第14話 電磁は蜜の味
「うるさい! そこに隠れて、じっとしていろ!」
苛立たしげにアンナは叫ぶが、その言葉は和真には届いていない。
部屋の中ではアンナと大介が、無数の敵に対して息をつく間もなく応戦していた。
銃弾が壁を削り火薬の匂いが空気を満たす中、戦況は絶え間なく変化していた。
アンナは眉間に皴を寄せながら拳銃を構えて、一瞬の隙をついて敵兵の一人を正確に射抜く。
「いいぞ、その調子だ! アンナ!」
彼女の背後で大介は声を上げたが、その軽い口調に隠された緊張感は見え隠れしている。
「おだてないでください! こんなの、褒められるような状況じゃないでしょう!」
アンナは歯を食いしばりながら、次の敵に照準を合わせて発砲した。
彼女の頬には先程の掠めた銃弾による赤い傷が生々しく残り、その表情は普段の穏やかさとは程遠い険しさを帯びている。
だが、その戦闘も突然訪れた異常事態により中断された。
建物全体が軋むような低い唸り声と共に、床が揺れ始めたのである。
それは、ただの揺れではない。
まるで地の底から巨大な機械が目覚めたかのような、振動と轟音が国会議事堂を支配した。
「なんだ! 今の音は!?」
大介は一瞬体勢を崩しながらも、咄嗟に手を壁について踏ん張る。
アンナも同様に膝をつきながら、驚愕の表情で辺りを見回した。
天井からは埃が舞い落ち、天井の電灯は不気味に明滅している。
「まさか、地下で何かが……」
アンナがそう言い掛けた瞬間、大介は体勢を立て直して、窓へと駆け寄った。
揺れる床を器用に避けながら外の様子を確認する。
「こりゃぁ驚いた……」
窓の外に広がる光景に彼は目を見張った。
核戦争の後に完全に機能が停止し、暗闇に覆われていた街並みが、まるで戦前の栄光を取り戻したかのように、一つまた一つと灯りをともしてゆく。
その光は荒廃した建物にまで広がり、冷え切った都市に命が宿るような錯覚を覚えた。
「なんだよこれ。戦争映画にでも出てきそうな演出じゃねぇか。まさか……棟梁が例の再生のカードキーを使いやがったのか?」
冗談めいた口調を使いながらも、大介はどこか冷静に事態を分析している。
その表情には軽口を叩く余裕があるように見えるが、その目はしっかりと状況を見極めようとしている鋭さを宿していた。
「こんな馬鹿げたことができるのは、どう考えても例のカードキーの仕業だろうな」
呆れたように彼は肩を竦めながら、服の埃を払い乱れた身なりを整える。
そして大介は壁に背を預けて、冷静に周囲を見渡した。
部屋の中は戦闘の痕跡で荒れ果てている。
床には瓦礫や壊れた家具、そして倒れた敵の死体が散乱していた。
大介の足元には敵の血が染み込み、暗い赤色の斑点を作っている。
そんな中、彼の耳に微かに聞こえたのは、通常では感じることの難しい異様な”波動”だった。
「おっと……こりゃぁ、やばいかもな」
大介は鼻をしかめながら、ぼそりと呟く。
「妙な電磁波が周囲に拡散されていやがる」
彼の目は床の一点、特に地下へと続いていると思われる部分を凝視している。
この一言に隣で身を低くしていたアンナが顔を上げた。
彼女は咄嗟に態勢を整え、瓦礫の山を乗り越えながら、和真の元へと駆け寄った。
「妙な電磁波? それって……人体に有害なんですか?」
アンナの声は僅かに震えていたが、それでも彼女も努めて冷静に尋ねる。
「お前たち人間からすれば無害だな。しかし……俺みたいなグールやミュータントからすれば……違う」
彼女の問い掛けに対して大介は、肩を竦めるようにして答えた。
「この地下……恐らく再生のカードキーを使った事で、何かしらの機械が作動して発生している電磁波は……まるで熟した果実が放つ芳醇で甘い香りのようなものだ」
マグナムピストルから空の薬莢を取り出して、新たな弾を装填しながら彼は話を続ける。
その例えにアンナは、一瞬だけ目を見開いた。
大介の表現はどこか文学的であり、普段の彼の粗野な言葉遣いからは、想像もできないものだからである。
しかし、すぐに彼の言葉の本質に思い至り、眉を顰めた。
「だから……その電磁波を感じ取ったグールやミュータントが次々に、ここに集まってくるだろうさ。そして、いよいよこの戦争は収拾がつかなくなる。まさに生き残りを賭けた命懸けのバトルロワイアルと化すってわけだ」
大介の口調はどこか冗談めいていたが、その眼差しは鋭く事態の深刻さを物語っている。
アンナは唇を噛み締めて和真の手を引きながら、再び隠れられる場所を探して移動を始めた。
その時、部屋の扉が勢いよく開かれて何者かが侵入する。
VRLの兵士数名が前方から侵入すると同時に、後方ヴォイダーの残党が、それを追い掛ける形で飛び込んできた。
瞬く間に室内は、再び銃火の嵐に包み込まれる。
「ちっ、またか……!」
舌打ちをしながら体勢を低くし、大介は一瞬で状況を把握した。
彼は冷静に銃口を向け、迫り来る敵を次々に仕留めてゆく。
その一方でアンナも再び拳銃を手に取り、敵に向けて躊躇なく引き金を引いた。
そして数時間が経過して、VRL兵士とヴォイダーの残党たちによる攻撃が止み、束の間の平穏が訪れる。
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