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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第四章

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第2話 暴れたいグールさん

「なんだか不思議ですね……こんな場所でも、こんなふうに生活が成り立ってるなんて」


 周囲を見渡しながら、アンナが軽く口を開く。


「はっ、皮肉なもんだろ? 廃墟に新しい命が吹き込むなんて、まるで雑草だ。しぶといもんだぜ」


 口元を歪めて大介は不敵に笑う。

 それを聞きながら彼女は、彼の肩越しに作業する人々を見つめた。

 その目には不安と小さな希望が入り混じるようだが次の瞬間、案内役の警備兵の声に遮られる。


「足を止めるな。無駄な時間を取らせるな」

「へいへい、あんたの言う通りだな。さっさと、お目当ての場所に行こうぜ」


 軽く肩を竦めながら軽口を叩くと、大介は再び歩き始めた。

 しかし通路を進むと次第に、人々の様子が変化してゆく。


 武装していない民間人だけでなく、完全武装の兵士たちの姿が見えてきた。

 彼らの多くは大介を見つけると、一瞬驚いた表情を見せた後、厳しい警戒の眼差しを向けてくる。


「おい、見ろよ……グールだぜ」

「いや、あれは……ただのグールじゃねぇ。アイツ……ホロコーストだ」


 その中には恐る恐るという感じで囁く声も聞こえた。

 そして噂話の主である大介は、それを聞き流しながら悠然と歩いている。

 

 彼の姿は、まさに異形そのもので、風化した皮膚と骨ばった顔、そして武骨な装備が一層の異彩を放つ。

 大介が歩く度に周囲から向けられる視線は鋭くなり、周囲の兵士たちの手が自然と武器に伸びてゆく。


「……グールさんのこと、みんな凄く怖がってるみたいです……」


 周囲に漂う異様な雰囲気を察知したのか、アンナは不安気な顔で大介を見上げた。


「当然だろ。俺は何処へ行っても、血の臭いを振り撒いてきた。だが安心しな、可能な限り今は大人しくしてやるさ」


 鼻を鳴らすようにして大介は軽く言い放つ。


「本当ですよね? 絶対にトラブルを起こさないって約束してください!」


 真剣な目でアンナは問い掛ける。

 

「お嬢ちゃん、俺は平和主義者だって信じて貰いたいね」


 軽く手を挙げながら大介は、冗談めかした口調で返す。

 そして国会議事堂の内部を歩き、階段を上がるごとに、薄暗い空間に独特の緊張感が漂う。

 鉄筋コンクリートの古びた壁には、ひび割れが走り所々に滲む湿気が、不気味な模様を描いていた。


 古びた電球が辛うじて光を放ち、薄黄色の光が階段を包んでいる。

 大介たちの足元には長い年月の蓄積か、埃が薄い層を作り、それが足音と共に微かに舞い上がった。


「こんな場所に人が住んでいるなんて……本当に凄いです」


 独り言を吐き捨てるように、アンナは小さき声で呟く。


「ああ、そうだな。人間ってのは雑草並みに、しぶとい連中ってことだ。しかし、こんな場所に住む理由が、どれほど崇高であっても、俺には理解できそうにないがな」


 冷静な声で応じながらも、大介は彼女をちらりと見た。


「おい、無駄口を叩くな。棟梁に会う前に、貴様らの無礼を、この俺が粛清してやろうか!」


 警備兵が前を進みながら、一度だけ振り返ると大介たちを睨む。


「へいへい、すまんな」


 軽く手を振りながら応じたが、その目は冷たい。

 軽口の裏には常に張り詰めた緊張が潜んでいる。


 そして階段を上がるごとに、空気は重く冷たさを増してゆく。

 時間の経過と共に外で鳴る風音が増して聞こえてくる。


 どうやら屋上付近の排気口に、風が入り込んでダクトが暴れているようだ。

 その音にアンナは耳を傾けながら、少しでも緊張感を和らげようと試みている様子。


 そうして全員が淡々と足を進め階段を上がりきり細い通路を歩いていると、突如として二人の案内役でもある警備兵が一つの部屋の前で足を止めた。


 その部屋の扉には古びた金属製のプレートが埋め込まれており、そこには何かの紋章が彫り込まれている。


 警備兵が、その場で通信機を取り出すと、棟梁への連絡を取り始めた。

 その間、大介とアンナは僅かに距離を取りながら、その様子を静かに見守る。

 数分が経過して通信が終わると、警備兵は扉を一瞥し後ろを振り返り二人を指差す。


「二人とも中に入れ。ただし、余計な動きはするなよ」


 その言葉と共に警備兵は、厚い木製の扉を叩いた。

 その瞬間、警備兵が無意識なのか意図的なのか、背中を大介に晒す。


 それを見た途端に彼の目は鋭くなり、まるで自身の耳元で飛ぶ鬱陶しい蚊を殺すかの如く、わずかな殺意の衝動に駆られた。


 大介の手が自然な動作で拳銃嚢へと伸び、マグナムピストルを引き抜く。

 熟練の動作で銃口は既に、警備兵の後頭部を正確に捉えていた。


「なんだ、その不用意で隙だらけの態度は? 頭の後ろに真っ赤な花を咲かせたいのか?」


 彼の声は冷ややかで、それでいて冗談めいた響きを持つ。

 その言葉が発せられるや否や、隣にいたアンナがすぐさま動いた。


「グールさん! やめて!」


 彼女の表情には、驚愕と焦燥が入り混じり、声には切迫感が滲んでいる。

 アンナは咄嗟に彼の腕に手を伸ばして、その手を強く抑え込んだ。

 彼女の水色の瞳は怒りと懇願が交錯しており、その美しい顔は赤く染まっていた。

 

「なにをしているんですか! ここで戦争でも始めるつもりですか!」


 アンナの声は震えながらも、強い意思を感じさせる。

 大介は彼女を一瞥し、わずかに苛立つ表情を浮かべた。

 しかし、アンナの必死の訴えに対しても何も言わず、一拍置いた後で小さく舌打ちを鳴らす。

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