2.美しい双子
「この間のお茶会でも君が役に立たないから僕が間に入って仲を取り持ったじゃないか!ほら!公爵家のーー」
また話が長くなるのを察知したアマリアは二分咲きの笑みで等間隔で相槌をうつ準備にかかった。
「ミハエルーーーーー!!」
準備にかかった相槌をぴたっと止めて華やかな声のする方に視線をむける。
そこにはアマリアとは正反対な快活な美女が手を振りながら走ってきた。
「オフィーリア!!」
婚約者同士でもないのにファーストネームを敬称なしで呼び合う二人を二分咲きの笑みのまま見守るアマリア。アマリアの事など見えてないかの様に振る舞う快活な美女は男爵令嬢のプルド・オフィーリアだ。
艶のある黒髪ストレートをポニーテルにし、勝気で大きな瞳はガーネット色にキラキラと光っている。機嫌良く喋る口元はハキハキとして印象が良い。小柄なアマリアとは違いスラッと伸びた手足は乗馬用のパンツスタイルがよく似合っており手にはヘルメットを持っていた。
「まだ来ないから迎えにきたのよ!放課後に練習をする約束をしたじゃない!」
「ごめんごめん!婚約者が僕を離してくれなくて……」
(私は一言もそんなこと言っておりませんけど)
呆れを顔に出さないように笑みを貼り付けことの成り行きを見守っていると、今気づいたとばかりに目をまんまるにしたオフィーリアがぱっとアマリアに向き合った。
「アマリア様いらっしゃったのですね!影が薄すぎて気づきませんでした!」
「申し訳ありません。二人のお話に入るのは悪いかと思いまして」
「アマリア様ったら!悪いと思うならミハエルを引き止めたりしちゃダメですよ!夏にある乗馬クラブのお披露目会の練習で私もミハエルも忙しいんです!」
「まあ、それは申し訳ないですわ」
めっ!と子供を叱るかのようなオフィーリアの仕草にアマリアは謝罪の言葉で対応する。
男爵家であるオフィーリアが伯爵家であるアマリアにここまで侮辱的な態度をとるのは本来あり得ない。しかし何を言っても怒らないアマリアを軽んじているのだ。
「では私たちは練習へ行きますね!さあミハエル!行きましょう!」
「そうだね。それでは失礼するよ」
オフィーリアは自分の腕をミハエルに回し急かすように立ち上がらせる。ミハエルも満更でもないようでニヤニヤとしながら去っていった。
2人が消えるのを見送るとふぅと一息ついてぬるくなった紅茶を優雅に飲んむ。
「ごきげんようアマリア様。あの二人は相変わらずですのね」
「いつも思うんだがあの二人の頭の中はどうなっているんだ?婚約者同士でもない男女がファーストネームを呼び捨てにし腕を絡めて去っていくなんて」
声のする方を向くとそこにはアマリアの同級生であり読書クラブ仲間の二人が立っていた。
「ヒルデ様にエリク様。ごきげんよう」
二人の登場に先程まで眉を顰めていた周りの学生達が頬を染め興奮を隠せないように喋り始める。
「まあ!ヒルデ様だわ!今日も美しいお姿…紫の髪に黄金の瞳が輝いていますわ。お召し物も今流行りのブティック『つぼみ』の新作ではなくって?素敵ですわ」
「双子のエリク様もご一緒だなんて。ヒルデ様とそっくりですが凛々しさとあの冷たい眼差しがたまらないですわ」
「こちらの学園に隣国から留学されてからずっと二人で行動していると思ってましたが、アマリア様と仲がよろしかったんですね」
「美しい二人に囲まれるとますます……」
麗しい双子の眉間がさらに深くなる。
(あらあら。このままではお二人の眉間に深い溝が爆誕しそうですわね)
周りの会話が不穏になってきたので二人に断りを入れて場所を移動することにした。テラス席は気持ちが良かったが、これだけ目立てばゆっくりもしていられない。静かな場所を求めてたどり着いたのが読書クラブの一室だった。
他の部員がいないことを確認し、双子が貴族らしくない仕草で乱暴に椅子へ座る。
「貴族っていうものは誰かと誰かを比べなければ生きていけないのかしら」
「外見だけで判断し近寄ってきて、こちらが予想通りの反応をしなかったら悪しく言う。自国でも他国でも同じだな」
見目麗しい双子がの毒を吐くのはいつものことだ。隣国からの留学生としてきた公爵家の双子の名はイシュー・ヒルデとイシュー・エリク。紫色の髪の毛に黄金の瞳は同じく顔もそっくりだが、ヒルデはメリハリのある魅惑的な表情といで立ちで、エリクは程よく筋肉のついた体躯にどこか冷たさのある表情をしている。
「そうですわね。誰かと誰かを比べるのは手っ取り早い判断基準と会話が盛り上がりますので」
のほほんと喋るアマリアにヒルデとエリクは毒気を抜かれる。
「アマリア嬢には怒りと言う感情はないのか?先ほどミハエル殿が言っていたパーティーでの会話の件についても、アマリア嬢は喋るタイミングではないと判断したから挨拶以上の会話をしなかったんだろ?ミハエル殿の一方的な会話に公爵閣下も辟易とした顔をしていたじゃないか」
「あら?エリク様あの場にいらっしゃったのですね。すぐに気づいてご挨拶に行けず申し訳ありません」
「そう言うことじゃなくてーーー」
のほほんとしたアマリアの顔を見るとなんとも言えなくなり抗議の声も尻窄みになってしまう。
「エリク無駄よ。アマリア様は他人の悪意を受け取らないのよ。ね?」
面白げに瞳を向けてきたヒルデにうふふと笑う。
「そうですわね。事実と違うことを周りから言われましても何も困らないので。訂正するのも可哀想ではないですか。謝罪の言葉を口にしておけば楽しくお喋りしてくださるし何も問題ないのです」
「ふふふ。アマリア様は本当に面白いですわ!嫉妬に妬みに自慢に悪口、噂話に山よりも高いプライドで出来上がった貴族達とは違いますわ!」
そう。アマリアは人一倍の強メンタルの持ち主なのだ。
ミハエルとのお茶でいくら下げられようとも、オフィーリアが毎回二人の間に割って入って下げられ奪い取られてもなんとも思ってないのだ。
(だって興味がないんですもの)
「ヒルデが気にいる人間が存在するとは今だに信じられないよ。乗り気じゃなかったけど他国へ来るのもいいもんだね」
「あら。エリクだってアマリアのこと気に入ってるじゃない。この間だって…」
「そっ!その話はいいから!!」
おほほほほーと笑うヒルデに耳を赤くしながら口を塞ごうとするエリク。二人との会話は心地よく、アマリアはこの場所を気に入っていた。




