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奇怪音頭  作者: 頭隠尻見ヱ三郎


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8/10

来訪

「何・・・これ」

明らかに今までとは様子が違う。


軽妙な調子も、よく分からないユーモアも、なくなっていた。


そして、四通目の、「男」の話。


知ってる。


少し前にSNSでバズった、妊婦に席を譲らない男の動画。


罵詈雑言、誹謗中傷。

マナー論やジェンダー論まで広がり、男性の方の気持ちを推察するようなポストをしただけの人まで、擁護するのかと叩かれて。

男性の名前や勤務先が特定されたり、数日間騒ぎになっていた。


「きになるニュース」でも騒動は紹介していた。

元投稿のリンクは貼っていないし、切り抜いた画像にはぼかしを入れていたけれど。


そして、五通目。


鈴木さまという方のところに─


四通目に出てきた、「同僚の鈴木さん」なのか?


今までの手紙では、必ず最後に、殺したことが仄めかされている。


ということは─。


やばい。

怖い。どうしよう。警察?うん、警察しかない。

これは、過去の事件を調べて書いたものじゃない。

現在進行形で、事件が起きている。


「あの、お約束ですか?」

総務の今井ちゃんの声がした。


目の前に、和服の女性が立っている。


紺色の生地に、薄紅色の花柄が少し散りばめられた上品な着物。えんじ色の帯。

髪は黒く、ぴっちりと真ん中近くで分け、耳の後ろへ撫で付けるようにし、襟足で結いあげている。

切れ長の目と、ほっそりとした面長の顔。まるで昭和初期の広告ポスターから飛び出てきたような印象を受ける。


「おほほ、失礼いたしました」


透き通るような青白い肌が、動く。


「何やらこちらのビルディングに、用があるはずでして」

「はあ。あの、どういった」

「おそらく、この場所も対象になっているようでして。困ったものですわ。調子が狂ってしまって。音頭があっちこっち、いくものですから。どなたを対象というのも、はっきりしておりませんの」


この声は知らない。でも、この話し方。そして。

「音頭・・・」

思わず口が動いた。


女性がこちらを見た。今、首動いた?気づいたら、目が合っていたような、そんな感覚を受ける。


「あら!そのお手紙」

右手に持った手紙に、視線が落ちる。


「あら、あら、嬉しい。ちゃんと届いておりましたのね。届けるのは、わたくしの仕事ではありませんので。せっかくしたためた手紙、どこにいったか分からないと寂しいですもの。わたくしこう見えて、けっこう筆まめですのよ。おほほ」


「・・・あの、あなたは、やっぱり」


「あら。申し遅れまして申し訳ございません」

手を前で組み、頭を下げた。

「東条豆子と、申します」


「あなたが・・・」

「紗和さん、お約束ですかね?」

「紗和さん、とおっしゃるの」

「・・・はい。宮町紗和と、申します」

「そうですか、これはこれは。ちなみに、あなたは?」

「え、総務の今井です」

「そうですか、お世話になりました」


瞬間。


何が起こったのか。

何も動いてないような。

何も見えなかった。

見えなかったのに。


今井ちゃんの、頭が飛んだ。

首をはなれて。

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