私、怒ってます!
「まただ」
二通目の封筒を見ながら、紗和はつぶやいた。
文芸、雑誌、ウェブメディアを手がける中規模出版社、唐島出版。
ウェブメディア「きになるニュース」は、まるで小学生向けの媒体かのような名称と裏腹に、エンタメ、スポーツ、政治経済など様々な事象に対する記事を掲載している。言ってみればなんでもかんでも。
宮町紗和は、きになるニュースのディレクターの1人。
26歳の若手だ。
きになるニュースでは、定期的にテーマに沿った読者投稿のコラムを設けている。
次週アップのテーマは「私、怒ってます!」
イラッとした、本気で怒っている、ぶん殴りたいほどに。大きなことから小さなことまで。数々のエピソードが、メールもしくはきになるニュース公式Xのリプライで集まっていた。
なのでその手紙は、一際目を引いた。
今時手紙は珍しい。
さらに、差し出し人もない。
唐島出版の住所と、「きになるニュース御中 私、怒ってます宛」とだけ書いてあった。
きになるニュース御中ってなんだよ、と紗和は笑いながら封を切った。
奇妙な擬音が目に飛び込んだ。
ギイン・バッタン・エラ・ホイ・サー
読み進めてみる。
奇妙で、ちょっとコミカルな、古風な女性という感じの口調で書いた文章。
「東条豆子」という名前。
「なにこれ、ウケる」
ネタ投稿かな?ソフトモヒカンとか、あはは。
「お母さまの首に、手をかけた時でしたわ」
え?
一気に背筋が凍る感覚がした。
「殺人?」
いや、まさか。
日常の、ちょっとした怒りを投稿するコーナーに。
殺人の告白は、ないでしょ。
先輩の井戸敬一に、手紙を見せてみる。
「殺人予告とかなら、警察に届けるけどなあ」
そうですよね、これじゃあ。
「ただの怪文書じゃない?めっちゃネタっぽいじゃん。口調とか。豆の話とか絶対笑い取りにきてるし」
手紙が主流だった時代はこういうイタズラも多かったらしいよ、と仕事に戻って行った。
その日はそれだけで、手紙は一旦デスクにしまった。
次の日、である。
もう一通。届いた。
同じ体裁。同じ文体。
そして。
今度はもっと直接的に。
「殺しておきました」




