第9話 戦闘開始
「ちっ、面倒だな。おい、全兵士に伝えろ。即座に戦闘準備を整え、対空ミサイルを起動しろ。そしてVRLの連中を皆殺しにしろと!」
一瞬の躊躇も見せず美月は、威圧的な声で命令を下した。
その声は部屋の壁を震わせる程の力強さを持ち、彼の決意を揺るぎなさを示している。
「了解しました!」
その命令を受けると警備兵は鋭く叫び、敬礼もそこそこに部屋を飛び出してゆく。
その背中が消えると、ほぼ同時に国会議事堂全体に、緊急戦闘用のサイレンが鳴り響き始めた。
その音は耳障りなほど甲高く、警告の意味を込めた赤い警報灯が、廊下の隅々まで不気味に照らしている。
物々しい雰囲気が場を支配し、廊下や上階からは兵士たちが叫び声を上げ、荒々しい音を立てながら持ち場へと急ぐ音が響く。
誰もが慌ただしく動き回り、硬い床が靴とぶつかる音で唸りを上げる。
緊張感が建物全体に浸透し、国会議事堂は一瞬にして、戦場の様相を呈した。
アンナは突如として変化した周囲の状況に困惑し、目を見開いたままその場で立ち尽くす。
「こんな急に……どうして……」
彼女の声はか細く、不安の色が濃く滲んでいた。
アンナの華奢な肩は微かに震えており、長い純白の髪がその動きに合わせて、肩口を滑り落ちる。
そんな彼女を一瞥した大介は、口元に笑みを浮かべながら、腰の拳銃嚢に下げていた銃を静かに引き抜いた。
その動作には一切の無駄がなく、冷静なまでに正確である。
銃口が美月に向けられると、その先端は彼女の眉間を正確に捉えていた。
「どうやら、ここは立派なパーティー会場になりそうだな」
そう言い放つと大介は、僅かに肩を竦める。
「だが、悪いな。俺は招待状を貰ってねぇ。ここらで、お暇させて貰うぜ」
彼の声は軽薄とも取れるが、低く響く音色には決して侮れない迫力があった。
美月は鋭い目を大介に向け、緊張感を漂わせたまま、微動だにしない。
だが、その動揺を表に出さない冷徹な表情の裏では、明らかに辞退の進展を測ろうとする思考が回っていることが窺えた。
「もちろん、アイツ――アンナの父親の身柄と”再生の鍵”とやらも一緒にな」
そう付け加えると大介は、銃口を美月から和真の身体を拘束している鎖へと向けた。
その動きはあまりにも速く、美月を含めた全員の視線が、追いつく前に銃声が響き渡る。
鎖を撃ち抜いたのは一瞬だが、その際に大介は一度も視線を美月から外す事はない。
彼の冷静さと圧倒的な射撃技術が、その短い間にまざまざと見せつけられた。
「な、なにを急に……!? いきなり発砲なんて、危なすぎるでしょ! 一体何を考えてるんですか!」
驚愕の表情を浮かべてアンナは、その場に立ち尽くしていたが、次第に大介へと向き直ると、その声に怒りの色を帯びさせる。
彼女の声は震えが混じりながらも、非難の矛先は完全に大介へと向けられていた。
一方で大介はアンナの文句を軽く流しながらも、視線は決して美月から外す事はない。
「文句なら後にしろ。ここはもう、穏便に済む状況じゃねぇ」
そう冷静に言い放つと彼の表情には焦りの色は一切なく、まるでこの混乱を楽しんでいるかのような冷笑が浮かんでいた。
だが美月も、その挑発をただ黙して受け入れるほど、温厚ではない。
彼女は一瞬の隙を突き、腰に備え付けられていた鞘から、日本刀を素早く引き放つ。
その動作には迷いの欠片もなく、その刀身は鈍い光を放ちながらも、大介の銃へと狙いを定めて振り下ろされた。
「舐めるなよ……ッ!」
美月の鋭い一撃が、大介が握る銃を、見事に吹き飛ばす。
銃は派手な音を立てて床の端に転がり、大介は体勢を崩して後退を余儀なくされた。
だが、彼の表情には未だに余裕が残されている。
「ちっ……!」
間一髪、大介は踏み止まり、その瞬間に身体を低く沈めると、反撃の回し蹴りを放つ。
その蹴りは躊躇いの無い力強さで、美月の豊満な胸を捉え、その勢いで彼女は後方へと吹き飛ばされた。
美月は重たい音を立てて床に転がると、刀を手放す事はなかったが、一瞬の隙が生じる。
「くっ……!」
すぐに体勢を整えようとする彼女だが、その動きには隠せないダメージの影響が濃く出ていた。
アンナと和真は、その突然の戦闘に驚愕し、恐怖に目を光らせながらも、巻き込まれまいと無意識に後方へと後退する。
アンナは震える手で和真の腕を掴み、彼を守ろうと必死だ。
そしてその刹那、外から対空ミサイルが発射される轟音が鳴り響く。
まるで地鳴りのような重たい振動が建物全体を通じて伝わり、室内の空気を震わせる。
すると既存の灯かりが全て消えて、緊急警報の赤い閃光が突然として点滅し、昼間の部屋の中を断続的に照らしていた。
その不気味な赤い光が立ち並ぶ柱や壁に、奇怪な影を落として緊迫感を高めている。
美月はミサイルの発射音に、反応するかのように、鋭い視線を大介へと向けた。
彼女の表情は微動だにせず、ただその美しい瞳に冷たい決意のようなものが宿るのみ。
美月は再び刀の柄を握り締めると、その仕草は滑らかで無駄のない動きだ。
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