より見捨てて逃げたほうが身軽だろうに「野に放たれたボケナスが生存できるとも思えず」などと言いながら一緒にいてくれる、冒険者の道を選んだのも結局はマリーがダンジョンに興味を持っていたからなのだろう。


 養父コニファー侯爵はいわゆる悪徳貴族と評される人物なのは知っていたが、敵国と通じていたことも知ったのは後のこと、聖女選定のスキャンダルは口実で本命は二重スパイ疑惑の追及だったのだろう。

 確かに妙に他国の情報に通じていたし、帝国内での立場もその情報戦の強さあってこそで、アコニーが「最も出世するスパイは外部にコネクションを持つダブルエージェント、物語で活躍するような肉体派のスパイが得られる情報なんて知れています」といった話をしていたあたり、やはりその顔を知っていたからなのだろうとマリーは思う。


 ふと昔「例えば帝国内では各国のスパイが暗躍しているが、言い換えれば各国の機密情報が行きかう場所でもある、それを利用してこそ帝国の未来があるというもの」みたいな話をしてきた気がする。

 世の中はマリーにはわからない事情がひしめき、あずかり知らぬところで何かが決まってゆく。


 アコニーも養父も黒いことをやってきたのだろうし、善人とは言えないのかもしれないが、ふたりとも自分を思ってくれているし、マリーは二人のことが好きだ、許してはいけないのではないかという気持ちと、許したい別の心がとても苦しい。

 物語ならばこのもやもやにどこかで決着をつける出来事があって、スッキリした心で前に進む時が来るのだろうが、マリーは多分ずっともやもやを抱えたまま、流されながら生きてゆくのだろうと思っている。

 現実はいつだって歯切れの悪いもので、すっきりした物語なんて娯楽のためのフィクションか、プロパガンダの中にかきっとないのだろうとすら思う。



 マリーが珍しく一人でいるところをシオールは発見した。

 最近マリーは俺に気があるんじゃないだろうかとシオールは思っている、何度となくマリーのピンチを救ってきた、女は強い男に守られたいものだし、冒険者として功績を残すことが最優先だが、あちらが好意を持っているならしょうがない。ギルド女も「強いし見た目は悪くないし、俺様系が好きな子もけっこういる、自信って人を魅力的に見せるから」と言っていた、まぁ年増のギルド女なんて願い下げではあるが。


 なお実際は「強いし見た目は悪くないし、俺様系が好きな子も結構いるけど、内面(特にオツム)が壊滅的だからなぁ、ああでも自信満々だから勘違いする子もいるかもね、自信って人を魅力的に見せるから」である。



「よう」シオールとマリーとの距離を詰める「一人なんて珍しいな」


 マリーは後ずさり、距離を保とうとする。


「あ、すぐみんな来ると思いますよ」

「お前も随分うちのパーティに慣れてきたんじゃないか?」

「ええ……おかげ様で」


 あの殺戮はやらなければこちらも危険だったからで……


 そう考え笑顔を見せるが……子供が虫を遊び半分で殺すのと大差ないがごとく、魔物を躊躇いなく惨殺せしめるシオールのことは正直怖い。

 アンジェリカは女子供や無抵抗な相手に対して身体的な暴力を振るう人じゃないとは言っていたし、寧ろあんなことができるのも何か不幸があったせいでは? とも。だとしたら邪険にしてはいけないとも思う。


「これでアンジェリカも安心して引退できるな」

「そう、でしょうか」


 なんでこの人はこんなに楽観的なんだろう?


 自信家で前向きというのは彼の長所であり短所でもある、幸運と合致したとき大きな成果を上げそうな気もするが、こういう人は運がよかったとは考えず、自身の力量であり英断の結果による必然あると考えるのだから注意しなければならないとアコニーは言っていた。


「お前の回復魔法はアンジェリカの完全上位互換だし、アキレアだってお前が来てからはずいぶん丸くなったもんだよ」

「いや、それは」


 誰かと比較して褒めるのってなんか嫌だなぁ……


「あの、わたしが来てからアッちゃんが丸くなったとおっしゃいますけど、まず絶大な信頼を寄せているアンジェさんがいてくれるからでして……」

「違うな、アンジェリカは甘やかすばかりで、お前と違いあいつを変えることができなかった」

「ですから」


 アッちゃんはアンジェさんもわたしたちも必要としているってだけってことがなんでわからないんだろう?


「もっと自信を持て、自信を持てないなら、お前を評価している俺を信じればいい」


 シオールがマリーの頭をぽんぽんと触れる、突然のことに行為に困惑しつつも愛想笑いをするしかなかった。


「あ、ああ、それでは……」

「ああ、明日は泪橋の向こうへ行く、準備しておけよ」

「あ、はい」


 急に頭を触ってくるの……やめてほしいなぁ。


 と思いつつ、わたしもアッちゃんをよく撫でてるなぁ……とも思う。


 アキレアはアンジェリカにしがみついているとき撫でられて満足げだし、マリーに撫でられている時も結構うれしそうだ。

 でも、自分がシオールに頭を触られた時真っ先に思ったのは「何この人」だった、そして何様のつもりなんだろうと、撫でられたい人と撫でられたくない人を見分けるのは難しいことなのかもしれない……そもそも撫でる人にもよるだろう、アキレアがシオールに撫でられたら激怒することは想像に難くない。



 賢明な読者諸君は既にお気づきのことと思うが、シオールのほうがマリーのことが気になっているのだ、惚れるのではなく惚れられる側、救われる側ではなく救う側……でなければ相手の下になってしまうからだ。

 シオール本人はそういった自身の感情と向き合っているわけではないから「俺がマリーのことが気になっている」ではなく「マリーは俺に多分気がある」と認識を変換してしまうのである。

 当然マリーもそんなシオールの気持ちを知る由もない、そもそも年頃の男子という生き物がよくわからないし、なんとなく怖いから無意識に理解を拒絶している、おそらく男性全般に対して漫然とそうなのだ、そこに異常に強くて自信家のシオールだからなおさら苦手意識が生じてしまう。

 それでも、シオールがマリーに対する好意を認め、素直に表していたならば、何か違うものもあるのかもしれないのだが。


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