VOL141 「死神を見た女」
1990年から2004年まで
アメリカンバーを経営していた。
ある夜、20代後半の美人姉妹が来店。
お姉さんはショートヘアで
人当たりがよく、妹は艶のある
ロングヘア、グラマーなスタイルで
周りから目を引く存在だった。
二人とも酒が強く、カクテルを何杯も
飲み続ける。
店を気に入ってくれたようで、
お姉さんの彼氏と3人とかで
2、3回来た。
それから妹はイケメンと2人で来て、
その次は別の男と、また別の男と、、、
そんなことが何回か続いた。
彼女は姉妹でいる時とは違って
いつも少し影を感じさせた。
珍しくお姉さんがひとりだけで
来た時に話しかけた。
「しばらく妹さん来てないですね。
いつか彼氏と別れたらボクとデート
してって伝えといてくださいよ。」
「アハハ、言うときますわ〜。」
数日後、お客さんが誰もいなくなった
夜遅く。
カランカラン。
ドアのベルが鳴って顔を上げると
そこに久々に妹の姿があった。
カツッ、カツッ。
ハイヒールの音を響かせて
2、3歩近づいてきて立ち止まると
首を横に傾けた。
背中まで伸びた髪がなびく。
「マスター、こんばんは〜。」
自分をさらに魅力的に見せる仕草が
身についているようだ。
「お姉ちゃんにマスターからの伝言
聞いて来ましたよ。
ビックリしたわ〜。」
うわ、ホンマにひとりで来たんや。
彼女はいつものテーブル席ではなく、
カウンター席の真ん中に座ると
ジッと真っ直ぐに俺を見つめる。
すでにけっこう酔ってるみたい。
お客さんが1、2組入ってきて、
彼女は俺がカクテルを作るのを
ぼんやり眺めながら飲んでいる。
お客さんがみんな帰って
彼女ひとりになった。
「そろそろ閉めますわ。
よかったらラーメン
食べに行きませんか?」
「行く行く! おなかすいたわ。」
ユーノスロードスターの屋根を開けて
ひとりでよく行くラーメン屋へ。
「わー!
オープンカーめちゃ気持ちいい!!」
彼女は風で髪が乱れることは全く
気にもせずに楽しそうにしている。
「ごちそうさまでしたっ。
すごく美味しかった。」
「いえいえ、
よく飲みに来てもらってますしね。」
「ねえ、
マスターはどの辺に住んでるの?」
「店の近くですよ。 車で5分。」
「、、、今日泊まってもいい?」
ええっ!?
ダメ元でお姉さんに言うてみたら
ホンマにこんな展開になるなんてっ。
それから彼女は男やお姉さんと
飲みに来ることはなくなり、
時々閉店間際にひとりでやって来た。
つきあい始めてすぐに彼女のひどい
情緒不安定ぶりに戸惑うこととなる。
とにかく目立つ美人だけどそれを
鼻にかけた傲慢な態度は全くなく、
意外にいつもよく笑うひとで
ほっぺたが丸みを帯びているせいか
フワッと柔らかい表情を見せた。
と思うとたまにちょっとしたことを
きっかけにまるで別人のように
怖い目つきに。
なんとなく「オトコ」に対して
不信感や怒りを抱えているような
印象がある。
とにかく陰陽の差が激しすぎるのだ。
躁鬱なんやろか?
当時の状況は現在とは大きく違って、
俺もそうだったけど
いけないことではあっても
飲酒運転や路上駐車を日常的に
しているひとがかなり多かった。
彼女の白いセドリック?は
酔っ払ってぶつけたのか
前後あちこちボコボコに凹んでいた。
「よくいろんなひとと飲みに
来てたけどモテモテちゃうの?」
「うん、まあ、夜の男のひとには。
ミナミのバーへ行って、
彼氏がトイレに行ったら
その間にマスターやバーテンダーが
ササッと名刺を渡しに来るの。
今度連絡くださいって。
そんなこと何回かあったよ。」
「マジで? すごいよな〜。
テレビのドラマみたいな話や。
あ、そういや俺もお姉さんに
伝言してもらったから同類かっ。
あははっ。」
彼女は家族と一緒に住んでいた。
玄関には洒落た門がある立派な家だ。
子ども相手のピアノの講師をしている
と聞くと、夜の妖しい彼女からは
イメージが遠過ぎて驚いてしまう。
冬になり、彼女の部屋に今は
暖房器具がないと知った。
俺は足元が暖まる電気ヒーターが
好きで、彼女にもどうかなと思って
3千円くらいのものを買って
プレゼントした。
彼女はヒーターを胸に抱えると
ポロポロ泣き出した。
「嬉しい、、、。
ホントにありがとう。」
いや、そんなに、う〜〜ん。
素直な子なんやなあ。
「前にね、私のベッドの下を見たら
そこに死神がいたんよ。
大きな鎌を持って。」
「し、死神いーっ?」
何をジョーダン言うてるんやと
思ったけど彼女は真顔のままだった。
仲は良かったけど、どうも彼女の
精神の不安定さが気になって
仕方なかった。
半年ほどして別れ話を切り出すと
彼女は静かに泣いた。
VOL15「ナゾの飛行物体」、
VOL106「やっぱりナニカがいる!!」
で書いたけど、ひとにはなかなか
信じてもらえないような
不思議な体験がいくつもある。
死神なんて昔に誰かが作った
キャラクターでしょ?
多分そうだとは思うんだけど、
自分自身もこの世には多くのひとに
まだ知られていないだけで
いくつものナゾの存在があるのだと
感じてしまった以上は
そう簡単には割り切れないのである。
彼女はイカレてて幻覚を見たのか?
虚言癖があったのか?
俺もイカレてるのだろうか?
ネットで調べたら、死神やそんな風な
ものを見た後に亡くなったなどという
話がいくつかある。
オカンは亡くなる5分ほど前に
病室の壁の方を見て急に
「赤いひとがいる。」
と言った。
死の間際で精神状態が
普通じゃなかったんやろか?
やっぱり今でも気になるんやなあ。
彼女のベッドの下にいた死神。




