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欠けているもの  作者: たき


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 聞いたことのある声だ。

 祖父と祖父と祖母だ。紛らわしいが、祖父は父と母それぞれの父で、祖母は母の母だ。ちなみに私の手を引いているのは父の母だ。


 「賑やかですね」


 「ええ、吉夜(きちや)さんよ。あなたのことは吉夜さんからのお電話で聞いたのよ」


 それなら、この祖母が速攻で動くはずだよなー。父よ、さぼりはよくない。


 「驚かれました?」


 きっと事後に聞いたんだろうし、いい気持ちはしないだろうなー。ちらりと祖母を見ると、、、そうでもなかったみたいだ。


 「お見合いのこと? ええ、驚いたわ。まだまだ先でも良いと思っていましたし。でも、まぁ、あなたの性格だったら自分で見つけてこないだろうってことは誰もが思ってましたから、智夜(ともや)さんもヤキモキしたのでしょう。

 お見合いをして、お付き合いをして、実際の結婚まで辿り着くのに年単位かもしれませんものね。その点、理一郎じゃ全く役に立ちませんから、あの愚息は」


 ひどい言われようだ。実の子だろうに。まぁいいけど。


 「さぁ今日の主役の登場ですよ」


 庭に向かって扉が開け放たれている部屋に到着するや、背中を押され部屋へ押し込まれた。


 「まぁ咲夜さん、なんて綺麗な。この着物も素敵。可愛らしいけど、職人たちが頑張って色々作っていた時の力を感じるわね」


 吉夜おばあちゃまが弾かれたようにやってきて隅から隅まで眺められる。いつものことだけど、居心地はあまりよくないんだ。特に五橋からさんざん、、いや、いい。


 「ごきげんよう。吉夜おばあちゃま、この着物は百合乃おばあちゃまからいただいたんです」


 「そうなのよ。私がまだ若い頃に着ていたものなの。現代(いま)着ても、おかしくないでしょ?」


 「おかしくなんてないわ。むしろ、いつの時代も選ばない良いお品よ」


 それは私もそう思う。これはずっと大切に受け継がせるべきだと。


 二人の祖母から散々鑑賞されている間は、二人の祖父は全く口を挟んでこなかった。ただひたすら写真を撮られていた気がする。時々連写の音が聞こえていたけど、一体何枚撮ったんだろう。うっかりな気もするけどね。


 「かあ様も、とう様もいらしていたんですね」


 「あら、智夜。待ってたのよ。どうだったの?」


 もうね、なんて言うのかな。ワクワクって言葉がぴったりな表情してるなー。興味津々らしい。ああ、そうか。話し相手が欲しかったのか。だから百合乃おばあちゃまに電話か何かしたんだな。

 食いつかないはずないもんね。


 「どうもこうも・・・」


 母が面白おかしくだけど冷静に今日の出来事を話して聞かせると、祖母たちは「まぁ、まぁ、まぁ」と驚いてみせてる。あれは絶対内心面白がってるはずだ。むしろその場に居たかったと思っているはずだから。


 「それで咲夜さんは、その方はどうなの?」


 うっ。

 遅かれ早かれこっちに振られるとは思ったけど、早くも来たか。


 「ど、どうって、その、えっと、、、」


 やばいよー。顔に血が集まってくる感じがする。火照って来た。


 「あらあら、咲夜さんが赤くなってるわ。答えを聞くまでもないわね」


 あはは、おほほと笑われる。い、いたたまれない。


 「あら? これは?」


 目ざとく見つけられてしまった。


 「指輪、よね?」


 「そうなのよ、かあ様。食事が終わって二人で散歩をしている間に頂いてきちゃったの」


 母が勝手に話を進めているんですが。


 「まぁぁぁぁ」と両祖母が声を揃えて驚いている。

 

 そう、大公開だった。後で気づいて超恥ずかしかったんだぞ。


 見るなら金を払えよって思ったくらいに建屋からのギャラリーは多かったらしい。それも五橋の作戦だったような気もするけど、もう終わったものをとやかく言っても仕方ない。気づかなかった私も悪いし。とほほ。


 父が二人の祖父に囲まれて肩を叩かれてるが、慰められてるのか? なんだか情けない姿に見えるけど「お前もそういう立場になったんだな」とか、「ざまーみろ」とか声かけられて、肩落としている。

 父よ、じっとりとこっち見るな。


 こっちは忙しいんだ。二人の祖母が私の顔を覗き込んできてるし、、、説明しろってことね。はいはい。私が話さなきゃきっと納得してくれないだろうし。


 「五橋、遼太郎さんは会社の人で良く知っている人です。お昼ごはんは、毎日一緒に行ってますし。まだ知り合って短いですが、その、一緒に居られると落ち着きます」


 「それでお付き合いをするわけね」ふんふんと先を促す祖母二人が、あ、母もだ、目をキラキラさせてるしー。父は小さい声でそんな話聞いてないって言ってるの聞こえてるし、祖父達が父の肩をバシバシ叩きながら大笑いしてる。


 「プロポーズを、お受けしました」


 





 沈黙が痛い。







 少し喋りすぎたからお茶をいただこうか。

 ずっ・・・






 ふぅ。






 いいお茶だ。口に含んだ途端の鼻に抜ける(ふく)よかなみずみずしい香りがたまらん。どれもう一口。

 そういえば最近国家公務員YouTuberが、土瓶みたいな容器で緑茶の茶葉を炒ってほうじ茶を作って飲んでたな。すっごい美味そうな表情だったから今度やってみるか。あの土瓶に直接お湯を入れて飲めるっての、いいな。欲しいな。ってか、ほうじ茶って緑茶で作れるって初めて知ったぞ。

 なかなかやるな。国家公務員YouTuberめ。





 「あいつめ、許さんっ」


 そう言うなり父が足音を響かせて部屋を出て行った。いつもなら父のそんな不躾な態度を百合乃おばあちゃまが諌めるんだけど、全く気にしてない。

 その一方で、祖父母や母が、どこで結婚式を? 神式? 打掛はどうしましょうね。ドレスもぜひ見たいわなどと次の展開を話している。切り替え早いなー。


 


 「ひ孫の名前、どうしようかねぇ」


 って、それはまだ早すぎだからっ!!!

 思わず茶を吹き出してしまった。そりゃもう、壮大に吹き出したさ。


 「きゃー着物がっ」


 被害は主に私さ。吉夜おばあちゃまに早く脱ぎなさいとその場で帯を解かれてしまい、母に着物を剥ぎ取られ長襦袢姿にされてしまった。その間に百合乃おばあちゃまが洗い張りに出す算段をしているし。素晴らしいチームワークだ。


 けどね、身内だけだからいいけど、ちょっと間抜けな姿になって、ちょっと恥ずかしい。

 祖父がそっと羽織をかけてくれた。


 「おじいちゃま、ありがとうございます」


 お手伝いさんが着物と帯を持って行き、私は百合乃おばあちゃまに手を引かれて別の部屋に移動させられる。


 「いい小紋があるの。あなたに似合うわよきっと」


 さっきの騒ぎもどこへいったか。すっかりワクワクしてる。

 

 「小紋? 半襟や草履があいません・・・」


 「そんなこと、あなたは心配しなくてもよろしい。当然準備してあります」


 さすがや。




 「紅型(びんがた)ですね」


 「かわいいでしょ。あなたに合うと思って(あつら)えてみたのよ」


 ええええええ!?

 用意してくれてたの?

 えええええええ?


 「江戸紅型よ、花唐草の繊細な柄といい、この瑠璃色がいい色でしょう。八掛も素敵なのよ」


 私にっていうのも頷けるほどにぴったりで、着心地が良い。顔映りも良い。


 「おばあちゃま、ありがとうございます」


 「どういたしまして。紅型は持っていなかったでしょ。とっても似合うわ」


 なぜ知ってるんだというのは置いといて、名古屋帯を合わせて祖母は上出来だと何度も頷いている。自分の仕事に納得いったようだ。


 頭がかっちりフォーマルで着物がカジュアルだからアンバラス感は否めないけど、祖母もしっかり気づいているっていうか、その辺のトータルコーディネートは抜かりのない祖母だ。

 ちょっとボリュームを抑えてくれてすっかり町娘風か。いや、そこまでじゃないな。フォーマルじゃないけどそれなりな見え方だ。


 祖母の手直しが終わり、再び手を引かれて両親や祖父母達のいる部屋に戻った。

 当然、吉夜(きちや)おばあちゃまや母に隅々まで観察されるけどね。おじいちゃま方はちょっと離れて見ている。だけじゃない。カメラかしゃかしゃ音がすごい。また連写してる音がするけど、誰か教えてあげてよ。

 父はどこにいった。



 やっぱり女の子はいいわねぇなんて女性陣が言うと、祖父達もそうだなと頷いている。いつもの光景だ。そして昔はこんなに小さくてずっと抱っこしてたんだけどなぁなんていつもと同じ話を繰り返している。何度話しても飽きないらしい。

 母方の祖父は白髪の総髪にしているのを、小学生の私が編み込みを編んであげたところ、その姿のままで出かけていってしまった。慌てて祖母に、おじいちゃまの頭がって言ったら「いいのよ。皆んなに見せびらかしに行ったんだから」と。何かの会合にあの頭のままで出かけて行ったと聞かされて、なんてことだと思ったのも良い思い出だ。

 一方、父方の祖父はグレーの短髪の七三分け。当時お気に入りの髪留めをつけてあげたら、お揃いだと言って写真に撮ってたな。


 まぁ、とにかく、非常に可愛がられている自覚はある。


 従兄弟達は全員男子で両家を通して女子は私だけだからな。


 男子が多いけど、実は誰一人として家を継がないことになっているそうで、不思議だけど、私が結婚して子どもができたらその子達にそれぞれの家を継がせると言う。なぜそうなったのかは知らないが、従兄弟の嫁さん達が分け前をとしつこく言ってきた、というのもあったとか無かったとか。

 法律上それでいいのかなと思ってたんだけど、従兄弟達がそうしたいと進んで同意したと聞いた。まぁそれぞれちゃんと仕事してて超贅沢しなければ普通に生活できるし、実家を切り売りする必要はないから、嫁さん達の欲望のままに取った取られたという争いを避けたかったらしい。

 結婚するまでは良い子だと思ってたんだけどって、二つ上の従兄弟が苦笑いをしてたな。あれ? 離婚したなそういえば。まぁ、いろいろあったんだろう。


 「となると、婿養子になるのか」


 思わず呟いていた。ここにいない父を除いて、全員がこっち見た。


 「そうね。ひとまず田尾の名を継いで、その後、李家(りのいえ)にも、ね」


 両祖父母がうんうんって頷きあってるなー。私の知らないところで、いろいろ話してんだろうな。五橋は、大丈夫だろうか。婿養子。

 遼太郎ってくらいだから、長男だよな。

 私と結婚すると自動的に婿養子になるよって話してないなー。


 うん。いろいろ、情報漏れありだな。ついうっかり、プロポーズ受けちゃったもんねー。困ったな。



 どすどすと大きめな足音を立てて父が戻ってきた。


 「あいつを呼んだからな」

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