第42部 イギョウノカラダ
ヘルフォレストにて
ユキムラサツキはアオダとダイショとの試合に勝ったものの休む間もなく軽装な鎧の青年に話しかけられ、試合をすることになった。
その青年が好青年を演じていたことを赤サツキは悟り、身を守る(多分正当防衛じゃない)行動に移した。
だがその青年はアナザーキングダムを支配した帝王オーディ・カイザーだった。
連戦無敗の王者に対して恐れるサツキ。
だが心の中で答えは見つかっている。
「試合に負けても逃げても殺される。王の前には勝利しか通用しない」
サーブを繰り出すサツキ。
ここは様子見とバック方向へとボールを弾ませた。
カイザーは余裕の表情でサーブを返した。
ドライブ回転に対してサツキはそこから強打を仕掛けた。
カイザーは驚くものの、しっかりとブロックをした。
サツキの台に張り付き強打やフリック(ドライブ)を仕掛ける攻撃的な戦法に対してカイザーはカウンターのチャンスをしっかりと見極めようとしているのが分かる。
1点目からしては体力の消耗が激しい。
「全力で殺しにかかってきたか、面白い…」
そう呟くとラケットを突き出し垂直に構えた。
(……来るよ、相棒!)
構えからして必殺技とサツキは悟った。
ドライブのかかったボールに対してカイザーは神速ともいえる速さでボールを切り裂いた。
ラケットを短剣に見立てるというよりは短剣そのものと言えるだろう。
「ツイングラディウス!」
ボールが二つに分裂し、投げられた短剣のようにサツキの方向へと向かう。
「ボールが二つに!?」
驚くのもつかの間。
もうとっくにボールは台に入り、カイザーは1点目を幸先良く獲得した。
(流石は帝王…必殺技もほとんど見えなかった)
5 ー 7
サーブ権ニャリル
「ホラホラホラホラ!まだ避け足りないかいマキシマス?」
彼女がどこに銃弾を放とうとどこからか急所を狙う弾丸が獲物を襲う。
ジェイドは勿論、ニャリルの神器幻影銃黒式の能力を知っている。
サツキが戦ったときのように霧のような壁で覆われているわけでもなければ、衰弱状態にもなっていない。
だが片手にナイフを持ちながらの卓球はやり難くて当然だ。
その上、弾丸の嵐を全て弾くなり避けるなりしなければならない。
ニャリルは銃弾でボールを弾いて返球している。
「ふぅ、今日の天気は晴れのち弾丸の雨かねぇ」
ニャリルは返球時にはあらかじめ銃弾を放っている。
何故かといえば高速で飛んでくるボールに対して銃弾をぶつけるのは遅いからだ。
幻影の魔法は未だに謎の魔法だが撃ち放った弾丸を何処かに保存している説はあり得る。
あらかじめ撃っておいても弾丸を無駄としないからだ。外した弾丸は大体こちらに飛んでくる。
飛んでくる方向はランダムなのだが。
「あらかじめ撃っておく、つまり予想を立てているということだろ?」
ニャリルの弾丸が少しボールに掠れた。
横回転ドライブ。
カーブドライブというやつだ。
「は、外した!」
「チャンス」
そう口に出すとラケットを逆手に持ちナイフのようにボールを切り裂いた。
「ディザスターブレイク!」
1点先取するジェイド。
彼は弱点に気づいていた。
「あらかじめ弾丸を撃っておいて外したら1度回収。近くに来たら回収したものを取り出す。単純だな、バナティア」
怒り狂うニャリルに苦戦どころが余裕の表情を浮かべるジェイド。
試合はもう後半を迎えていた。
8 ー 9
サーブ権 ジェイド
ジェイドがフォアサーブを繰り出しニャリルが弾丸をぶつけて撃ち返す。
普通なら出来ないことだろうがニャリルは当て方を工夫している。
それほど繊細なものであれば急速的な変化に対応出来にくいだろう。
単純だが第三者が観ると中々シュールなものだ。
ニャリルは加えて銃による妨害を行なっている。
この妨害はジェイドにはほとんど無力だ。
ジェイドは短剣で銃弾を弾いたり、アクロバティックに回避したりする。
サツキの時は神器の動力源となる魔力の霧を発生させていたが今回は無し。
だが未だに弾切れや魔力切れを起こさない。
「オラァ!さっさと諦めて風穴から血でも吹き出せよ」
性格も変わってしまいほとんど別人だ。
「そんなドロドロの身体で動けるのか?」
そう嘲笑うとジェイドは小型のナイフを投げた。
そのナイフが心臓にあたる胸元に突き刺さる。
言語では表せない声で叫び苦しむニャリル。
一点を取られ、急所に刃物が刺さるニャリル。
「分かってると思うが俺は狩人だ。お前が殺しにかかるならこちらもそれ相応の対応をさせてもらうぜ」
しかし刃物は溶け出しニャリルの身体の傷が塞がっていく。
「自己再生といったとこか。モンスターらしくていいんじゃないか?」
「キシャシャシャシャ!もう私は不老不死同然。貴様の刃物如きで死にやせんよ!」
9 ー 9
サーブ権ニャリル
「少々お遊びが過ぎたな。だがこれで終わりだ!」
ボールをトスし、トリガーを引く。
放たれた弾丸がボールを弾く。
それとともにいくつもの弾丸が左右から放たれ、ジェイドはジャンプに回転を加えて左手のナイフで弾丸を弾き、正面で受け止めるボールを粒の面で強く擦りつけた。
「か、カットだと!?」
ニャリルがそれに気づくのに時間などいらなかった。
ニャリルはひたすらに銃口から弾丸を飛ばして必死に対応しようとした。
だが、かかる回転は下ではなく上。
上回転のボールは高く上がってジェイドの方へと帰っていった。
「もらった!ラストトレード!」
ニャリルは何かに気づいた。
占いや予言を得意とするニャリルの一族が秘める力。
第六感が発動したのだ。
周りの時間が止まったようにボールが遅く感じる。
打とうか打つまいかと考えたそのときジェイドの声が脳内で反響する。
「やっと能力を使ったのか。言っておくがこのラストトレードを仕掛けられたプレイヤーは死ぬか負けるかの二択だ。まあ、取られたとしても9 ー 10だからまだ勝機はある。だからこのボールには何もするな」
たしかによく見るとボールの後ろの方にナイフ飛んでいる。
恐らく、このボールを撃てばナイフが突き刺さる。
撃たなければ相手の点。
まさに取引だ。
「言い忘れてたがそいつには異形も苦しむ猛毒がたっぷり塗られている。不老不死は無敵じゃないし痛みだってあるってことはお前が一番わかっているだろう?」
なるほどなとニャリルは更に思考錯誤を繰り返す。
「一応言っておくがこの二択以外の行動を取るなら命が消える覚悟をしておけ」
この声だけは冷酷かつ残忍な彼のもう一つの姿が現れていた。
この距離なら銃は一発しか撃てない。
だがここで点を奪われてしまえば逆転を許すことになってしまう。
だからといってナイフを受けるわけにもいかない。
恐らくあのナイフで開けた傷口が再生すれば猛毒が体内に入り、猛毒まで不老不死となり永遠の苦しみを味わうことになってしまうだろう。
どちらを取っても地獄なら、自ら地獄の門を見つけるのみ。
ニャリルはジェイドの方へと銃口を向けた。
「どちらも捨てて、貴様を殺す!」
「殺し屋のプライドか。まあ、約束を破ったからには死んでもらう!」
ナイフを投げようとするジェイド。
だが一歩手前で銃弾を受けてしまった。
そうなってしまうはずだった。
現実はニャリルが宙に浮き自らの弾丸を不老不死の身体で受けていた。
「順逆自在の術だっけか?ニンジャっていう日本の殺し屋の技だ」
ジェイドはニャリルが受けるはずのナイフを二本の指で止めた後、ニャリルにそのナイフを投げた。
「自分の武器と一生ものの毒に弄ばれる気分はどうだ?お前の弱点はカットなどによる急速的な回転の変化。お前が殺す対象の5割以上がカットマンだったからな」
突き刺さるナイフと身体に埋められた弾丸の痛みがニャリルの身体を蝕む。
ニャリルは涙ながらに苦しみジェイドに何かを訴えていた。
「お、お前ぇ、こんなことをしておいて…がはっ…タダですむと思うなよ……」
血を吐きながら涙を流し胸元を痛い痛いと押さえて苦しむ友人を背に城下町を立ち去ろうとする。
「二度目のサヨナラだな」
サングラスの位置を直し、じゃあなと軽く手を振った。
ジェイド勝利!




