来訪
「何・・・これ」
明らかに今までとは様子が違う。
軽妙な調子も、よく分からないユーモアも、なくなっていた。
そして、四通目の、「男」の話。
知ってる。
少し前にSNSでバズった、妊婦に席を譲らない男の動画。
罵詈雑言、誹謗中傷。
マナー論やジェンダー論まで広がり、男性の方の気持ちを推察するようなポストをしただけの人まで、擁護するのかと叩かれて。
男性の名前や勤務先が特定されたり、数日間騒ぎになっていた。
「きになるニュース」でも騒動は紹介していた。
元投稿のリンクは貼っていないし、切り抜いた画像にはぼかしを入れていたけれど。
そして、五通目。
鈴木さまという方のところに─
四通目に出てきた、「同僚の鈴木さん」なのか?
今までの手紙では、必ず最後に、殺したことが仄めかされている。
ということは─。
やばい。
怖い。どうしよう。警察?うん、警察しかない。
これは、過去の事件を調べて書いたものじゃない。
現在進行形で、事件が起きている。
「あの、お約束ですか?」
総務の今井ちゃんの声がした。
目の前に、和服の女性が立っている。
紺色の生地に、薄紅色の花柄が少し散りばめられた上品な着物。えんじ色の帯。
髪は黒く、ぴっちりと真ん中近くで分け、耳の後ろへ撫で付けるようにし、襟足で結いあげている。
切れ長の目と、ほっそりとした面長の顔。まるで昭和初期の広告ポスターから飛び出てきたような印象を受ける。
「おほほ、失礼いたしました」
透き通るような青白い肌が、動く。
「何やらこちらのビルディングに、用があるはずでして」
「はあ。あの、どういった」
「おそらく、この場所も対象になっているようでして。困ったものですわ。調子が狂ってしまって。音頭があっちこっち、いくものですから。どなたを対象というのも、はっきりしておりませんの」
この声は知らない。でも、この話し方。そして。
「音頭・・・」
思わず口が動いた。
女性がこちらを見た。今、首動いた?気づいたら、目が合っていたような、そんな感覚を受ける。
「あら!そのお手紙」
右手に持った手紙に、視線が落ちる。
「あら、あら、嬉しい。ちゃんと届いておりましたのね。届けるのは、わたくしの仕事ではありませんので。せっかくしたためた手紙、どこにいったか分からないと寂しいですもの。わたくしこう見えて、けっこう筆まめですのよ。おほほ」
「・・・あの、あなたは、やっぱり」
「あら。申し遅れまして申し訳ございません」
手を前で組み、頭を下げた。
「東条豆子と、申します」
「あなたが・・・」
「紗和さん、お約束ですかね?」
「紗和さん、とおっしゃるの」
「・・・はい。宮町紗和と、申します」
「そうですか、これはこれは。ちなみに、あなたは?」
「え、総務の今井です」
「そうですか、お世話になりました」
瞬間。
何が起こったのか。
何も動いてないような。
何も見えなかった。
見えなかったのに。
今井ちゃんの、頭が飛んだ。
首をはなれて。




