第10部 覚悟の砲撃
「ヨオオオオ!」
「もらったああああ!」
二人の力は、以前とは全く違っていた。
一心同体にして猪突猛進の戦車を前にサツキは怯む。
6-4 サーブ権サツキ
「何とかしてこの流れを止めないと…」
(逆転されるっ!)
肩車する二人は1+1=2という概念を打ち砕いている。足腰の強いダイショの上に小回りの利くペンラケットを持っているアオダが乗っている。
(単体の時より機動力が増している…!?)
(それだけじゃない。僕が動く場所を理解してるかのような球運びをしているんだ)
サツキは右手の手首を見つめる。
(意図的に手首にヒットさせるなんてことほんとにできるのかな?)
「おーいサーブはまだか!?」
「早くしろヨオ!」
「ああ、ごめんごめん」
ボールを投げ上げてサーブを繰り出す。アオダは口をモゴモゴと動かすと下半身の役であるダイショが動き、台上へ躍り出た。
「一気に攻めるつもりか!?」
台上に攻めてきたツッツキに対して、反射的にストレートに返してしまう。相手側はバックハンドの切り替えも早く、クロス側に力強い打球が返される。
「…余裕だね」
サツキは前髪を揺らし、バック側に回り込んだ。黒い髪の間から紅い眼光のスコールが照らし出され、少女の手に雷が宿る。
「バスターブレイク!」
まさに電光石火。クロス側に走る稲妻は戦車を打ち砕こうとしている。
「アイツ!アオダとダイショ本体を狙ってやがる!」
「なんてことを…」
「でもあの子らしいんじゃない?相手を再起不能にしても勝ちですもの」
雷鳴の如く、疾走する球は台上の二人を貫こうとするがサツキの目の前にいるはずの二人はすでに遠ざかっていた。
「いつの間に!」
紅い光を失った眼は打球への自信を無くしているようにも見えた。
「なんて脚力だ…速いってもんじゃないな」
「いいえあれは走っていませんわ」
「どういうことだ?速過ぎて見えなかったぜ」
アスタロトの魔眼には限界があった。
「ステップ&ジャンプ。ってことね」
まさに瞬間移動。ほぼ一部の選手しか眼でとらえることが出来なかった。
「来たなバスターブレイク!」
「アオダ!あの技やるヨオ!」
アオダはダイショの肩を踏み台にして大きくジャンプした。
サツキは勿論、観客や選手たちも驚愕していた。
「見てろヨオ!ユキムラサツキ!」
ダイショは後ろに倒れ、長い足を天に掲げた。
「これが俺たちのド根性だ!」
そう言い放ったアオダはそのまま落下。雷の打球は直線を描くように跳び、決して怯むことの無い速さだ。アオダは天に掲げているダイショの足を踏みしめた。
「ヘビーキャノン!」
「発射だヨオ!」
バネの如く脚が反発し合い、両手でラケットを握るアオダが打ち出される。高速できりもみ回転するアオダは情けない悲鳴を上げる。この速度は並の人間が出せるものではない。
「あいつら、いつの間にあんな技を!」
団長の彼女ですらこの技を知らなかった。
「バスターブレイクに激突するぞ!」
「あの技は二人の覚悟あっての技。美しいとは言えませんが、きっとあの二人の想いがあの一撃になっているのですわ」
雷撃はついに砲弾と激突する。閃光とともに飛び散る火花と爆音。
「ぬおおおおおおおおおおおおお!」
アオダは内に溜まった力を振り絞り、出来る限り叫んだ。自分を鼓舞するために。
「アオダ!それ以上はお前の体が持たねえ!やめるんだヨオ!」
「ぬおおおおおおおおおおおおお!まだまだだああああああ!」
打球に纏わりついた電撃を浴びるがアオダは怯まぬまま回転を続ける。ダイショは分かっていた、アオダはこの試合でバスターブレイクに、サツキに勝てるなら命をも惜しまないと。
「や、やめなよ!アオダ!」
流石に相手であるサツキもこれには心配の声をかける。今にもアオダが光となって消えそうなのだ。それは誰がどう見ても死に直面している危険な行為だということがわかる。
(おいおい。まてよ、仮にあれで返球してもチャンスボールになるだけだ。あいつらのやってることは自滅行為に過ぎないのさ)
「そんな…。そんなこと言うなよ!」
「ぬわっはあ!」
覚悟を乗り越えた、弾丸は稲妻をも乗り越えた、希望の光となる。光の矢は目にも留まらぬ速さで卓球台を射抜く。
「…!?」
6-5 サーブ権サツキ
(おい、嘘だろっ?)
閃光の後、黒焦げのアオダが地面に横たわっている。
「あ、アオダああああああああ!」
サツキは呆然と眺めることしかできなかった。魔剣グラムほどの威力でなければバスターブレイクを弾き返せるはずがない。だが今、彼らは一度も破れなかった必殺技を破ったのだ。それほどの威力を体に纏っていたのだ。死んでもおかしくはない。今は再起不能という形で一命をとりとめている。
サツキは脚の力が抜けその場に立ち竦んでしまった。
「僕が、僕の技で、人を殺した…」
彼女は、また異世界卓球の恐怖を知ってしまったのだ。




