4.夢見る男爵令嬢
「本当にいい天気ですわ。木陰から漏れる日差しが気持ちいい…」
サクサクとこ気味良い音を鳴らしながら森の中をゆったりと歩き、管理人に教えてもらった方向へと歩いていく。
(学園にこのような幻想的な森があっただなんて…いつも引きこもって小説を書いてるだけではダメね。ちゃんと自分の足で経験することも大切だわ)
しばらく歩くと、キラキラと反射する光が木々の隙間から見え始めた。
目的の場所に着いたことがわかり歩みを早めようとしたところ、男女の声が聞こえ歩みを止めた。
(この声どこかで聞き覚えが…)
音を立てないように忍足で近づき木の影に隠れる。こっそりと泉の方角を覗き見ればそこには…
「ミハエル様と…オフィーリア様…」
乗馬クラブで練習しているはずの二人が泉の淵に座り、肩を寄せ合って親密げに話しているのだ。後ろに隠れているアマリアには一切気づかない。
「オフィーリア…君と出会えたことは奇跡だ…初めて出会ったあの日から僕の心は君のものさ」
「ミハエル…私もよ!でもミハエルには婚約者が…」
「アマリアのことがなんだ!彼女は愚図で愚鈍だ。僕と彼女が結婚し、家督を継いだ後に君の事を迎え入れるよ。病気か何かと称して追い出せば伯爵家は僕のものさ」
「ミハエル…貴方が一瞬でも別の人のものになるって考えるだけで辛いわ…」
「僕の心も体も君のものさ!しかし…僕は子爵家の次男で継げるものがない…君との幸せな未来のためにも一瞬だけ待ってほしい」
「………私…耐えて見せるわ…!貴方との未来のために…!」
「オフィーリア………!!!!!」
熱い抱擁を交わしたのち満足したのか二人は泉を去っていってしまった。アマリアはしばらくその場を動けず呆然とした後、鐘の音で我に帰る。馬車の中で先ほどの出来事を反芻しながら自室の扉を開け、そのままベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。
(そんな………)
綺麗に整えられたシーツをギュッと掴み顔を埋める。
(なんて事なの………)
がばっ!っと勢いをつけ起き上がると目にはーーーー
(こんなにも!!!!!面白い出来事が!!!!!私の目の前で繰り広げられるなんて!!!!!!!!!!)
目が爛々と輝いていた。
(物語とは違う本物の愛憎劇!生のセリフと空気感は最高!あまりの衝撃で動けなかったわ!二人の男女が恥ずかしげもなく、あんなセリフでお互いの愛を確認し合うなんて!尚且つ爵位が上のものへの反逆罪とも捉えられる告白!スリルも満点だわ!ああ!抑えられないこの衝動!)
……そうアマリアはメンタルがつよつよなのだ。
(今すぐこの感動を紙に落とし込みたい!ペン!ペン!)
その勢いのまま寝食を忘れ一心不乱にペンを走らせた。




