第5話 告白の返答
「すみません! 情熱的な愛の告白は嬉しいのですが、私は男性の人が好きなので、そのお気持ちには答えられません!」
そして、さらにアンナは声を張り上げて話を続ける。
「あと私はここに居る人肉大好き、頭の螺子が百本は確実に抜けている、鬼畜のグールさんと結婚したいと思っていますので!」
「いや、普通に断る」
彼女の唐突な宣言に対して、大介は思わず目を見開いたが、ゆっくりと息を整えて、やや困惑気味の声色で答えた。
「ははっ、振られたか。いや、見事だね」
場の空気が一瞬沈黙に包まれた後、美月は大声で笑い出した。
「では、そこの賞金稼ぎの王ことホロコーストと末永くお幸せに!」
盛大に拍手をしながら彼女は、その場を更に盛り上げる。
その茶化すような言葉に大介は再び肩を竦めて、アンナは顔を真っ赤にしたまま、そっぽを向いた。
「……ああ、それともうお気づきかも知れないが、キミの父親はそこの檻に繋がれている男で間違いない」
ゆっくりと美月はアンナに向かい低く響く声で告げる。
厳粛なその声は、この場の空気を更に重たくした。
アンナは、はっと息を呑む。
その艶やかな純白の髪は、部屋の明かりを反射させて微かに輝き、細く繊細な肩が小刻みに震えている。
彼女の肌は白く滑らかで青白い照明の下でも、その美しさが損なわれることはない。
だが、その大きな瞳には迷いと恐怖、そして期待が入り混じる複雑な感情が揺れていた。
「そこの檻に居る男を見てみるといい。そして、なぜ彼が平和なネオテックスを出たのか、その真相を知るべきだ」
美月はアンナに視線を向けるように目で促す。
アンナは一瞬戸惑ったが、やがて細い足を動かし始めた。
彼女の足取りは重く、決して滑らかではない。
その胸元に寄り添うように揺れる装飾品が微かな音を立て、彼女の緊張感を更に際立たせている。
檻の中は不自然に薄暗く、周囲の光が届きにくいせいで、全容を把握するのは困難だ。
だが、アンナが一歩ずつ近づくにつれて、檻の中に座り込む男の姿が徐々に明らかになる。
その男は体を丸め、項垂れていた。
ボロ雑巾のような服に覆われたその体からは、長い間この閉鎖的な場所に居たことを、物語るかのように疲弊や衰えが滲み出ている。
「ほ、本当に……お、お父さんなの……?」
アンナの震える声が静寂を破った。
その声には困惑と不安、そして僅かな希望が込められている。
彼女の瞳は、檻の中の男をじっと見つめ、答えを求めていた。
しかし沈黙の後、男がゆっくりと顔を上げる。
くしゃくしゃに乱れた髪の隙間から現れた、その目には長らく失われていた生気が戻りつつあった。
男は暫くの間、アンナの顔を見つめて、その存在を確かめるように視線を彷徨わせている。
そして、ついに彼の口がゆっくりと開いた。
「おお……アンナか……。俺の愛しい愛娘よ……」
その声は弱々しくも、愛情に満ちている。
目尻から涙が零れ落ち、泥にまみれた頬を伝ってゆく。
その瞬間、彼がアンナの父親であることは疑いようがなかった。
薄暗い部屋の空気は、一瞬の静寂に包まれたまま動きを止める。
親子の涙に濡れた再会の余韻を打ち破るように、美月は緩やかに手を叩き始めた。
その拍手は、どこか儀式的な響きを持ちながらも、徐々に部屋全体を広がる。
「素晴らしい! 実に感動的だね!」
その声には微笑みが含まれていたが、彼女の瞳には冷たい鋭さを帯びていた。
彼女の拍手に釣られるように、大介も気怠そうに両手を合わせて、乾いた音を響かせる。
「まあ、ここまでの流れとしては合格点だな」
そんな大介の言葉には、どこか揶揄の響きがあったが、誰もそれを気にする様子はなかった。
寧ろ美月の次の動きに、全員の意識が向かっている。
ゆっくりと拍手を止めると、彼女は懐に手を滑らせた。
薄暗い照明の中で、鋭い金属音が耳を刺す。
美月が懐から取り出したのは一丁の拳銃だ。
その黒光りする銃口が、迷うことなくアンナの父親へと向けられる。
「さて、茶番はこれで終わりだ。次は本題に入るとしよう」
美月の声は低く、何処か冷ややかだ。
アンナの父親は一瞬息を呑み、肩を震わせる。
その様子を見たアンナは、驚愕の表情を浮かべながら、叫び声を上げた。
「ちょっと! どうして私のお父さんに銃を向けるんですか!」
その艶やかな声は、この場の異様な緊張感に、微かな亀裂を入れる。
「静かにしていてくれ。アンナ君。これは彼――いや、キミ自身が知るべき真実を引き出す為の手段だ」
美月は動じることなく、冷静な目でアンナを見つめ返した。
大介は、この緊張したやり取りを他人事のように見つめながら、コートの内ポケットから煙草を取り出す。
慣れた手付きで一本を唇に挟むと、ゆっくりと火を灯した。
紫煙がゆらゆらと天井へと向かい、部屋の陰湿な空気に混ざり合う。
「話が長くなりそうだな」
煙草を一口吸い込みながら、大介は小さく呟いた。
その態度には緊張感の欠片もなく、どこか締めに似た無関心が漂う。
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