8.顔面蒼白の男爵
「オフィーリア……すまない……あんな事になってしまうとは…君の声援に答えたかった……」
「そんな……!ミハエルは何も悪くないわ!厩務員がきっと何かミスをしたのよ!最高のコンディションで馬を用意しなければいけないのに…きっとミハエルのことを妬んで細工したのよ!」
「なんてことだ…僕はそんな事に気づかず……!厩務員を信頼してしまった僕が恥ずかしいよ……」
「ミハエルは素直で真面目だから……。大丈夫よ!今回は厩務員の策略を見抜けなかったけど、次は完璧の状態をお披露目できるわ!」
「ああ!僕の技術があれば学園にとどまらず、王宮でもお披露目をお願いされるだろう!」
「素敵だわ!ミハエル!私の愛しい人……」
「こんなに僕のことを思ってくれるのは君だけだよ…オフィーリア…」
「…………これいったいどういう事かね?ダルトン子爵………」
ミハエルとオフィーリアが抱きしめあった瞬間、聞こえるはずのない声が森の中に静かに響いた。
「なっ………!!??伯爵閣下…………!!!それに父上とアマリアも………!!」
そこには眉間の皺が谷よりも深く、氷点下の笑顔で佇むオルタオ伯爵、顔面蒼白で足をがくがくさせて今にもぶっ倒れそうなダルトン子爵、あらあらと目を輝かせたアマリア、ニヤニヤしているエリクとヒルデがいた。
「アマリアの友人のエリク君とヒルデ嬢に学園の人気スポットを案内してもらっていてね………まさか、こんなにも面白い催しが開催されているとは……」
「ちちちちち違うんです!!これは!!オフィーリアは友人で…!!!」
「違う?何が違うと言うのだね。婚約者にしか許されないであろう距離とお互いの名を呼び捨て、愛してるという言葉もはっきり聞こえたぞ」
追撃を許さぬ言葉にお喋りなエリクも口をはくはくと動かすだけだった。
(こんなエリク様見るのは初めてですわ!どんな状態でもお喋りを止めないエリク様がこんなに無口になるなんて!心のメモに書き留めておかなければ…)
驚きも嘆きもしないアマリアをみてエリクとヒルデは吹き出しそうになったが、公爵家で培われた貴族スマイルをなんとかキープした。
「この事に関しては後日、しっかりと話し合いの場をもうけさせてもらう。行こうか、アマリア、エリク君、ヒルデ嬢」
さっと踵を返した子爵にアマリア達も続く。森から遠ざかる途中で怒号と悲鳴が聞こえたが、そこは知らないふりをした。…本当は、自分達がいなくなった後どんな修羅場が起きたのか観察したかったが、流石に良心が咎めた。




