第22部 大好物はメロンパン
煙の中ではまだ彼女たちが死闘している。
「はぁぁぁぁ!」
浮き上がるボールを叩きつけるように打ち込んだ。
「させるか!」
拳銃である黒式を四方八方に撃つ。
銃弾は正面には飛んできていない。
煙の中へと消えると、卓球台の上に現れた。
「17弾蜘蛛の糸!」
ニャリルが合図をすると一斉に銃弾が進むべき方向へと飛んだ。
「あ、あれは?」
糸が張り巡るように銃弾が飛び交う。まるで金網のように銃弾の軌道の跡が空間に残り、ボールを難無く弾いた。
3 ー 1
サーブ権 サツキ
「…くっ、今更だけどアイツ、銃で俺たちを妨害してたよな?反則だろあれは!」
ITAのルール上、相手を妨害する魔法は禁止されている。
(恐らく魔王もこの空間だけは見えないだろうね。カメラもGPSも反応しないや)
ニャリルの方を見ると言葉無く悪魔のように微笑んでいた。
「どーすりゃいいんだ。銃弾は飛んでくるわ、銃弾で防御されるわ…」
ゴトンと背後から何かが地面にぶつかった音がした。
驚いて振り向くと少し大きな箱があった。
「おい。貴様、勝負の最中に背を向けるとは…殺されたいのか?」
拾おうとするがニャリルは銃を構えて僕らを威嚇している。
「わかった、わかったから。タイム!ターイム!」
目が黒くなると空間モニターからタイムを実行するボタンを押した。
まあ、このルールがあるのはありがたい。
実際タオリングってやつはあるんだけどね。
ニャリルは舌打ちをして銃を下ろす。
僕はラケットを台に置くと箱の蓋を開ける。
箱は開けると周りを照らすような白い光を放つ。
その中から甘い砂糖の香りがした。
「め、メロンパンだ!」
思わず言葉に出てしまう。
ニャリルの方を見ると「ん?」と疑問に思うような仕草をする中、「それ食べたい!」みたいな本能的な何かが少し感じられる。
「ま、まぁ…どうせ貴様は冥土に行くのだから…その…まあ、最後の飯だと思って食べるといい…だが私は試合が始まったら即座に貴様を撃つ。いいな?」
手元にあるメロンパンをもう一度見る。
キラキラと輝くカリカリ部分。
中はどんな食感なのだろうとワクワクさせる。
その匂いは僕を魅了するかのようだった。
お言葉に甘えてかぶりつきたいとこだけど相棒は疑ってる。
(おい、ニャリル。お前、まさか相棒が食べてる間に撃ったりしないだろうな?)
「そうか、貴様のもう一つの人格はそのように聞こえていたのか」
一度考えると
「誓おう、絶対に撃たないと」
といい、神器 黒式を放り投げる。
(ふぅ。それで誰からなんだ?)
「はむっ……」
(もう食べてるじゃん!)
カリッと音がすると同時に口の中に甘い香りがふわぁーっと広がる。噛むと柔らかなパンの食感。
「コレは、最高のメロンパンだ!」
思わず立ち上がって叫ぶ。
(ん?)
立って闘うのも精一杯だったはずなのに僕は何故か二本の足で立っている。
「ぼ、僕……闘えるの?」
あんまり自覚が無いけど多分、あのメロンパンに何か入っていたんだろう。
でも相棒は闘えないみたいだ。
(相棒、あとは任せたぜ)
「う、うん…」と頷くが腕が震えている。
怖い…怖いんだ。
ニャリルにタイム終了と告げると試合が再開された。
3 ー 1
サーブ権サツキ
「活気を取り戻したようだな…まあよい、衰弱から逃れようが余の黒式で撃ち抜く…」
彼女が拳銃を拾い上げ両手に構えると同時にサツキもボールとラケットを持つ。
「相棒がいない…僕が、僕がなんとかしなきゃ!」
サツキはボールを高く上げる。
「一か八か……負けたわけじゃない」
サツキは眼を閉じる。
右手を左の腰のあたりに構える。
「あ、あの構えは?!」
(相棒のバックサーブだ!)
僕には相棒みたいな強い技は無い。
正直なところ僕は彼女と違って卓球歴は3年。
結構浅い。だけど僕には魔法が使える。
ローランさ、ちゃんが教えてくれた僕の誇れる特技。
まだ未完成だけど一か八か。
試合って試し合うから試合。
ここで失敗してももう一度チャンスがある。
死んじゃったら元も子もないけど。
これからもいっぱい試合するために
僕自身を高めていくために
ネトゲの次に好きな卓球を続けるために
僕はここで死んじゃいけない。
彼女はパッと眼を開く。
「ここっ!」
刀で居合抜くかのように振り抜きボールに回転をかける。
プツンという音。
よし完璧だ。と心で呟く。
勢いを増したボールは、サツキのフォア側からニャリルのフォア側のコートまで綺麗な弧を描いて飛んでいった。
「ただのカーブボールか。この銃で撃ち抜いてくr」
その時だった。
「サンダーボルト!」
彼女の指差す方向には雨雲がかかっていた。
油断したニャリルは驚いた。
自分の目の前に雷が落ちてくるということに。
「まさかっ!貴様!」
落雷は見事ボールに命中。
軌道を変えたボールはコートの外へと飛んでいく。
それとともに落雷によって霧が晴れてしまった。
「な、何という事だ……余の幻影壁を破るとは…」
3 ー 2
サーブ権サツキ
「はぁ、やっとだ」
(やったな!相棒!)
ニャリルは眼を開いたまま困惑する。
「何故だ!?何故だ?余は何十年もの時を経てこの技を身につけた。だが何故だ?衰弱の霧は破られ、雷1つで余の数十年という努力が一瞬にして水の泡となった……許さん…オノレ、オノレオノレオノレェ!」
急に狂い出した彼女にサツキは驚きと恐怖を隠せず困惑していた。
「ニャリル…さん?」
ニャリルは無言で銃口を向ける。
「はははっ。最初からこうすればよかったようだな。貴様は何もできぬ。死ね!ユキムラサツキ!」
トリガーを引くとともに弾ける音が響く。
眼を閉じ頭を下げるが避けきれない。
だが、薄い金属の板を落としたような音が聞こえる。
「……た、助かったの?」
前にはラフなスタイルの服装に藍色のポーチ。
振り返ると夕焼けの光に反射してサングラスが輝く。
「ジェイドさん!」
「おう。無事だったみたいだな」
「おのれ…ジェイド……貴様まで…」
後ろから肩を叩かれた。
「ユキムラサツキ…。逃げるぞ」
振り返るとツンツン頭のメガネの男と何やら見覚えのある2人がいる。
ツンツン頭のほうは僕と同い年だろうか?
「魔王さんのペナルティーコールが来るまで俺が時間を稼ぐ!サツキ!そこのメガネくんと逃げるんだ」
ニャリルの弾丸をナイフ2本で防ぐジェイドさんすげぇ。
そんなことよりジェイドさんの為にも逃げなくちゃ。
「ちょっとピリッとするけどいいか?」
初対面だけどここは信じるしかない。
僕は頷く。
一応、相棒に確認を取ろうとするが話せるほどの気力は残っていないみたいだ。
「逃がさん!」
僕の方へと向けて引き金を引く。
「やべっ!手元が狂った!」
後ろの2人は顔を隠しながら、ジェイドさんの方へと走っていく。
「ああ、奴らか。安心しな、結構頑丈な方だ」
「ゴフッ!ギャン!ビェェエ!」
「あふっ!ヘブッ!いてぇヨォ!」
体を張って僕を庇ってくれた。
全弾彼らに命中。
てか、大丈夫なの?
血とか出てないけど…痛いよね…。
「じゃ、行くぞ」
「え、待っ…」
答える間も無く、ほんの一瞬で赤い景色が消えた。
魔王の部屋
いやー、そこまでやるかー。すごいなぁ異世界。
「そなた、絶対にそんな事思っておらぬだろう」
まあ、僕が一番強いからね。
ということでとりあえずペナルティーコールかけますか。
「ああ、聞き忘れたがルールを破ったときの罰とはどんなものなのじゃ?」
まあレベルに分けられるね。
そのレベルは反則した罪の重さに比例するよ。
レベル1
あ、やっちゃった。ってレベル。
サーブの順番間違えたとか、小さい罪。
ペナルティは5時間試合できない。
レベル2
暴行、殺傷、などなど卓球に関係なく傷つける行為。ルールを破るなどの反則行為。
ペナルティは2日試合できない。
レベル3
殺人、仮想世界の改変などなど。
ペナルティは3日以上の試合停止。
また場合によっては失格。
ま、ヘビー盗賊団とやらが暴れてるけど彼らは数が多い。
「まさか面倒などとほざくのではなかろうな?」
……。え、えっとレベルの高い方を優先します。




