第7話 日本の再生
「うわっ!? ……もう! なんでいつも何も言わずに撃つんですか! グールさん!」
僅かに遅れながらも反応を取ると、アンナは声を上げて立ち上がり、指を差しながら大介に詰め寄る。
「おいおい、お前、なにか勘違いしてねぇか? 俺の銃は”ヤリチン”と違って所かまわず発射しねぇよ。撃ったのはアイツだ」
深々と溜息を吐くと大介は軽く首を振りながら、皮肉めいた笑みを浮かべつつ親指で美月を指示した。
そして当の本人の彼女は、依然として無言で銃を持ちながら険しい表情を崩さず、まるですべての空気を掌握しているかのようである。
美月の鋭い眼光は、まるで檻の中の和真を貫くようだ。
アンナは大介の指摘を受けて一瞬呆けた顔を晒すが、すぐに自分の誤解に気づくと慌てて頭を下げる。
「ああ、そうでしたか。それは申し訳ないです」
途端に礼儀正しく謝罪するが、その顔には僅かに照れくさそうな赤みが増していた。
「嘘をつくな! お前の言葉には隠し事がある! いい加減、真実を話せェ!」
暫しの沈黙が流れていると美月が、その間を破るように拳銃を上げながら、厳しい口調で言い放つ。
その声には冷たさと一種の決意のようなものが入り混じり、檻の中の男――東雲和真の表情をさらに硬くさせた。
「へっ、どうやらこの話は俺が想像するよりも、相当に根が深いようだな。いいねぇ、そういうの好みだぜ。おい、棟梁。その真実とやらの話を、俺にも詳しく聞かせてくれよ」
軽口を叩きつつ再び煙草を吸おうとして箱から取り出すが、それは空であり大介は口元を歪めながら箱を握り潰して投げ捨てる。
「お前達の一族が背負った使命とは、本来とても崇高なものだった」
彼に促されて美月は軽く息を吐き捨てると、視線を檻の中の和真へと向けたまま話始めた。
「世界大戦が始まる少し前、時の総理大臣がこの男の祖先に、こう言った。”もし日本が滅びる日が訪れたら、再生の鍵を使って日本を蘇らせてくれ”とな」
美月の語りは重々しい調子だが、室内には外から吹く風音だけが、かすかに響いている。
「そもそも、その再生の鍵、カードキーとやらは何だ?」
煙草が吸えない苛立ちを堪えつつ大介は問う。
「核戦争が始まる前、日本の科学者たちが秘密裏に開発したものだ。国会議事堂の地下に隠された核融合炉を起動させ、無限のエネルギーを生み出す為のキーだと聞いている。そのエネルギーで滅びた世界を再生し、日本を復活させる。それが目的だった」
肩を竦めるようにして、美月は言葉を続けた。
しかし段々と彼女の声が高ぶりを見せる。
それに対して和真は、無言で視線を逸らした。
彼の顔は青ざめ、言い訳の言葉も、出来ていない様子。
「だが、時代が終わり、お前たち一族も変わった。使命を果たすという目的は、どこへ行った? 長い年月の中で、その崇高な思いは歪み、私利私欲に塗れた思想へと変わり果てたんだ」
苛立たし気に拳を固く握り締める美月。
「なるほどな。要はアンナの一族は日本を再生するという、崇高な使命を託されたが年月の経過と共に、それは私利私欲のものへと歪み自分たちこそが、新たな日本のトップに立つ事がふさわしいと、思い込むようになったと。……へっ、まるで伝言ゲームのようだな。最初の言葉から段々と内容が変化していき、最終的には全く別のものになるってな」
再び大介が口を開くと、得意気な顔を晒して比喩表現を口にするが、不意に笑いが込み上げて僅かに吹き出す。
「だがしかし……妙だな。なんでお前は、そんな詳しい内情を知っている?」
両腕を組みながら、大介は低い声で呟いた。
その言葉が空気を切り裂くように響く。
その問いに込められた疑問は、鋭く美月の瞳を射抜くようだ。
すると美月は一度目を閉じ、深く息を吸い込む。
その仕草は冷静を装っているようにも見えるが、どこかで自らの心を落ち着ける為のものに見えた。
そして彼女は、ゆっくりと目を開き、その鋭い視線を大介に返す。
「そんなのは簡単なことだ」
美月の声は低く、しかし堂々としていた。
「この私こそが、その当時総理大臣の直系の子孫だからだ」
彼女は僅かに背筋を伸ばして、檻の中の和真を見下ろすように睨むと静かに続ける。
その宣言は部屋中に響き渡り、瞬間敵に沈黙を生んだ。
アンナは美月の言葉を聞いて驚くように目を見開き、艶やかな唇を微かに開いたまま固まっている。
その大きな瞳は美月を見据え、その言葉の真意を測りかねているようだ。
彼女の純白の髪が汗で首筋に張り付き、緊張した表情と相まって魅惑的に映る。
アンナの胸元は微かに上下し、その呼吸が混乱と動揺を物語っていた。
「ほう?」
一瞬だけ大介が、アンナの反応に視線を向けた後、再び美月へと目を向ける。
その目付きには疑念の興味が交じり合い、軽く唇の端を持ち上げた。
「お前が、あの総理大臣の子孫か。なるほどな……」
無いはずの煙草を探すように大介は、コートの衣嚢に手を入れて探りながら言葉を吐く。
「だが、どこをどう見ても、そんな風には見えねぇし、似ているとも思えねぇけどな。それに……」
矢継ぎ早に話を続ける大介だが、その己の両手が煙草の存在を掴む事はなく、諦めの感情を抱きつつ美月を視界に捉えながら皮肉めいた口調で続けた。
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