第40部 高鳴るビートは表裏一体
魔王杯最終日が近づく中、サツキはヘビー盗賊団のアオダとダイショにリベンジマッチを申し込まれた。
だがアオダとダイショは得意のダブルスではなくシングルでの試合を希望していた。
それに応じるサツキだが以前よりも遥かに上回る力を発揮し、サツキの必殺技である「雷鳴チキータ」と切り札である「バスターブレイク」ですら破ってしまった。
絶対絶命のピンチの中、サツキは違和感を感じていた。
後ろで応援しているダイショの存在に。
7 ー 9
サーブ権 アオダ
「あ、アイツらおかしいって!」
(必殺技も破られたしどうにも…)
黒のサツキは気づいた。
アオダを見ると相棒にへと作戦を告げる。
「なるほどプランBか」
「な、お前らに、も、もう勝ち目はないからな!」
(アオダさんめちゃくちゃ動揺してるけどプランBって何なんだよww)
アオダが震える手を抑えてサーブを出す。
「………」
(………)
彼女たちは口を開かず、じっとこちらを睨んでいる。
しかもほとんど脚を動かしていない。
この行動は第三者が見るならば明らかに卓球経験者とは思えない行動だ。
しかし、
「……?」
ラリーが続く中、だんだんとアオダの動きが鈍くなっているのが分かる。
「ぉぃ、どうしたんだヨォ…」
冷戦が続く中、アオダは追い込まれていた。
「ぬはっ…!逃した!」
そしてダイショが話しかけた途端にアオダはボールを逃してしまった。
8 ー 9
サーブ権 アオダ
「あ、アイツら全く動かないからリズムが取れねえ」
「ボールだけじゃヌゥンのタイミングが合わないヨォ!」
二人が言い合っているとサツキが自信有り気に笑う。
「な、何がおかしい!」
「いや、悪りぃ。お前らの卑怯な戦法を見抜いちゃったなぁって…」
「そんなはずはねぇヨォ!これは俺とアオダのビート!芸術分からぬ底辺にゃ理解できんヨォ!」
(やっぱ、音が関係してたんだね)
「ギクッ!」
「何やってんだぁ!ダイショぉ!」
「ちょっと変わるね。で君たちの戦法の内容だけどまずダイショが音を聞く。そこから頭の中でその音をリズムとして刻み1つの曲にする」
前髪に隠れた赤い眼が光ながらその威光を示す。
「だがそれを卑怯な戦法ということを証明しようがないな。たしかにダイショは耳はいいがそれを聞いて曲にしたところでどうしろというのだ?俺に伝えようが今は試合中、曲なんぞ聞いてる暇は無い」
「ん?僕は一言もその曲をアオダに伝えるなんてこと言ってないけどな〜w」
「ギクッ!」
「何やってんだぁヨォ!アオダヨォ!」
「そんで伝え方は簡単。ダイショがヨォヨォ言ってたのは聞こえてたよ」
「ゲゲゲゲッ!」
「お、おい。ダイショ!」
(お前らリアクション分かり易すぎ……下手な探偵小説の犯人よりわかりやすいぞ)
「ヨォが四回。ヌンが一回。この四回はバスターブレイクを打つまでの余白。バスターブレイクは僕と相棒が協力しないと打てないんだ。だから雷魔法をラケットにつけて相棒に打たせるまで約ヨォ四回くらいの間がある。そんでヌンはブロックする時の合図でしょ?」
「ゲゲゲゲッ!」
「ま、まずいヨォ!」
(あのな、お前ら…もういいや。相棒、このままだとみんなが退屈しちゃうからさっさと証明しちゃってくれ)
「オッケー。まず、僕らの足音やボールの音をリズムとして覚えて頭の中に曲、つまり僕の打球を完璧打てるピッタリのタイミングを導き出すためのナビゲートを作ったんだ。それをヨォとヌン、そしてフゥを使って曲というリズムのナビゲートを作った」
「ぇぇぇ え!フゥを聞き取ったのかヨォ!?」
「おいダイショ。その反応じゃ、認めてることになってるぞ」
「ヌンはブロックする時の合図、ヨォはボールの音。そしてフゥは僕らの足音やラケットを振る直前の合図ってこと。ここから曲を構成してアオダに伝える。
アオダとダイショがこの法則を理解していれば僕らの打つテンポなんて数回くらいラリーしていれば大体はつかめる」
(なるほどなるほど)
「いやお前はわかってないのかヨォ!」
「ぐっ、ほぼほぼ正解だ。それに加えて弱点まで見抜きやがった」
サツキは笑い、紅い眼の光は前髪の中に消えた。
「ふふっ。弱点はフゥの音にあるんだ。つまり僕らがほとんど動かなければフゥの音が取れない」
(ん?どういうことだ?)
「フゥはいわゆるベース。ドラムやベースギターのような役割をしてるんだ。これがないとベースとなる音がなくなってバランスが悪くなる」
アオダとダイショはグタッとその場に倒れた。
(証明完了ってか)
「でも別に反則ではないんだよね多分。あでも、ダイショがアオダに行動パターン教えるのは駄目か」
(どちらにせよ、お約束だからな。お前らもう帰るんだろ。いつも通り土下座しろよ)
赤のサツキの言葉に反応し、アオダとダイショは立ち上がる。
「確かに俺たちのタマシイビートは破られた」
「あ、その戦法そんな名前だったんだ」
「勝ち目はねぇ、お前らぱねぇ、だけど俺たちゃ逃げるわけにゃいかねぇ!」
雨風に負けず立ち上がる精神はまさに勇者だった。
「戦法や必殺技が破れたら降参ってのがお約束。かもしれんがそうは問屋が」
「降ろさねぇヨォ!」
その眼は地を這い欲望のままに物を盗む盗賊ではなく、己の意思に従い戦う戦士の眼をしていた。
「久々にいい試合ができそうだね、相棒」
(ああ、卑怯な手だろうとぶっ飛ばす!)
相変わらず乙女とは思えない発言だが彼女たちの心にも卓球への志という炎が灯った。
10 ー 9
サーブ権 サツキ
試合もそろそろ終盤。
タマシイビートを破ったサツキは天下無双。
もう止められない!
「いくぜ!相棒!」
(ああ、もちろん!)
「ま、まずい!」
チャンスボールが上がると雷の魔力を込め、サツキは高く跳ぶ。
「くらえ!バスターブレイク!」
「うっ、もう駄目か」
アオダがラケットを下ろしたその時、
(ん?なんかボールが遅く見えるような…)
打てるかもしれないそうラケットを上げようとする。
「アオダぁ!諦めるなヨォ!曲はまだ終わっちゃいねぇヨォ!ここを乗り切ればチャンスはまだあるヨォ!」
後ろからダイショの叫びが聞こえる。
ルール破りの反則技じゃない。
アオダの力を引き出す引き金だ。
「俺は今、極限の集中状態だ。新必殺を見せてやる!」
(そんなのハッタリだ、俺に必殺技なんて…)
「諦めるなヨォ、信じろヨォ、お前の相棒、俺ダイショぉ」
心の中にそれとなくそんなラップが聞こえた。
「ダイショ、ありがとう。俺たちは犯罪者。でもロマンがほしいから盗賊団になった」
心の中に響く前奏。
(そうかここはライブ会場だったのか)
「頭は悪いし、足もクセェ、運動音痴で、努力しねぇ、いっつもお前他力本願。いっつも祈っても叶わぬ心願」
「神さんは俺を見捨てた。地を這い彷徨うネズミさ。もういっそ、天の空に消してくれ。こんな最低人間」
「お前は一体どしたんだ?お前と俺は一心同体。お前が苦しいなら、俺の心も相当苦しい。でもこれだけは忘れるな俺は相棒」
「気持ちじゃ願いは叶わない。世間にも敵わない。世間と絶望に潰される哀れな羽虫の遠吠え。所詮この世、金、酒、女に容姿」
というのもつかの間の妄想。
かもしれないが俺は力を分けてもらえた。
いや、俺とダイショは一心同体。
力は元々あったんだ。
大切なものは目の前って姉貴が言ってたなぁ。
色々思い出せた。
盗賊は汚い。
でも汚くても強いし、ワルっぽいとこがカッコいい。
騎士だってカッコいいし、血や汗で汚くなる。
ほらなんら変わらないじゃん。
思い出せた。本当にありがとう、姉貴、ダイショ。
そして、ライバルでいてくれた(強制)
ユキムラサツキ!
「ヌン!」
気がつくと大地を思いっきり踏みしめた。
右手一杯に………いや足りない。
両手に力を込めた。
ラケットを持ち替えた。
両手剣を握るようなその様は不恰好だが、アオダの覚悟が感じられる。
「新必殺!アオダスペ……いや…」
ダイショの方に顔を向け照れ臭そうに笑う。
「アオダアンドダイショスペシャルぅぅぅ!」
目の前に押し寄せる強大な光に立ち向かうアオダは目が眩むどころが目を大きく見開いていた。
「いけぇ!相棒ぁぁぁぁ!」
叫び声とともにダイショのゴーグルが反射し光りだす。
バスターブレイクはラケットを押し出そうとするがアオダはそれを押し返そうとする。
ジリジリと削れるラバー。
しかし、怯まないアオダは集中し全ての気力を解き放つかのように叫ぶ。
「うおおおおおおおおおぉ!」
バキッ。
「あ」
「あ」
「あっ(察し)」
(あっ)
ラケットが折れた。
当たり前といえば当たり前だ。
バスターブレイクは勢いを落とさないままアオダの顔面に直撃する。
「ぬほぉ〜ん」(訳 ウソー)
その勢いに吹っ飛ばされたアオダは後ろにいたダイショとともに数メートルほど離れた木に追突。
「ぎゃふん!」
「そんなバカな……イェア…」
そのままズルズルと倒れた。
「死ぬときだろうと一緒だぜ」
「おうヨォ」
お互いにグーの手でコツンとぶつけ合う。
「いや、死んでないだろお前ら」
11 ー 9
サツキ 勝利!
「そういえば、アオダ」
「なんだ?」
「笑いに来たのかヨォ?」
「お前、ペン持ちからよくあんな変な持ち方したよなwww」
(ち、ちょw相棒、そんな笑わないのwwたしかにオチは面白かったけどwwww)
「やっぱり笑いに来たのかヨォ!」
「いや、ダイショ。そこまでにしよう」
アオダとダイショは夕暮れを背に土下座する。
「ありがとよ、お前ら」
「今度は負けねぇヨォ」
「おう、もちろんだ」
(ダブルスは懲り懲りだけどね)
「それでは退散ー!」
「次こそ勝ってみせるヨォ!」
「この小説を読んでる諸君!俺たちヘビー盗賊団のこの俺、アオダと」
「ダイショの応援をォ!」
「ヨロシク頼むゼェ!」
「頼むヨォ!」
「アイツら、次回も出る気満々だな」
(こういうキャラがいても悪くないと思うよ)




