第41部 魔王杯予選最終日
ヘルフォレストにて
「ふぅ、変なヤツらだったね」
(正直もう関わりたくねぇ)
サツキが笑う。
木漏れ日がキラキラと光る。
まるで現実のような感覚だ。
どちらかといえば現実との区別がつかなくなってきている。
もう存在すら忘れていた空間タッチパネルを開く。
もう昼を過ぎた森の中。
参加選手が数百人減っていてゾッとした。
なんとなくランキングを覗いた。
ユキムラサツキ レート2500 29位
と記されている。
「アレ?意外と高い」
(でも決勝戦には出られないのか。残念だな)
アスタロトやミカエラのように別に優勝しろとは言われていない。
ローランちゃんの考えが未だに読めない。
バスターブレイクのヒントをを意図的に教えたり、ニートである僕を魔王杯へと出場させたり。考えが分からない。
単純に好きだとしても殺しが容易に行われている無法地帯に好意を持っている人間を放つとは思えないし、卓球の腕はミカエラやアスタロトのほうが1枚上手だ。
それに魔法の才能や二重人格を見抜いたのも流石は魔王といえる。
というか、僕にはあの時のキスやこの魔王杯への参加の拒否権はない。
逆らえば恐らく殺される。
魔王なら容易い事だろう。
「…失礼するよ。お嬢さん?」
声に反応して顔を上げるとフードとマントのついた金に近いが軽そうな金属の防具を着た青年が目の前にいた。
顔はフードでよく見えない。
「何か…ご用でしょうか…」
コミュ障ではないと思う。
けどやっぱりキョドった。
「いきなり話しかけて申し訳なかった。少し俯いてたから体調が優れないのかなと…」
意外と親切な人もいるのだろう。
そう安心するがその瞬間、僕の意識が飛んだ。
「…っく……」
「…大丈夫か?」
急に頭を押さえるサツキに青年は顔を近づける。
顔を上げると彼女の眼は紅く染まっていた。
「なっ………ぐはっ!」
それに驚いているのもつかの間。
急に腹を蹴られ尻餅をつく。
「おいお前。俺に喧嘩売ろうってのか?」
意識が朦朧とするなか赤のサツキが僕の身体を操っていた。
「ふははははっ!」
青年は立ち上がると嘲るような高笑いした。
「やはり、二重人格者というやつか」
「……!?」
もう勘付かれていた。
(あ、あなたは一体…?)
只者ではないことは明確だ。
「ほう?俺を知らんのか。まあ、好青年を演じるのも悪くはなかったが……」
そう呟くと魔法陣が現れ、そこから2メートル弱の両手剣が現れた。
「剣で卓球?」
(あ、相棒。神器だよ!)
「な、なんだって!?」
「魔剣グラム。最強の剣とも呼ばれたこの剣はあらゆるものを断ち斬る」
勢いよく地面に突き刺さる刃を見たサツキは息を呑み覚悟を決める。
「俺の名はオーディ・カイザー。我が世界と日本国を支配する王だ!」
「オーディ・カイザー!?」
(あの一位の選手か…圧倒的な重さの魔剣グラムを操り、異世界卓球界に新たな可能性を見出した者の1人。ハスノハイ王国の次期王者であり、その力は公認選手にも匹敵する)
サツキは空間タッチパネルを開き、上位選手の情報の中にあるカイザーの情報を読み上げた。
(それほどまでの選手が僕らに何の用?)
「なぁに、王たる者として要注意人物がどれほどの実力者なのか確かめに来たのだよ」
「俺たちが要注意人物…」
「29位…まあ日本にはどんなヤツがいるかは知らんが…精々この俺を楽しませろ」
空の鞘に魔剣グラムを収めた。
「背中の鞘が空なのは神器を納刀するためだ。お前にはコイツで充分だ」
と言い腰のラケットを引き抜いた。
「ランキング1位かおもしれぇ…」
サツキは震えていた。
(た、多分…負けたら殺される…)
カイザーは恐らく独裁者だ。
要注意人物である僕らが気に入らないなら容赦なくあの剣の切っ先を僕らの喉元に向けるだろう。
「さあ王とラケットを交えるのだぞ。大いに喜べ、それが貴様の最後だがな!」
ジ・オーシャンにて
魔王杯最終日。
ここまでの7日間、誰一人として海底都市にたどり着くことはなかった。
その原因はキャプテンギルードゥによる海上の占領。
ギルードゥの海賊団はヘビー盗賊団より規模が大きい。
船以外にも潜伏している海賊が浜辺や別のエリアにも存在する。
それによって海が荒らされることはほとんどなかったそうだ。
たった3人を除いて浜辺にすら近寄れないジ・オーシャン。
もう一つの理由として侵入者や挑戦者の6割を自分の仲間にしているからだ。
そんなことを知る由もなく、ハンゾウとエルロットはジェイドと合流した。
そのまま浜辺を抜けてアナザーキングダムへと向かう。
ギルードゥの船に手を振り感謝の意を示した。
「そういえばお二人は優勝したら何をお願いするんですか?」
エルロットの質問に少し驚くジェイドとハンゾウ。
殺しや略奪、裏切りが当然とされる世界の中でこんな純心的な質問をすることに驚いていた。
「お前、純情だな。逆に羨ましいな」
「なんですかそれ…」
エルはにこやかな表情をした。
「まあ、ワシの自慢の弟子じゃ。その心が無ければ魔法拳やワシの教えた魔法は習得できんかったじゃろう」
「拙者の願い…貧しい民を救うというのが無難でござろうか?」
「無難って…」
「お前は欲ってのがないのか?」
「別に富は要らぬし、名誉や賞賛など優勝すればいくらでも貰える。このような汚れ荒んだシノビの欲など大層なものではない」
「……」
「……」
会話が途切れてしまう。
無言になる二人。
エルの師匠も言葉をかけることができなかった。
無言のまま木々を通り抜けて影のない大通りに出てしまった。
「アナザーキングダム到着だ」
ちょうどジェイドのサングラスが陽に当たり、黒光りしていた。
「最終日ってこともあってピリピリしてますね」
城下町は静まり返っている。
「まあ、拙者らの目的はただ一つ」
「え?ワシ聞いとらんが…」
「ほう?そなたらカイザーを狙うのか?」
ジェイドはサングラスをかけていても分かるような驚きを見せ背後にせまる気配と声に反応して振り返る。
「おい、冗談だろ」
ハンゾウとエルは状況を全く把握できていない。
「にゃははっ、当然か。まあどちらにせよ、侵入者は抹殺する。それが私、ニャリル・バナティアの流儀だ」
魔法陣から現れた二丁の拳銃を持ち、こちらへと銃口を向けた。
「お、お前!」
「おっと、言い忘れた。このエリアのプレイヤーはほとんど殺した。頭を撃ち抜かれたくないならとっとと立ち去るんだな」
ニャリルは勝ち誇ったように言い放った。
異界に転送された彼女が何故ここにいるのかが分からなかった。
「わかった。ニャリル、俺たちはここから立ち去ろう。失礼したな」
両手を上げ降参の意志を伝える。
「ちょっと!ジェイドさっ……むぐぐぐ」
「エル殿。ここは黙っていた方が良い。誠実な武人の心を持つそなたには心苦しいかもしれぬがここは腹をくくるのが懸命な判断でござる」
ニャリルは銃口を下ろした。
「物分かりがよいな」
「ちょいと質問していいか?」
冷や汗をかいた顔はニヤリと笑っていた。
「モノによるな」
「カイザーは何処だ?お前が殺したのか?」
ニャリルはやな顔せず答えた。
「カイザーは今、ヘルフォレストにいるだろう。その間に私がこの城下町を占領している。まあ、一部兵士や上位プレイヤーは逃したがこのエリアはほぼ私のもの同然だ」
ジェイドは両手を下ろし指をニャリルに指す。
「一応言っておくがお前を異界に飛ばせと魔王に頼んだのはこの俺だ。異界から早々と帰れるはずがない。それにお前がカイザーに勝てるはずがないだろ、お前は頭良いからそれくらい分かっているはずだ」
ニャリルは銃口を向けず、俯いたまま口を開く。
「私は異形将軍様に気に入られ、半獣を辞め体を書き換えさせられ異形となった」
「異形将軍?」
エルが呟く中、ジェイドが2人に小さな声で話した。
「すまん、地雷踏んだ。逃げる準備を頼む」
エルとハンゾウは頷くとそのまま走って逃げていった。
「異形将軍様は素晴らしい!我に力を与えてくださった!この愚かな世界をぶち壊す力をなぁぁぁ!」
ジェイドの方に銃口を構えて引き金を引く。
「おっと!危ない!」
右袖に仕込んだナイフで銃弾を弾いた。
ニャリルの体は液体のようにドロドロと溶けていた。
「ァァ。小娘とゴブリンを逃した…」
「二つ同時に手に入るほど楽じゃないぜ。この世界はよ」
「異形将軍様は私になんでも与えてくださった!」
「なんでもって言ったよな?是非とも会いたいな。その異形将軍様とやらに」
「貴様に異形将軍様の何が分かる!」
今度は二発。
しかし、これもジェイドが弾いた。
「ディナー付きのクルーザーのvip席を奢ってほしいってのが願いだな。叶えてくれるんだろ?」
「おのれ!おのれ!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!」
怒り狂うニャリル。
体はほとんどが溶けて、元々の美しい容姿は失われ、完全にアンデットのような見た目をした異形と化してしまった。
だがジェイドは放たれる弾丸を受け止め、笑っていた。
「卓球でケリつけようぜ、それがこの世界の掟だ」
今日の一言
「卓球でケリつけようぜ。それがこの世界の掟だ」
by ジェイド




