第6話 父親の目的
「話して貰うよ。全てを。なぜお前は安全なネオテックスを捨て、この地上世界に身を投じたのか。そして、なにが原因でここに囚われる事になったのかをね」
美月は一瞥をくれるだけで、大介の言葉を無視し、再びアンナの父親に向き直る。
彼女の指は銃の引き金へと軽く触れている状態だ。
アンナの父親は暫く沈黙を貫いていたが、ほんの僅かに美月の銃が動くと口を開く。
「……私の家系には、かつて日本政府の官僚で、総理大臣の右腕と呼ばれる者が居た。その者は当時の総理から、とある使命を託された。その使命とは、日本が再び立ち上がる為の鍵を守ることだ」
彼の声は乾いた喉から絞り出されるようで、だがその言葉には重みがある。
「鍵とは何ですか?」
アンナは檻の前に跪き、和真の顔を凝視しながら問うた。
「それは……”再生のカードキー”と呼ばれるものだ。その鍵は、国家議事堂の地下シェルターにある、コンピューターを起動させる為のものだ。そのコンピューターは核融合炉を制御し、無限のエネルギーを生み出すことが出来る。そのエネルギーがあれば、この荒廃した世界を再建することが出来る」
どこか気まずい感じで、和真は視線を泳がしながらも、淡々と言葉を放ち続けてゆく。
そして彼の話を聞いて、アンナの表情が困惑から驚き、そして恐れへと変わった。
一方で大介は、煙草の煙をくゆらせながら、その話を黙して聞く。
「……私の一族は、その鍵を代々守り続けてきた。だが、その使命を果たすには、時が必要だった。地上世界が落ち着き、再び人が住める環境が整うまで、私たちは待たなければならなかった」
徐に視線を下げると、和真は拳を握り固めた。
「そして、私の世代になり、その時が訪れた。だから私は安全なネオテックスを出て、この使命を果たす為に地上へと向かったのだ。しかし……」
話を続けていた彼の声が、突如として震えを帯び始める。
「カードキーの存在を知る者たちが居た。多くの組織が私を狙い、迫ってきた。私は逃げ続け、ようやくここ、国会議事堂に辿り着いた。しかし、この場所は既に”灰の信徒”という組織に支配されていた。彼らは私を捕らえ、カードキーを奪おうとしたのだ」
「ええ、その通り。そして私たちが、そのカードキーを手に入れる事で、日本は新たな未来を迎える事が出来る。もっとも、それが貴方の一族の意図とは異なる形であろうとね」
冷たい笑みを浮かべながら、美月は言い放つ。
「……なるほどな。要するに、その再生のカードキーという存在のせいで、アンタは多くの組織に狙われていたって訳か」
そう言いながら大介は、煙草を指先で弾いて床に落とすと、足元で火を消した。
「ああ……そうだ。カードキーは私たち一族に託された使命だ。このキーを使えば、国会議事堂の地下にある核融合炉を起動し、無限のエネルギーを生み出す事ができる。その力で私は……この国を蘇らせ、新たな日本を築き、この私こそが新たな総理大臣となる。それが……東雲一族の真の目的でもある!」
和真は項垂れるように頷きながらも、明確に確固たる意志をその言葉に滲ませる。
「そんなこと……私は何も聞かされていなかった! なんで母さんも私にも、話さなかったんですか!」
彼の話を聞いてアンナは、さらに混乱した様子を見せた。
「それは……本当に、すまないと思っている……。もっと早くに話しておくべきだった……」
深い溜め息をつきながら、和真は言葉を続ける。
「こんなこと……私にどうしろっていうの……? 私は一体なにをどうしたら……」
震える手でアンナは前髪をかき上げ、その場に膝をつくようにして座り込む。
彼女の目には涙が浮かび、その声は震えていた。
「アンナ、私はお前とお母さんを愛していなかったわけではない。ただ……私たち東雲一族は、その鍵を適切に使わなければならない使命がある……。しかし、このままでは”灰の信徒”に使われ、すべてが終わる……」
そんな和真の声には焦燥が滲んでいる。
しかし、その話を聞いていた美月が、突然苛立ちを露わにした。
彼女は力強い足取りで机に近づくと、その大きな拳を振り上げる。
そして机の上に叩きつけられた拳の衝動で、その机は粉々に砕け散った。
「ふざけるな……そんな戯言、私が信じるとでも思っているのか!」
美月の怒号が室内に響き渡る。
そして彼女が矢継ぎ早に拳銃を取り出すと、その銃口を和真が閉じ込められている檻へと向け、引き金に指を掛けた。
「お前が話している事は全て、ただの作り話にすぎん!」
言葉を投げつけると同時に、美月は引き金を強く引く。
鋭い発砲音が部屋中に響き渡り、檻の鍵が砕ける音が響いた。
鍵が破壊されて、檻の扉が微かに揺れながら開く。
破壊された檻の鍵は、ただの鉄片となり、鈍い音を立てながら床に転がる。
美月が拳銃を下ろすと、重苦しい沈黙が部屋全体を包み込んだ。
室内に充満する火薬の匂いが、先程の一発がもたらした緊張感を、一層に引き立てている。
檻の傍で膝をついていたアンナは、意識外からの突然の銃声と破壊音に驚き、瞳を大きく見開いた。
その艶やかな純白の髪が肩を揺らし、無地の襯衣が汗で肌に密着するように、胸元を強調するように揺れる。
彼女の頬が僅かに紅潮し、息遣いが荒く変化した動揺が伝わるようだ。
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