9.メンタル強めな伯爵令嬢
その後、超スピードで調査が行われた。
オフィーリアとミハエルの関係は学園内の周知の事実となっていた。聖地巡礼を始めた生徒達が森を見つけ、何人もの生徒が密かに愛を語り合う二人を目撃していた。人の口に戸は建てられぬ。聖地巡礼をしていなかった生徒達も、面白半分で見学に行き裏でコソコソと噂していたのだ。
多くの生徒からの目撃証言、伯爵の証言により子爵家有責で婚約は破談。子爵家は多額の賠償金を払うはめになり、怒り狂った子爵にはミハエルを無一文で追い出した。オフィーリアはもともと男爵家の妾の子供だったらしく、オフィーリアも家を追い出されて平民になった。
(平民同士になって、障害がなくなり二人で仲良く暮らすのかと思いましたのに)
風の噂によると、二人が住む家からは毎日怒号と破壊音が聞こえているらしい。
伯爵からアマリアへ気づかなくてすまなかったと謝罪されたが、アマリアはとても良い経験ができたとにっこり笑った。その時の伯爵の顔もアマリアの心のメモにしっかりと刻まれた。
(これはこれでハッピーエンドなのかしら?)
そんなことを考えながらふぅとため息を吐いた。
「アマリア嬢。こんなところにいたのか」
「エリク様ごきげんよう」
泉の辺に腰を下ろしていたアマリアの近くに、サクサクとこ気味よく音を立てエリクが近づいてきた。
「あの二人はもう観察できないのに…ここが気に入ったのか?」
「はい。この場所に来るたびにあの時の衝撃的な感情を思い出すんです」
「アマリア嬢はやはり面白いな」
くくく、と喉をならし笑うエリクの横顔をアマリアはじっと見つめる。
(これは…最初からエリク様とヒルデ様に仕向けられていた物語だったのかもしれませんわね…私もまだまだですわ)
じっと見つめるアマリアに気づいたエリクはニヤリと笑う。
「ところで、婚約者がいなくなってしまったけど、今後はどうするつもりなんだい?」
学園生活は十七歳まで。その間に婿を探さねばならない。この年齢で家督を継がない、婚約者のいない者を探すとなると大変難しい。婚約が破談になった娘となると尚更だ。
「国内ではもう見つからないと諦めておりますわ」
「だったら…隣国の留学生で兄が家督を継ぐ…そんな人物がいいんじゃないかい?」
少し距離を縮めて座り直すエリクにアマリアはのほほんと答える。
「私、伯爵家は親族の男児に譲る事にいたしますわ」
「………はぁ??」
「もともと婿をとって領地を継ぐことに乗り気ではありませんでしたの。私、この見た目にこの性格でしょう?継いだとしても困るだけですわ」
「いやいや!それは優秀な婿をとれば何も問題ない……」
「いいえ!!私!エリク様とヒルデ様のおかげで目が覚めたんですの!!もっと表現したいって!!」
パッと立ち上がり目をキラキラさせながらエリクを見下ろした。
「私、まだまだ書きたい物語がたくさんありますの!領地に引きこもって静かに余生を過ごす事は無理ですわ!!」
「アマリア嬢…まあ落ち着いて……」
「こうしてはいられませんわ!早速次の題材である学園の不思議を解き明かす先生のお話を書かなくてわ!エリク様!お先に失礼いたします!」
淑女の足捌きとは思えない速さで去っていくアマリアをエリクは静かに見送ることしかできなかった。
「フラれたわね」
こそっと木陰から現れたヒルデにエリクは不機嫌そうに答える。
「……いや。まだだ。つまるところ、アマリア嬢が心置きなく執筆できる場所を用意できればいいんだろ?卒業までに必ず」
「そうね。双子のよしみとして、一応貴方を応援するわ。でも無理だった時は私が彼女を引き取るわね」
「いやいや。ヒルデは女だから、アマリアとは結婚は……」
「愛の形って色々あるものよ」
妖艶な微笑みを浮かべながら去っていく双子に焦るエリク。どちらに転んでも、アマリアはのほほんとしながら物語を紡ぐことをやめる事はないだろう。




