3.悪巧みする双子
「それはそうと、アマリア様。例のあれは持ってこられましたか?」
「ええ。約束いたしましたのでここに…」
ゴソゴソと鞄の中を漁り、少し分厚い紙の束を机の上に乗せる。
待ってました!とばかりにヒルデが手に取りうっとりと眺める。
「もうこんなに出来上がってるだなんて!アマリア様の新作!前回の騎士と平民の恋愛小説も良かったですが、初めて読んだメイドと執事のミステリーも大好きですの!今回の作品がどのような物語なのか楽しみにしてましたの!」
「まさかヒルデ様が私の小説を気に入ってくださるだなんて、思ってもいませんでした」
「アマリア様は天才ですわ!プロを目指さないのが不思議なくらい!」
そう。アマリアがこの麗しい双子との接点を作ったきっかけは自作の小説であった。
幼少期から本が好きで様々な書物に手を出した結果、読み飽きてしまったアマリアは自分で物語を書くようになったのだ。誰かに見せるでもなく、自分の世界を表現できればなんでも良かった。自宅にある紙に好きなように書き、物語が完結すれば紐で縛ってそこら辺に放置していたのだ。
仲良くなるきっかけとなったメイドと執事のミステリー小説も、いつもの癖で読書クラブの机の上に適当に放置していたものをヒルデが見つけて読んだのだ。
ヒルデはその物語に引き込まれ夢中になった。
どこにでもあるような紙を乱雑にまとめて縛り上げただけの簡素な冊子。作者の名前ははなく留学してまだ日も浅かったこともあり作者探しは難航した。
なんの手がかりもなく一ヶ月が過ぎた頃、教室で偶然アマリアがその紙の束を手にしているところを発見したのだ。
「運命ってこういう事を言いますのね。見つけた時の感動を今でも鮮明に思い出します」
「あの時のヒルデは相当危ない状態だったぞ。目が血走っていた」
「私の小説をそこまで気に入ってくださり本望でございます。好き勝手に書いていたものだったので、誰かに読んでもらえるだなんて想像もしておりませんでした」
「今からでも遅くないわ!読書クラブの皆さんにも読んでもらいましょう!瞬く間に信者が増えますわ!」
ヒルデの興奮とは裏腹にアマリアはいつもの調子を崩さない。
「私はヒルデ様に読んでもらえるだけで幸せですの。物語を愛してくださり、私のことも丁寧に扱ってくださるヒルデ様に感謝しております。これ以上の幸せはありません」
と少し照れた様子でヒルデを見つめた。そのいじらしい姿に胸を貫かれヒルデはいつもそれ以上何も言えなくなるのだ。
「そういえば次の作品で森の妖精を扱うって言ってなかったか?ちょうど学園の裏が森になっていて綺麗な泉が湧いているそうだ。息抜きに行って見たらどうだ?」
「まあ!それは知りませんでしたわ!まだ馬車が来るまで時間もありますし、今から行ってみます。ありがとうございますエリク様」
エリクの提案に瞳を輝かせさっと荷物をまとめたアマリアは、二人に挨拶を済ませ部屋から出ていった。パタンとドアが閉まりアマリアの足音が聞こえなくなった部屋の中で先に静けさを破ったのはヒルデだった。
「……エリク。貴方わかっててあの泉をアマリアに勧めたわね」
「……さぁ。なんのことだかさっぱり…。ヒルデこそ。その受け取った小説をどこかに持っていくつもり?昨日来た商人に製本所を紹介してもらってたようだけど…」
「たまたま紹介してもらった製本所にたまたまアマリアの小説を置いていくのよ。たまたまだから仕方ないじゃない」
「僕も、たまたま次の作品のモチーフになりそうな森と泉をたまたまこの時間にアマリアに紹介しただけだよ」
横目に視線を合わせにやりと口の端を釣り上げる。
「まあ、どちらが上手くいっても好都合だわ」
「そうだな。手に入れるなら手段は選ばないタイプだ」
黒いオーラを携えた双子は片付けをして部屋を後にした。




