パーティの今後を考えるの巻
昨日はローランドとの友情をちょっとは大切に思う気分になっていたので、アンジェリカにはパーティに居て貰うという方向で考えていたが、元聖女候補が来ているとなれば話は別だ、元々アンジェリカを外す方向で考えていたのだし、考えがブレるのは男としてどうかと考える。
一見するとブレブレだがシオールにはある意味絶対にブレない軸がある、それはその時の自分に従うということだ。以前の方針が真逆だったとしても、迷ったり悩んだりはしないということ、それを彼はどこかで聞きかじった言葉「君子は豹変す」だと解釈している。
友情のために自分の目標を諦めなければならないという理屈もないし、アンジェリカは確かに滅多にいないレベルの巨乳だが地味でちょっと歳食っているし、成り上がればローランドにももっといい女が見つかる、そもそも恋は必ずうまくいくものでもないだろう。
アンジェリカは今日も今日とてうるさいギルド職員の女のところに顔を出しているのだろう……面倒なことを任せてきたのは確かだがそれは役割分担であって、世間が考えているようにアンジェリカがリーダーだからではない、だいたい冒険者暦が一番長いのに一番実力が不足している時点でリーダー失格だし、パーティ名「雷火の覇剣」もリーダーのシオールが命名したのだ。
だが、アンジェリカに抜けて貰うには二人の了承を得なければならない。シオールは自分勝手だがリーダーの一存でクビにしたらパーティが崩壊することは流石にわかっていた。
「ドミナスに戻ろうと思う」
「はん、またアンジェさん抜きで話を進めるのか」
アキレアはシオールを睨む。
「アンジェリカのことなんだが」二人の様子をシオールは少し伺う「最近、足手まといになってきてないか」
「二度と剣を持てない体にしてやろうか」
「おー怖……ま、落ち着けよ」
アキレアの恐ろしさは知っているが、ここで引いたらナメられるとシオールは余裕を取り繕う。
「俺たちがより高みに上がるためには、アンジェリカには悪いが力不足なのは明らかだ」
「よし、今すぐアンジェさんのありがたみを理解らせてやる」
アキレアはシオールを軽蔑している、シオールもそれは知っているし、別に彼も彼女のことは好きではないが、最強のパーティには必要な人材、仕事上の付き合いなのだから好かれなくても問題ないと思っている。コイツの魔法は桁外れ、目的をなすためには必要な力だし、馬鹿とハサミは使いよう、狂人と火砲は使いようと割り切っている。
「シオールは……ヒーラーなしでやってけると思っているのか?」
「この愚物のこと、愚にもつかないことでも考えてるに決まってる」
「誰がそんなこと言った? 元聖女候補がお付きをつれてドミナスに来てるんだよ」
シオールの中では何故か既にパーティ入りすることが決定しているのだ、いくらなんでもそれはおかしいだろうと「いや、しかし」と何とか口に出したローランドを無視してシオールは喋る。
「勿論……俺もあの人には世話になったと思ってるよ、だからこそ抜けて貰うしかない」
「ならあたしもパーティを抜ける」
ここまでは予想通り、狂犬だが飼い主には忠実なのだ。
「ほぉ~お前の我が儘で実力不足のアンジェリカを危険に晒したいってわけか」
「なにっ」
「お前はカタギになれるような奴じゃない、となればアンジェリカはお前の面倒を見ながら冒険者を続けざるを得ないだろうな」
「グ……グム!」
痛い指摘だった、アキレアは自分の性格が厄介なのも自覚している。
「お前の魔法の才能は認める、だが薬草採りとかお前のやりたい仕事だけで食ってけるのか? アンジェリカに食わせて貰うのか?」
「グム~……」
他のパーティの助っ人に入ったはいいが、食ってかかる自分と、頭を下げるアンジェリカが容易く想像出来てしまう。
「それで嫌なことがあったら魔法ぶっ放すか? どうせお前のことだ、何かあればアンジェリカにベタベタ甘えて乳に吸い付いて泣き言いうんだろうな」
「な、なにがっ」
シオールが知るはずのないことだが、思いっきり当たっているのでアキレアは動揺する。
「アンジェリカは乳離れできないお前のお守りに人生を捧げ、平民のつつましい幸せすらつかめないってわけだ」
返す言葉がなく「グ、グム~」とアキレアは泣きそうになっている。
アンジェリカを独り占めにして甘えていたいという根性が幼稚で我儘であることくらい理解していたが……まさか愚物のシオールにそこを指摘されるとは思っていなかかった。
シオールのほうは理屈っぽいアキレアを初めて言い負かしとても気分が良かった。
コイツの弱点はアンジェリカや仲間の魔女のように甘やかしてくる相手、頭でっかちなクソガキだが、俺にかかればこの程度
シオールを知る殆どの人は彼を愚かだと思っているし、実際そういうところはあるが、ローランドとアンジェリカはシオールは愚かではないことを知っている。
戦闘では素早く相手の弱みを見抜き、こういった状況においてもたまに相手の弱点を的確に突いてくるからだ。
「いいか、お前はアンジェリカ離れすべきなんだ、恩を感じているなら独り立ちしろ」
「あう……」
「あ、あのさ……」
ローランドは珍しくアンジェリカの支援なしで自分の意見を言おうとしている。
「なんだ?」
「おれも、アンジェリカをパーティから外すのは……その、反対だ」
ローランドが自分から発言したことにシオールは少し驚いたが。
「その……」
「お前はアンジェリカのことが好きだもんな」
シオールがそこに気づいていたことにアキレアは少し驚く、コイツは自分の欲求以外に関心がないと思っていたからだ。
「いや……その」
「まぁ……ちょっと歳食ってて地味な眼鏡女だけど胸と尻もでかいし、面倒見はいいし、あと胸が相当でかいもんな」
ローランドは俯いてもう何も言えなかった、好意を茶化されるということが不器用な男には結構応える、胸がでかいをわざわざ二回言う、そしてシオールはたいした悪気なくそれを出来てしまう男なのだ。
「……けど脈はないだろ? 二年近くパーティ組んで何か進展したか?」
「……」
それ自体は正論だと思っていることも確かだが、シオールとしては自分に女がいないのに、格下の友人という認識のローランドに自分より先に女ができたら面白くないので殊更辛辣になるところはある、ただそこに強い悪意はないし、その気持ちを言語化してはいない。ナチュラルにそういいった序列に対する感覚を持っていて、格下が自分が求めながら得られないものを持っているということは序列や秩序に反するという漠然とした不快感があるのだ。
ただ一方で成り上がりや下剋上を強く望む……矛盾しているのではない、自分は相手より上にいたい、下になるのは許せないというわかりやすい心情、そういった点、彼は実に冒険者……底辺与太者である。
「いいか? 女はアンジェリカだけじゃない、もっと若くていい女なんていくらでもいるだろ」
「な……」
「それにお前、成り上がればいくらでも選ぶ側に立てるんだぞ」
流石にローランドも怒りを覚えたが、反応する前に
「おまえーっ!」
「へぶっ!?」
怒ったアキレアは杖で思いっきりシオールを殴りつけた。
アキレアがそれほど親しいとは思えないローランドのことで怒ったが理解できなかったが、突然キレるやつだからなぁと変に納得している。
「友達のなーっ! 気持ちをなーっ!」
アンジェリカを愚弄したからだけでない、なんで友達にそんなことが言えるのか、アキレアはそれがかなり許せなかった。
ローランドの思いはアキレアからみてもわかるのだから、アンジェリカもそのことに気づいていない筈がないとも思うがどう思っていたかについては知らない、ただ相思相愛だったらローランドが嫌いになっていただろうし、気がなかったらそれはそれでローランドが可愛そうという、妙な状態になっている。
「歯ぁ全部折ってやる!」
ローランドは慌てて怒り狂うアキレアを止めるため、シオールを庇い杖の一撃を受けとめる。
強い衝撃が走る、ただ杖で殴っているのではない、何か衝撃を与える魔法を直接叩き込んでいるのだ。
「や、やめろ……」
「庇うなーっ! あいつはなーっ! ローランドさんのことをなーっ!」
「なんだってんだよもう……」シオールとしてはそこまで強い悪意を持って言った言葉ではない、それどころか現実を見ろ、クレバーであれと友人に教えてやったくらいの感覚だ。
貴族の婚姻は個人の感情よりも家同士の契約という認識があり、平民がそうではないことくらい知ってはいるのだが、それくらいドライなほうが合理的で理性的であるという認識、そしてしばしば自分にとって都合がいいことは、相手にとっても良いことであると自動的に脳内変換してしまうから迷いもない。
殴るのをやめ、アキレアは息を荒げいつものように鍔の割れ目から見据える。
アキレア自身、ローランドは悪い奴じゃないという認識はあったが親しかったわけではない、なんかでっかいし男の人だからどう接していいかもわからないし。だが……それはそれとして強い義憤を感じる、この気の良い男の恋心をあんな物言いで茶化すなど。
「まずは、その……」ローランドもどうすればいいかわからない、だが話さなければこの状況を変えられない。
アキレアは「花縄」と小さな声で呟く。
「がああああああああ!」
ローランドの後ろでシオールは、床から生えた花咲くつる植物の魔法で縛り付けられている、更に何か衝撃を受けているらしい。
「頼む、やめてくれ……」
「とめるなーっ! 言ってもわからん愚物はなーっ!」
アンジェリカがここにいてくれたらこんなことには……アンジェリカだったから……ローランドはいつものように見下ろすのではなく、身をかがめアキレアに視線を合わせる。
「全殺しにしてや……」
「シオールは無神経だけど……そんなに悪い奴じゃ……ないんだ」
鍔の割れ目から覗く視線には得体の知れない恐怖をいつも感じていたが、目線を合わせてみると幼さの残る可愛い女の子だ。
「無神経って……お前、今の言葉取り消せよ」
「おまえが無神経じゃなかったらこの世に無神経なんて存在しなくなる」
「おまえには聞いてない、ローランド……俺は綺麗ごとや甘えは確かに許さない、だがそれを無神経というのか?」
「いや……その」
「取り消せ」
シオールはムキになっていたが、冷静と取り繕って言う。
アキレアは「自覚がないってのは」というが、ローランドは遮る。
「ごめん、悪かった……」
そういいつつ、アキレアにこれ以上何も言わないでくれと、目で伝える。
「むぅ……この愚物に肩入れする理由がわからん」
「そりゃ……友達だから」
シンプルな一言だったが、アキレアの心には深く刺さった、友達だと思っているらしいことは前にも聞いていたが、それはつまりこういうことなのかと。
シオールもローランドに友情は感じているのだ、それを示すのは気恥ずかしいしそう言った感情に動かされるのは感情を処理出来ない弱さだと思っている、しかし……それを表明されると鼻で笑えない、調子が狂う。
「その、仲間は……友達だよな? 友達同士がいがみ合うのは見ていて辛い」
「そこの愚物とは仕事上の付き合いで、友達なんかじゃない」
そうだった、この子がパーティで心を開いているのはアンジェリカだけ……おれも関わりあいたくない愚物なんじゃないか
「でも、ローランドさんがあたしのことを友達だって思ってくれてるなら、あたしの友達なんだと思う」
それは意外な言葉だった、アキレアは自分を認めていないと思っていた。
アキレアが冒険者になった遠因には友達が欲しかったということがある、彼女も自分のことを友達だと思ってくれているかわからないうちは友達だなんて言えない臆病な子であった、ローランドと同じように。そして、友情には友情で返すのが人間というものではないかと。
調子が狂ったシオールは、何とか問題点を挙げる。
「仮にアンジェリカをクビにしなかったとして……報酬は減るんだぞ、聖女候補とそのお付きもいるとか言ってたんだからな、六等分だぞ?」
「おれは構わない」
アキレアも構わないと言いたかったが、さっきアンジェリカの幸せのことを言われ、どうしたらいいのか解らなくなっている。
シオールとしてはアンジェリカを外す方向で行きたいが、様子を見ながらでも遅くはないだろうと今現在は思っている、いつ気が変わるかはわからないが。
アンジェリカがそのやかましいギルド職員の所へ行ってたのは傷心の友人のためだけではない、もし自分がパーティから抜けることになったとき、仲間たちの力になってくれるようギルドや親しい者のいるパーティに頼んでもいるのだが、そんなことは知るよしもない。
「あんたはヒーラーだし信用もあるからいいけどさ……あの中で唯一まともに社会と関われるあんたが抜けたら、パーティはまともに機能するの?」
「とはいえ、ダンジョンの奥へ行くなら私は足手まといだろうし……」
「……戦力や探索だけ優先して組むパーティは長持ちしないから人間性優先でパーティを組みましょうって、初心者研修でも言ってるしポスターも貼ってるけど、意味ないのかなぁ……」
「冒険者は上昇志向が強い人が多いから」
まだ、抜けると決まったわけではないが、アンジェリカはこのパーティから抜けるとき、冒険者を辞めると決めていた。
底辺与太者なんて蔑まれる仕事だけど、楽しかったし、いい十年だったわ
真っ直ぐ甘えん坊で可愛くてしょうがないアキレアと別れるのは辛い、引っぱたいてやりたくなることもあるけど前向きで良くも悪くも素直で裏表はないし、喧嘩っ早いけど弱い者いじめはしないシオール、不器用で優しいローランド……彼は自分のことを好きになってくれたのかななんて考えたりもするけど、確かめる勇気なんてないし、彼はまだ若いし彼の人生がある、それに若い異性に執着する見苦しさは最初に加入したパーティで嫌と言うほど見せつけられたのだから。
カツオノエボシは彼女の青春だったが、三人の保護者を気取っている今もあの頃と同じくらい楽しいと思えるがそろそろおしまい店じまい、名残惜しいが済ませるべきことを済ませたら潔く去ることが良き人の有り様ではないだろうか、でももう少しだけ……とも思う、そうやって人生と向き合わず、ズルズル続けてきた結果が今であるとも言えるのだが。




