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奇怪音頭  作者: 頭隠尻見ヱ三郎


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9/10

怨み

今井ちゃんの体が倒れる。血が飛び散っている。


周りから、悲鳴が聞こえる。

声が出ない。あまりの衝撃に。一部始終見ていたはず。だけど、何が起こったのか分からない。


「ひい、ふう、みい。ええと、八人くらいですか。ちょっと。多いですわねえ。こんなにお相手するのは本意ではございませんの。わたくしに怨みはありませんし、わたくし自身で行うのは、非常に疲れますし。せいぜい、あとお二人ほどでしょうか」


こちらをじっと、覗き込んでいる。

青白い肌。切れ長の目。


腰が抜けて、座り込んでしまった。

怖い。

怨み?

警察!警察!

紗和さん!逃げて!

周りの声。動けない。


「あなた、お手紙読んでくれたのでしょう。嬉しいわ。全部読んでくれたようね。少し、お話しませんか。お茶とスコーンも用意して、と言いたいところですけど。おほほ」

「紗和さん!」

同僚が近づいてくる足音がした。

だめだ、たぶん、だめだ。


「だめ─」

口を開いたが、声がかすれてる。というか、言い切るその前に。


首のない死体が、ひとつ増えた。


「ふう。わたくし、お話したいのに。疲れてしまいますわ」

悲鳴がまた大きく響く。逃げ出していく同僚たち、動けず、泣きながらこちらを見る人の姿も。


「わたくしも少々困っておりまして」

青白い肌が、首を傾げる。

「このビルディングが、対象になっていることは確かなのですが。なんだか、対象が不明瞭なもので。壊れてしまっているような、そんな感覚なのです」

「こわれて、る・・・?」

「ええ、わたくしも詳しくは存じ上げないのですが。怨み、ですとか憎しみ、ですとか。そういった思念が奏でるようですね、音楽を。そうして、音頭がとられるのです」


ギイン、バッタン、エラ、ホイ、サー


「わたくしは一緒に踊りまして、踊っているのですけど、どんどん見えなくなって。モヤがかかるという表現になりますでしょうか。まあ、最後は、誰かしら殺しているんですね、おほほ」

「あなたが、ぜんぶ。手紙、の」

「そこまでは見せてくれないのです。どうも、その方の体をお借りする形になるのでしょうか。ただ、あくまで殺すのはその方ですわ。わたくしはお力添えをするのみのようで。どうやって殺したかも、よくわかりませんの。苦しんでお亡くなりになっているのは、確かなはずですが」

「手紙は、なんで」

「こちらに、怨みの思念がたくさん集まっていたでしょう。そういう時って、すっごく音頭が軽快になって、とっても楽しいのです。なので、思念をもっと、と強い怨みを提供するように、意思が働いたのでしょうね。」

私、怒ってますの企画が、思念を呼び寄せた─?


「ただ、今調子が狂ってしまったのはそれとは別で。どうやらたくさんの方に怨みを持たれた方がいましたの。本当にたくさん。なので、うまく音頭が取れなくなったのね。鈴木さまという方に対してはご協力できたようですけど、まだ足りなくって。それに、モヤがかからないのです。モヤがかかって、雨が降ったら、終わっているはずなのですけど。なので仕方なく、わたくしが直接処理させていただかざるを得ないのです。そうすれば元に戻るみたい。本当にわたくしもあまり分かってないのですけれど」

あの記事。社内で編集して、最終チェックをした。

そして、公開の設定をした。


「この場所に、怨みがあるようで。そして、貴方様にも、おそらく怨みはあるみたいですわ。だけど、なんだかぼんやりしてしまって。どなたというのが不明瞭なので、仕方なく、数で解決ですわ。おほほ」

震えている。逃げたい。でも、動けない。恐怖だろうか、なんだか縛られているような感覚。


「あなたは、何なの・・・?」

「わたくしも、あまりよく分かりませんで」

おほほ、と屈託なく笑う。


「わたくし、基本的に怨みの思いで作られているようです。豆子という名前は、お父さまがつけてくだすったと『記憶は』ございます。だけど、本当にわたくしの体験なのか、わたくしにもわからないのです。どうしてわたくしが呼ばれるのか、どうして殺すのかなんてことも、わかりません。まあ怨まれてらっしゃるのは事実のようですし、その怨みの大小は、わたくしの知ったことではありませんので」

青白い肌が、より一層白くなったように見えた。もう少しで、透き通りそうなほどに。


「おほほ、生身の方とお話したの、本当にお久しぶりでした。やっぱりお話って楽しいですわね。わたくしばかり喋って、ごめんなさいね。でも、もう声も出ないようですし、楽になさってください」

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