第23部 新たな刺客
「さあ、始めようか、嬢ちゃん?」
試合は始まろうとしていた。
船の上では沢山の歓声の中、私はステージの上でこの船の船長キャプテン・ギルードゥと試合をしようとしている。
ルールは一回のみのゲーム。
11点マッチ
サーブは二回交代
デュース無し
11点マッチだがデュースが無い為失点や点数差が敗北を呼ぶ。戦況の逆転が難しいゲームだ。
元々、日本国の卓球というものはラケットを持って行う競技だ。
だけど、異世界卓球はラケットを持っていないといけないというルールはない。
私は……この試合で…何かを掴んでみせる!
中央都市アナザーキングダムの奥に見える城。
その城をプレイヤーたちは帝王の城と呼んでいた。
その名前の元となった男、オーディ・カイザーはその城の中で今宵も退屈そうに黄金の玉座に腰掛ける。
五月蝿い部下や仕事もない。
ただ、無謀なプレイヤーを王の剣で葬って現実を見せるだけのこと。
だが、もう彼は知る人ぞ知る有名人となった。
彼の強さを知ってしまっては劣等感を感じたり、己の無力さに絶望したりしてしまうだろう。
自ら向かわずとも他のプレイヤーにレートを越されることはありえない。
だからこそ、彼は退屈なのだ。
しかし、退屈かと思われたその時、静けさの中聞いていた風の音とともに音が聞こえる。
徐々に駆け上がるような音で複数聞こえる。
「……誰だ?悪いことは言わん。今すぐ帰れ…」
集団で攻めて来ようが一振りすれば風向きが変わるほどの威力を誇る神器魔剣グラムがあれば容易く討ち払う事ができる。
だが足音は止まなかった。
押し寄せるかのようにプレッシャーを煽る蝋燭の火。自分がいくら強者とはいえ自分に挑むのだから相当な実力の持ち主なのかもしれない。
だが杞憂だった。
足音が止むと緑色の肌をした肉体が数十体ほど彼の目の前に跪いていた。
その真ん中にいる赤い肌をした白髪の肉体は長だろう。
「貴様ら、私に何用だ?」
赤い肌の肉体が顔を上げる。
「お初にお目にかかります。私の名はブルシュ・オークリー。ハスノハイ王国と条約を結んだ国、ロバラー王国から遣わされました」
その豚鼻と逆立った牙。間違いないあの猪の顔はオークだ。
「ロバラー王国……聞いた事があるな。たしか、オークやゴブリン、オーガのような平地や山奥で生活する種族が集まる国だったな」
「このオークリー。ぜひカイザー様のお役に立ちたいと思いまして…どうか私たちの軍を貴方が率いてくれませんか?」
少し考える。
コイツらに悪意はない。
むしろそっちの方が城への侵入や無駄な戦闘への対応ができる。
「ならば答えは1つ。この私に忠誠を誓え。そうするならば貴様らを使ってやる」
というと「ハッ」と返事して跪く。
「表を上げよ」なんて久しぶりに言ったような気がした。
「ではまず手始めに邪魔者を排除してもらおう」
「じゃ、邪魔者というとあのミカエラ・ジェルエンですか?」
(やはりあの戦い、もう広まっていたか)
「確かに、ミカエラは下手をすれば私を倒すことができるかもしれん。だが私は奴らと本気の試合をしたい。それに失礼だが貴様らが奴らと戦おうが犬死するだけだ」
「ハッ、こちらこそ失礼致しました」
少し言い過ぎただろうか。
「とりあえず貴様らに排除してほしいのはユキムラサツキという女だ」
「ユキムラサツキ……聞いた事があるような…。というより何故そのような知名度の低い選手を?」
「オークリーよ、知名度が低いからこそ危険なのだよ。まあ、排除というよりは半分偵察のようなものだ。あと数名は城の防衛を頼もう」
「了解致した!いくぞ!今こそカイザー様の為に!」
「ウオオォ!」と部下達が返事をすると行進を始める。
また暇になるなとカイザーは玉座に腰掛け頬杖をつく。
しばらくするとドスドスと階段を降りる音が響いた。
「明日で3日目か早いものだな…」
パタンと勢いよくボールが木の板に弾かれる音が響いた。
エルロット vs キャプテン・ギルードゥ
0 ー 11
勝者キャプテン・ギルードゥ
試合は一瞬にして終わっていた。
呆気なく負けた。
これだけ酷い試合をしたのだから周りから何か言われるのだろうか?
さらにここの船長は大きな宗教の教祖、いや信仰神とも言えるだろう。
何をされるかはわからない。
「嬢ちゃん。いい試合だったぜ」
握手を求めるかのように手を出すギルードゥ。
「あ、えっと、あ、ありがとうこざいました」
ニコニコしながら私の手を握るギルードゥ。
私は声がつっかえてよく話せていなかったような気がした。
私の知る闘いとは違う。
勝者が敗者を踏み、次の戦場へと駆け上がる。
こうして真の勝者である王を決めるのだと。
そんなものだと思っていた。
けれどもここは違っていた。
潮風すら感じさせない活気で闘いを盛り上げてくれた。
どんな結果だとしても彼は握手を求めてくれた。
「エル、ようやく理解したようじゃな」
淡い緑色の光を放ち私の肩にのる師匠。
やっと、卓球で闘うという意味がわかった。
「ええ、師匠。卓球は戦争とは違います。誰もが楽しくラケットを持って闘い、お互いを高め合う。それが卓球ですっ」
その言葉を聞くと「おお!」と歓声が上がった。
彼らもまた、邪教を払うのではなく邪教すらも受け入れる親切すぎる信者たちなのだった。
「そういえば、嬢ちゃんの他にも俺に挑んできた勇者がいたなぁ。そこにいるんだろ?」
彼の指差す方向には帆が風に揺られている景色だ。
「フッ、流石でござるなギルードゥ殿」
そこには逆さまに吊るされた藍色より淡い色の頭巾と身軽に作られた鎧のような服。
鎧にしては軽すぎるだろうか。
手や頭巾から見える顔は、コケのような緑色の肌が見えていた。
「そして、お主がジェイド殿が言っていたエルロット殿でござるな」
見失うと後ろから肩を叩かれ、振り向くと見慣れたゴブリンの顔が見える。
「えっと貴方は?」
「私はゴブリン族の忍。ゴブ・ハンゾウでござるよ」
ゴブリンは森にも住んでいるのもいるから沢山見てきたけどこんなにも生き生きとしていて、その中に熱い意志を持っている眼をしたゴブリンは見た事がなかった。
「わ、私の名を何故?」
「ちなみにワシの名はシショーじゃ。よろしくのハンゾウ殿」
「ああ、よろしくな、シショー殿。で、私はお主と同じくジェイドの協力者だ」
そこで2人は今までの事を話す。
「ああ、溺れそうになったところをギルードゥ殿助けてもらった」
「でもハンゾウさんは私と同じくギルードゥさんに挑んだんですよね?」
「ああ、完敗でごさったよ」
ハッハッハと笑うとグラスの水を飲む。
「やはりあのキャプテンギルードゥ。とんでもない力があるようじゃな」
「そうですね…」
「まあ、拙者らに危害を加える気はない。今宵くらいは楽しもう。敗者としてな」
「ええ…そうですね…」
楽しげな音楽とともに月明かりがエルのグラスの残り少ない水を照らしていた。




