第28部 現れし異形たち
ジ・オーシャンに浮かぶ宴の船。
しかし、宴の最中とはいえ空の亀裂からから異形がやってきた事は真実だ。
ギルードゥは船内に乗客を避難させる。
「波の揺れが変わった……?」
嵐が来たように波が荒ぶる。
「異界からのお客さんかねぇ。俺は悪意のない敵とは闘いたくねぇんだがな」
ギルードゥが振り返るとフードを被ったゴブリンとエルフの娘がいた。
「私もついて行きます」
「拙者もお供させていただく」
「お前らがいてくれて安心だ。俺ほどじゃあねぇがお前らは充分強い」
ギルードゥは避難しろとは言わず笑顔で答えた。
「恐らくこの海の中だな。精霊、オーラ的なのは感じとれるか?」
「うむ、ギルードゥ殿。何処からかもの凄いスピードで泳いでくるのが分かる。だがいつ来るかはわからんが異界の存在である事は確かだ」
師匠と呼ばれる精霊の声を聞くとギルードゥは安心しろとハンゾウたちの方を叩く。
静かな夜の海。
しかし波の音以外にも何かが聞こえる。
「よし!今日の晩飯はソイツに決まりだ!」
水が爆ぜるような音が聞こえた。
その方向へとギルードゥが指を指す。
その先には黒い影が月と星空を隠していた。
グランフレイム火山地帯付近大洞窟
この洞窟は盗賊団の中でも最多の戦力とも言える盗賊団、ヘビー盗賊団のアジトとなっている。
「あ、姉貴ぃ!火山が…火山が噴火しちゃいました!」
迷路のような洞窟の奥、屁っ放り腰でヒゲを生やした盗賊が姉貴と呼ばれるフード付きのパーカーの様な服に身を包んだ少女に報告している。
「なっ、なんだと!オブジェクトではなかったのか?!」
「い、いえ、それが……金属のゴーレムの様な異形が自ら爆破させたそうです!」
次第に盗賊たちが集まり「姉貴ィ…姉貴ィ…」と嘆いていた。
「しょうがないねぇ。あんたら、アタシに感謝しなさい」
その少女はフードを外すとショートボブの頭に生えたツノが露わになった。立ち上がると同時に尻尾が地面を叩く。
「この、ドラン・ドラミング様が異形とやらを成敗してやる!」
おおおと歓声が上がる。
彼女は半竜族のレッドワイバーン種に分けられる上位種であった。
レッドワイバーン種は炎属性の魔法を得意としている。彼女は一族の中でもトップクラスの使い手であり、ヘビー盗賊団のメンバーからの信頼も厚い。
歓声と共に彼女は洞窟の入り口へと向かい、暗闇が彼女の姿を隠した。
それでも喜びの歓声は止まなかった。
「そういや、偵察に行かせたバカ2人はまだなのか?アイツら手ぶらで帰ってきたら許さないからな」
ヘルフォレスト
サイトはサツキを抱え、オークたちから逃げ切った。
ヘルフォレストに着いていた事など周りを見れば一目瞭然だ。
「異形がどうたらこうたら……やれやれ、支配者は相当頭が悪いんだな」
ジェイドの初期地点である小屋に避難し、サツキを寝かせた。
「もぅ……食べりゃれないひゅ……」
相変わらず寝顔がだらしない。
おっと、俺とした事が…またコイツの寝顔と夢に見入ってしまった。
起こしたいのも山々だが、ここまでの出来事を寝て過ごしている時点で起きない。
ジェイドに任せられたのはこの娘の保護だ。
ジェイド…早く来てくれ……。
アナザーキングダム上空はおろか、地上にも空間の穴が開き、ローブを着た異界の者がレンガ道を踏みしめる。
体は成人男性ほどだろう。
「ほほう…ここがタッキュウの世界か…おい、貴様!」
ローブの中から目が光り、その怒号は1人プレイヤーを標的にする。だがその声は男に近いものだったが人の声とは思えなかった。
胸ぐら掴んでプレイヤーに訴える。
「おい、貴様。貴様だ。この世界で一番強い者に会わせろ」
「オーディ様!何者かが挑戦を!」
焦って報告しに来たオークに対してカイザーは脚を組み、嘲るように答える。
「通せ、異形の者だろう?たった今、魔王から全プレイヤーに避難しろとのメッセージが届いた」
玉座を降りると不敵に微笑む。
「ここは英雄らしく、その異形とやらを退治してみせよう」
剣を神器界から呼び、背中に担いだ。
その姿は英雄のようであり、カイザーらしい姿でもあった。
魔王の部屋
「おい貴様、何をやっておる」
いや、あの、その。
次元追放をし過ぎて次元の壁が薄くなってしまったんだ。
「というか次元を開くのは簡単なのか?」
いや、僕や彼らは無理矢理、次元の壁をこじ開けているだけなんだ。
次元の壁、次元壁は長細い次元の道を囲んでいる壁だ。
バームクーヘンみたいに外側からの防御になってる。
でもそこで僕が無理矢理開けるとどんどん次元壁が脆くなるんだ。そこを異形や異界の者が、世界への侵入を目論んでやってくるわけだ。
「まさか侵入者が来るとはの……まあ、作り物の世界じゃからしょうがないが、そなた作り物の世界すら守れぬとは情けないのぅ」
「油断してただけだ。いざとなれば僕が行く」
「……部下が死にそうになったらわらわも助けてやっても良いか?」
まあ、君の願いだからねぇ。
……いいよ。むしろ仕事がはかどるし、大会も続けられる。
……ねえローラン。本当にサツキちゃんを使い続ける気なの?
「指揮官のわらわが兵をどう使おうと勝手じゃ。あ奴めが、厄災の双子の末裔だとしてもな……」