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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第四章

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第4話 最後の餃子

「おい、アンナ。もしかして、あれが――――」


 真実の答えを得ようとして隣に立つ彼女に声を掛ける大介だが、その瞬間食事をしていた女性が一際大きな音を立てて、食卓の中央に置かれた皿に箸を置いた。

 その動作は明らかに意図が込められており、大介の言葉を遮るのに充分だ。

 

「この餃子の中身だが……」


 唐突に女性は言い始める。

 まるで大介とアンナの存在を完全に無視したのかのように、彼女は優雅に言葉を紡いでゆく。

 女性の声は冷静そのもので、淡々とした口調に一抹の狂気が潜んでいる。

 

「皮の薄さ、焼き加減、そして肉汁の溢れ具合――どれを取っても、この餃子は一級品の完成度だ」


 そう言いながら彼女は、手元の皿から一つの餃子を摘まみ上げた。

 箸を使わずに素手で直接持ち上げる、その行動に一種の威圧感すらある。


 餃子の表面に染み出した肉汁が女性の白く滑らかな手を汚し、その滴がテーブルの上に音を立てて落ちた。


「だが、味は……どうだろうね」


 餃子を凝視したまま、彼女は薄い笑みを浮かべる。

 女性の長い睫毛が微かに震え、艶やかなダークピンクの髪が肩越しに揺れた。


 まるで、その餃子が特別な意味を持つ存在であるかのように扱いながら彼女は指先で軽く、それを撫で回す。


「裏切り者というのは、どうしてこうも味気ないものなのかしらね」


 視線を大介やアンナに向けることなく女性は語り続けた。

 大介とアンナは、その言葉に息を呑む。

 彼女の目には、彼らを捉えようとする意志は感じられないが、むしろそれが余計に威圧感を与えた。


「この餃子の中身はね。つい先日、この私に背いた者の肉よ」


 そんな女性の言葉は、部屋全体を冷たく震わせる。

 餃子を見つめる彼女の瞳は、どこか遠くを見つめるような、虚ろさを帯びていた。

 その手が僅かに動き、餃子を掴む指に更に力を込めた瞬間、肉汁が音を立てて飛び散る。

 

「やはり、裏切り者は味が悪い。もっと忠実で、誠実で、そう……私の期待に応えられる人間なら、少しはマシな味になったかも知れないのに」


 そう言い終わると、ようやく餃子を食べるかと思いきや、彼女はそれを乱暴に皿へと投げ捨てた。

 

「ひっ……な、なんですか……急に……」


 突拍子もない女性の行動にアンナは、短く悲鳴を漏らすと顔を顰めて震える口を開く。

 その言葉には怒りや恐怖よりも、呆れと失望が滲んでいた。


「……地上世界の人たちって皆、人肉が好きですよね。ほんと一体どうなってるんですか? 世はカニバリズム時代ですかっての!」


 そんなアンナの声には、今日までの旅路で蓄積された嫌悪感が込められている様子。

 道中で出会った人間たちの大半が異常なまでに、人肉を求める狂気に染まっていた事を思い出したようだ。


 彼女は深い溜め息をつきながらも、眉間に皴を寄せる。


「おいおい、人肉は正義だぜ?」


 大介の声は軽薄な調子を帯びていたが、どこか現実の厳しさを皮肉るような響きがあった。


「はぁ……勘弁してくださいよ。いい加減、普通の生活に戻りたいです。贅沢は言いません。温かいお茶と、みそ汁、白米、そして沢庵……ああ、お父さんを見つけてネオテックスに帰りたいです」


 アンナの声は徐々に熱を帯びていくと、最後は殆ど本心による叫びに近いものとなる。

 しかし二人が、そんなやり取りをしていると、女性は食事を終えたようで、腰を上げて椅子から立ち上がった。


 その際に椅子から軋む音が鳴り響くが、当の本人は気にも留めていない様子。

 彼女の口元には、まだ肉汁が輝き残り、手の甲でそれを豪快に拭い去る。


 そして机の上には、無造作に置かれていた薄汚れた布で手を拭くと、ゆっくりと二人の方向へと向き直った。

 その動作一つ一つに、どこか演劇的な大胆さがある。


 まるで彼女自身が、この場の主役であるかのように、視線を堂々と大介へとアンナに注ぎ込んだ。

 

「さて、自己紹介といこうか」


 低く艶やかな声で女性は言葉を切り出す。

 その唇が僅かに歪むと、笑みなのか挑発なのか、判断がつかない表情が顔を覆う。


「私は斎藤美月。だが、ここの連中は皆、私を”棟梁”と呼ぶ。それが、この拠点での私の立場だ。そして……そうだな、初対面だが一つ断っておく」


 美月は視線を一直線にアンナへと向けた。

 アンナの長い純白の髪は微かに揺れ、その艶やかさに美月の目が留まる。

 困惑の表情を浮かべながらも、アンナは無理に平静を装う。

 

「私は……自分で言うのもなんだが、変態だ」


 特徴的な単語を堂々と美月は放つと、その場の空気は一瞬で凍りついた。

 大介は肩を竦めて、やれやれと言わんばかりに、小さく溜息を吐く。


 一方でアンナは目を見開き、一瞬言葉を失ったようだ。

 

「どういう変態かって? それは……痴女だ。あらゆる意味でな」


 アンナの反応を見て満足気に笑うと、美月は更に言葉を続ける。

 その大胆不敵な宣言にアンナは、顔を真っ赤に染めながらも、次第に動揺を隠しきれなくなってゆく。


「この拠点……灰の信徒は、日本を再生する為に結成された人類最後の希望の場だ」


 声の調子を変えると今度は冷静かつ、重々しい響きで美月は言葉を紡ぐ。

 まるで先程の変態宣言が無かったかのように、彼女はその場の空気を掌握し直した。


 しかし美月の目は再びアンナへと注がれ、その瞳の奥に潜む熱意は隠し切れない様子。

 彼女は一歩、軽やかにアンナへと近づく。


「キミは美しい」


 アンナのすぐ目の前にまで、美月の顔が迫ると、低く柔らかな声で囁いた。

 その瞬間、彼女の顔は驚きに歪み、視線を大介へと逃す。


「一目見た時から思っていた。キミがこの拠点に足を踏み入れたその瞬間から……欲しいと」


 美月の言葉は情熱的で、どこか真剣すら漂わせていた。

 しかし、その言葉は明らかに変態的なそれであり、アンナの心を更に動揺させる。


「……ええと、その……」


 戸惑いながらもアンナは必死に言葉を探す。

 すると次の瞬間、彼女は大介を指差しながら、大きく息を吸い込んだ。

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