第19部 エルの魔王杯予選 偵察日記
私の名はエルロット。
皆からはエルって呼ばれてる。
私は何も無い森の集落で生まれたから姓がない。
力と拳だけが取り柄の私は集落から出て傭兵とかしてきたけど卓球革命が起きた後、私は失業した。
私の他にも失業者は沢山いた。
冒険者や傭兵、狩人なんかもそうだ。
知能の低いモンスターや種族は消え、日本国から沢山の人間がやってきた。
でも私は奇跡的な体験をしました。
それは師匠との出会い。
私は卓球を1から教えられ、厳しい修行に耐えてここまできました。
あ、私の横に光ってるやつがそれです。
精霊らしいです。
願いですか?なら失業者の皆様を救いたいです。
魔王杯予選。
私たちはこの狭くて広いバーチャル空間に召喚された。
師匠から沢山「にほんご」というのを教えてもらいましたがバーチャルみたいなものは日本の言葉ではないだとか。
私が召喚された場所は森。
初日はほとんど卓球してた覚えしかないなぁ。
でもご飯は美味しい。
仮想空間なのにね。
「よぉ!嬢ちゃん!」
「えっ!あなた、どこから!?」
「エル、構えろ!」
「なぁにナンパでも勝負でもねぇ。アンタ、ここのエリアでのレートかなり高いらしいな」
「何しろ、7位の実践だろ?」
ひょんなことから私はサングラスのおじさんとツンツン頭くんに団体戦のスカウトをされた。
私は現在7位くらいらしいです。
師匠は知ってたらしい。
私が調子乗らないようにだって。
本題に戻ろう。
私はサングラスのジェイドさんとツンツン頭のサイトくんにジ・オーシャンとグランフレイムの偵察を頼まれた。
勿論、彼らを完全に信用しているわけじゃない。
でも悪い人じゃないのは確かだ。
目を見れば大体わかるからね。
で、潮風たっぷり海底都市ジ・オーシャンに着きました。
「師匠、どうやって海底に行こうか?」
「泳ぐしか無かろう。というよりも水中呼吸の魔法ならかけてやれるぞ」
だがもう陽は沈んでしまいそうだ。
海に朱色のインクをこぼしたように染まっている。
「いや、疲れたし明日にしよ。ここなら盗賊もこない」
支給品にあったテントを立てて野宿の準備に取り掛かる。
「ねぇ師匠。私、この大会に少し疑問があるんだ」
「何故じゃエル?」
「いや、初日は沢山戦闘したじゃないですか?でも今まで私が戦ってきた相手にジ・オーシャン出身のプレイヤーが1人もいないんです」
プレイヤーの情報はこの対戦履歴プログラムってやつが教えてくれる。
「確かに。対してグランフレイムは一番多かったのう」
私は腕を組む。潮風なんて感じたことなかったけど、結構しょっぱい。
「グランフレイムは盗賊団が牛耳ってるから略奪や戦闘が多いのは分かるよ。だけどジ・オーシャンはなんで争わないんだろ」
師匠は焚き火の火花を避けて私の前にふわりと移動する。
「なら有り得るとすれば二つ。一つはジ・オーシャンのプレイヤーは全員、カイザーによって抹殺された。二つはジ・オーシャンも勢力を固めている」
カイザーのことはジェイドさんから聞いていた。
一位をずっとキープしていためちゃくちゃ強いプレイヤーだ。
「一つ目は違ってるとは言いづらいです。カイザーは初日から1位だった。ならそれくらいの人のレートを稼いでいるはず」
「何せ、彼奴は神器、魔剣グラムを持っておる。それくらいせねば稼げぬ」
中央都市の王の噂をしていると私は耳を疑った。
さっきまで焚き火の火花の音やさざ波の音しか聞こえなかったはずなのに何やら楽しげな音楽と人の声が聞こえてきた。
海の方だ。
「いや師匠、さっきまでの発言は撤回です」
「ああ、二番が正解じゃの」
目の前には龍より大きく、街より明るい灯火が光っていた。
いやあれは違う。
近づいていくと分かった。
「さぁ!野郎ども!俺の名を呼んでみな!」
「キャプテン!ギルードゥ!キャプテン!ギルードゥ!キャプテン!ギルードゥ!キャプテン!ギルードゥ!」
「し、師匠…!?」
「ああ、あれは海賊船じゃ!」
「何であんなものが?」
サイトくんに聞けばこの世界には大きなものはあまり存在しない。例を挙げるなら中央都市一部、ヘルフォレストの木、海、そして火山だ。そしてほとんどが自然であり自然の動きを成す。木は成長するし、ドアは押せば開く。風も吹くし、波もある。
だとしてもあんなに大きな船があるのならジェイドさんをはじめとした情報屋が嗅ぎつけているはず。
「そうだ!その通りだ!俺様が海賊の中の海賊!大海原のギャング!正義のゴロツキ!キャプテンギルゥゥゥゥゥゥドゥ!」
「イェェェェェェェぇぇぇぇ!」
みんなテンションが高い。
お祭りみたいに騒いでる。
ここは戦場なのにあの船だけお祭りだ。
結構離れているのに乗組員や船長らしき人たちの声が聞こえてくる。
「みんな!手拍子頼むぜ!そこのあんちゃん!トイレ行くなら今のうちだぜ、うぇへっへっへー!オラ、お前ら今夜も騒ぐゼェ!」
「フゥゥゥ!イェェェェェェェぇぇぇぇ!」
「なんじゃアレは?酒を盛られているのに争いがひとつもないじゃと?!」
師匠のいう通りだ。千里眼ほどではないが遠くを見るのは得意だ。エルフの視力に加えて私は師匠に視力を鍛えてもらった。
だとしたらこれは見間違いではない。
酒に酔ってるのに誰一人として怒りや嫌悪の感情を抱かない。
しかも敵対している種族同士が手を取り合って仲良くしている。
船長と思われる人物は舵を切った。
「あぁ〜♪俺の名前を呼んでみなぁ♪ たちまち響くキャプテンギルードゥコール♪ 歌え飲んでけ、平和が一番!みんなの笑顔が宝モン♪ 」
「船長自らも歌うとは…」
多分、自分のてーまそんぐとかいうヤツだろう。
「悪人、罪人、盗人も歓迎!だがここではケンカはやめよう♪ お前ら縛る鎖は無いから好きなだけ騒いでくれぇ♪ あぁ〜だいたい7つくらいの海越え〜失った物もたくさんだ〜けど♪ あぁ〜愛と平和こそが黄金〜♪」
「ハイ!ハイ!ハイ!我らの栄光キャプテンギルードゥ!」
「いいぞー!お前ら!おっ、そこの旦那さん。奥さんとお子さんどっちが好きか?ハハッ!決められないだろ?だがそれが一番だ。愛は曖昧なほうが幸せになるってなハハハッ!でもよ、五番目くらいにはよ、ギルードゥ様を入れてくれてもいいんだぜ?」
「………」
「いやそんなにテンション下がんなくても、ね…?」
「………」
「ぁぁ!もうっ!じゃ嫌いなヤツ第1位でいいぞ!」
「イェェェェェェェぇぇぇぇ!」
ズコーッ!
「いやそこで喜ぶな!」
「冗談だよ船長!」
「その言葉が聞きたかったぁ!イェェェェェェェぇぇぇぇ!」
「イェェェェェェェぇぇぇぇ!」
「………」
「………」
二人は言葉を失った。
歌や踊り、酒や煙草は過酷な修行をしてきた彼らにとって異様なものだったからだ。
海に浮かぶ娯楽の島。
そこで舵をとるのはいかにも船長が着るような海賊の服に眼帯に海賊帽、潮風で草臥れた青い髪。
見た目は30代くらい。
そして指や耳には黄金のアクセサリー。
その男の名はキャプテンギルードゥ。




