第12話 ロケットランチャー
「おいおい、こりゃぁまるでハリウッド映画並みのアクションだなぁ! 脚本家は一体誰だぁ?」
軽口を叩きながら視線を巡らせる中で、大介の目はとある一点で止まる。
数多のVRL兵士の中に見覚えのある、二つの影を発見したのだ。
「おおっと、これは……まさか再登場ってやつか?」
大介が目を凝らして確認すると、そこに居たのはナターシャと葛葉だったのである。
まず視界に飛び込んできたのはナターシャ、彼女の漆黒の長髪は軽くウェーブが掛かり、そのシルエットが美しく戦場の汚濁と対照的だ。
その髪は光を反射して滑らかに煌めきながら、風に揺れる度に頬や首筋を撫でている。
彼女が纏うパワーアーマーの重厚な装甲が、その物々しさを際立たせていた。
「ったく、アイツも懲りない奴だな。だがまあ……軍人ってのは上の命令は絶対だからな。ある意味では同情するぜ」
無意識のうちに呟きながら彼女の、一挙手一投足を見逃さないように注視する。
そして次に目を移した先には葛葉が居た。
銀髪のミディアムレイヤーに、赤や黒のハイライトを入れた派手な髪が、戦場の緊張感を嘲笑うかのように目立つ。
彼の服装はVRL規定のタクティカル革製の服を雑に着崩しており、袖を肘の上まで捲り上げて襟元を大きく開けている為、やる気があるのかないのか分からない。
「あー、アイツは相変わらず血生臭い戦場に、似つかわしくないファッションをしていやがるな。ったく、阿保だぜ」
彼を眺めながら淡々とした口調で大介は吐き捨てた。
そんな葛葉の手には、相手を肉片に変える為の、散弾銃が握られている。
装備車の動きに合わせて軽く光るその銃身には、彼が刻んだであろう無数の傷跡が走っており、なんども修羅場を潜り抜けてきたようだ。
大介は、そんな彼の軽薄そうな笑みを見て、少しだけ肩の力が抜ける。
「アイツが居るだけで、この戦場もコメディ映画のように見えてくるな」
そんな風に彼は独り言を呟いたものの、この場の緊張感は依然として変わらない。
「まったく、面倒な奴らだな。連中も狙いは再生のカードキーってか?」
低く呟くと大介は、地上で戦う者たちから意識を外して、軽く身嗜みを整える。
するとその瞬間、何処からか銃弾が飛来し、彼の頬を掠めてゆく。
弾道の鈍い音と共に頬に走る熱い痛みが、大介を瞬時に現実へと戻す。
「なにを吞気に戦争を、高みの見物しているんですか! いくら貴方でも死にますよ!」
低く身を屈めながらアンナは、叱咤とも取れる声を上げた。
彼女は焦りのあまり大胆な仕草を取りながら大介に伏せるように指示を出す。
「はいはい、わかったわかった」
短く答えると大介は軽く肩を竦めた後、指示に従うようにして身を低くして地に伏せる。
そして再び彼は視線を外に向けて状況を注視すると、一際目立つ装甲を身に纏うナターシャの姿に目が留まった。
その金属製の装甲は鈍い光沢を放つ。
パワーアーマーの肩部には部隊の紋章が彫り込まれており、それが彼女の存在を更に際立たせた。
ナターシャは巨大なロケットランチャーを肩に担ぎ、周囲の仲間からもう一本受けると、息をつめたように狙いを定める。
「あの女、国会議事堂の壁に向けて撃つ気か……」
そう大介が呟いた瞬間、ナターシャがロケットランチャーの引き金を立て続けに引いた。
轟音と共に発射されたロケット弾は、空を切り裂いて議事堂の壁へと突き進む。
続けて二発目が放たれると、壁全体が揺れて、大きな破片が飛び散る。
濃い灰色の煙と粉塵が立ち込める中、議事堂の壁に巨大な穴が開く。
「葛葉ッ! 突撃の合図を全軍に知らせよ!」
ナターシャが咆哮するように叫ぶ。
そして葛葉は、その命令に応じるかのようにラッパを取り出して、突撃の音色を吹き鳴らす。
しかしその直後、灰の信徒の兵士が放った銃弾が、葛葉の腹部を貫いた。
葛葉はラップを吹く間もなく崩れ落ち、痛みに顔を歪めながら地面に倒れ込む。
「これ……ちょっと……あ……」
彼は苦し気に言葉を漏らし、そのまま動かなくなった。
だが血気盛んなVRLの兵士たちは、一人の犠牲に怯むことなく突撃を続ける。
重厚な装甲を纏い雄叫びを上げながら次々に、灰の信徒の兵士たちを蹂躙してゆく。
ナターシャはその先頭に立ち、パワーアーマーの頑丈な足取りで国会議事堂へと進撃した。
「ついにブリキの兵隊共が、本格的に参戦してきたな。こりゃぁ、厄介事が更に厄介事になる前に、ここからおさらばした方がいいな」
大介の声は軽い調子を装うが、内心の重苦しさを隠しきれていない。
硝煙が漂う空気を深く吸い込みながら彼は、外の景色から意識を反らそうと目を閉じた。
しかし、ふと視界の端に映る動く影に、再び目を向ける。
明るい日差しの中でも際立つ、艶やかな赤みを帯びた髪。
それを見た瞬間、大介の目が見開かれる。
「おお、あいつ生きていたのか。悪運の強い奴だな」
小さく笑みを浮かべながら大介は言葉を漏らした。
その視線の先に居たのは、いつぞやの桜井ジェシカである。
ジェシカの姿は戦場においても異彩を放つ。
彼女の腰まで届く艶やかな赤髪は、血を彷彿とさせる深い輝きを放ち、陽光の中で妖しく揺れていた。
その瞳は金色に近いアンバーで、標的を見定める冷徹な光を湛えている。
片目を負傷している筈の彼女だが、その表情には痛みを感じさせるものはなく、むしろ狂気と執念が浮かび上がっていた。
ジェシカの装いは、戦場という場においても、隙のない官能性を帯びている。
黒いロングコートを肩から無造作に羽織り、その下には肌に密着した黒の皮革襯衣を身に付けていた。
襯衣のジッパーは胸元を僅かに開けられ、その控えめな露出が逆に見る者の視線を奪う。
下半身にはタイトなレザーパンツを履き、しなやかな脚のラインを強調している。
膝上までのタクティカル深靴には擦れた跡があり、彼女がここに来るまで長旅を経験した事を物語るかのようだ。
ジェシカは両手にトンプソン・サブマシンを握り締め、そのまま部下達を引き連れて堂々と歩みを進めている。
その足取りには一切の迷いがなく、彼女を取り巻くヴォイダーたちも、そのカリスマに引き寄せられるかのように、一丸となって進軍している。
「おい、ホロコースト! 聞こえているか!」
ジェシカの怒声が周囲に響く。
その声には明瞭に大介を狙うもので、彼の耳にも確実に届いた。
彼女の叫び声には怒りと執念が詰まり、それは戦場の喧騒の中でも際立つ。
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