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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第四章

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第1話 国会議事堂

 重い曇天の空が灰色に広がり、僅かに冷たい風が頬を撫でる。

 雨が降り出しそうな気配が漂う中、大介とアンナは国会議事堂跡地へと続く荒れ果てた石段を踏み締めていた。


 時間は昼過ぎ、だが空の暗さが、その感覚を奪い去り、辺りは夕刻のような、薄明かりに包まれている。

 国会議事堂跡だった建物の外見は、そのかつての威厳と栄光を微かに残しているものの、崩れた屋根や崩壊した柱が、その年月を物語っていた。


 建物全体を覆うように黒ずんだ蔦が絡みつき、無数の弾痕や爆発の痕跡が壁面を傷付けている。

 高い塔の先端は欠け落ち、まるでその威光を取り戻すことなく、衰えた日本の象徴そのものだ。


 門の前に四人の警備兵が立ち並び、全員が重厚な装備に身を包んでいた。

 各々が防弾服(チョッキ)と暗灰色のヘルメットを着用し、手には品質の良さそうな突撃銃(アサルトライフル)を構えている。


 その指先には緊張感を持って引き金に添えられ、警戒の視線が大介とアンナに向けられていた。

 無言の圧力が空間を支配し、軽率の動きが許されない雰囲気を作り出している。


「本当に、ここなんですね。灰の信徒のアジトというのは……。お父さんが、ここにいるんですよね?」


 一歩前に出るとアンナは、警備兵たちを一瞥しながら、大介に振り返った。

 彼女の声には緊張と期待が入り混じる。


 その豊かな純白の髪は湿気を含んでしっとりと輝き、冷たい風に晒されて仄かに赤らんだ頬が艶やかさを引き立てていた。


「ああ、間違いない。少なくとも俺の記憶ではな」


 疲れたように肩を竦めて大介は答えた。

 その声には何処か冷たさが漂い、彼のひび割れた声質が、それを一層強調している。


「……ああ、そうだ。お前が話してこい。賞金稼ぎの()が先に出張ったら、まず警告なしで眉間に一発ズドンだ。それに相手は、お前の親父を捕えている連中だろ? 話を通すなら、お前の方が、筋が通るってもんだ」


 妙案が思いついたように大介は自らの肘でアンナの側腹を小突くと、皮肉めいた言葉を口にしつつ眉間に深い皴を寄せながら彼女に促した。


「ちょっ、痛いんですけど! もぉ!」


 側腹を突かれて彼女は、小さく抗議の声を上げる。


「……わかりましたよ。でも次からは、もっと優しくしてくださいね!」


 大介の言葉にも一理あるとして、理解を示したようにアンナは僅かに頷く。


「あの、すみません! 私たちは棟梁と呼ばれている方に用があってここに来ました。その……私の父親が捕まっていると聞いて、それを確かめたくて……」


 大介と警備兵の間に漂う緊張感に顔を引き攣らせながらも、彼女は一歩前に進み出て相手と視線を交えて口を開いた。


 そして警備兵は一瞬、アンナの方に視線を向ける。

 彼女の大きな瞳に宿る真剣な思いと、彼女が纏う艶やかな雰囲気に、一瞬だが気を取られたようだ。


 アンナの長い純白の髪は風に靡き、陽光の僅かな光を受けて、品質の良い絹のように輝いている。

 彼女の透き通るような白い肌には僅かな紅潮が差し、切実な表情がそのまま美貌を引き立てていた。


「……棟梁に会えるかどうかは、俺が決めることではない。そして現状で、お前達に危害を加える理由もない」


 そう言いながら警備兵は、腰に装備されていた無線機を操作して、なにかを話し始める。

 その声は低く言葉の一つ一つに、忠誠心と使命感が滲んでいた。


「ついてこい。棟梁が面会を許可された」


 数分が経過した後、無線が終わると警備兵は二人を見据えて、命令口調で告げる。

 

「おや、こんな俺でも歓迎されるとは意外だねぇ。俺みたいな賞金稼ぎの王、ホロコースト様を(アジト)に入れるなんて、よっぽど自信があるのか、ただの阿保かだろうな」


 軽い調子で言いながらも大介の言葉には、僅かな皮肉と警戒が混じるようだ。


「お前のような穢れた者が棟梁を殺せる訳がない。我らの棟梁は、この崩壊した旧日本を統べるお方だ。格も品位も戦闘技術も、何もかもがお前とは違う」


 彼の挑発的な言葉に対して、警備兵は睨みを利かせながら言い返す。


「ほう? それなら今から会うのが楽しみだな。できれば殺し合いにならないことを望むぜ」


 相手の言葉を聞いても、大介は眉一つ動かさず、淡々とした口調で答えた。

 その声には何処か挑発的な響きが混じるが、実際には深い警戒と冷静さが感じ取れる。


「あの、グールさん! ようやく私は、お父さんに会えるんですから、絶対に大人しくしていてくださいよ! 貴方が喋ると大抵の物事が、厄介事になりますから!」


 二人のやり取りを聞いてアンナは、焦りを漏らすように声を上げた。


「ああ、わかってるさ。お嬢さん。俺だって無駄な戦闘は避けたいからな」


 大きく肩を竦めながら大介は、冗談めかした口調で答える。

 そして一人の警備兵が門を開け放ち戦闘を歩き始めると、大介とアンナは彼の後に続くように歩みを進め、彼ら彼女らは国会議事堂の内部へと足を踏み入れた。


 薄暗い廊下に重々しい足音が響く。

 外では風が吹き荒れているのか、遠くの窓枠を叩く音も重なり、全体に緊張感を漂わせる空間だ。


 案内役の警備兵は背中を追いながらも大介とアンナは、その異様な雰囲気に静かに目を凝らしている。

 国会議事堂跡地の内部は、かつての威厳を微かに残しながらも、荒廃が目立つ。


 柱の多くは割れ、壁にはひびが走り、かつての栄華の名残は、今や廃墟の陰影に埋もれている。

 所々、崩れた天井からは空が見え、そこから吹き込む冷たい風は大介たちの体温を奪う。


 それでも、この場所には新たな秩序と目的が、形作られている兆候があった。

 中央ホールでは民間人らしき者たちが忙しなく働いている。


 作業台の上には分解された銃が一列に並び、数人の男たちが黙々と手入れをしていた。

 その近くでは武具を磨く者達の一団。


 更に奥では家畜の世話をする女性と子供たちの姿も見える。

 動物たちの鳴き声と人々の会話が混ざり合い、この荒廃した施設に生命の息吹を与えていた。

最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

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