第26話 VIPのお二人
「ぐっ……あぁぁっ……!」
身体が崩れ落ちると共に、カナエの苦悶とした声が響き渡る。
カナエは両手で撃ち抜かれた箇所を押さえながら地面に膝を突いた。
その突然の光景を目の当たりにした彼の部下達は、同時に銃を構えて大介へと向けて、その銃口を揃える。
その瞬間、空間全体が一触即発の緊張感で満たされた。
そんな中、アンナはその場の空気に押しつぶされそうになりながらも、ふと意を決したように太腿に付いていた拳銃嚢に手を伸ばした。
彼女の艶やかな太腿に密着した拳銃嚢から、拳銃を引き抜く仕草は緊張の中でも、どこか色香を放つ。
その手には、若干の震えが見えたが決意に満ちた表情が、その動揺を隠している。
「おい、アンナ。一体なにをしている?」
気さくな感じで大介は問い掛けるが、そこには微かに警戒心が浮かんでいた。
アンナは彼の傍に立ち、肩を並べるようにして、拳銃嚢を構える。
その仕草は不器用でありながらも、なんとか役立とうとする、彼女の意思が感じ取れた。
「……グールさんを! 一人にするわけにはいかない!」
その声は微かに震えていたが、アンナの瞳には強い決意が宿る。
その瞬間、大介の視線が彼女へと向けられた。
その視線は僅かに柔らかさを帯びていたが、すぐに元の冷徹なものへと戻る。
一方でカナエは、その場で小さく息をつきながら膝をついていた体を、ゆっくりと起こした。
彼の足元には、一滴の血も流れていない。
その異様な光景に周囲の者達は、驚きと戸惑いの表情を見せる。
カナエは震える足で立ち上がり、苦笑いを浮かべながら、自身の太腿を指差した。
「いやぁ……特注の防弾仕様のプロテクターが無ければ終わりだったよ」
右手で自身の頭を抱えながら、カナエは困り顔を晒して言うと、その言葉に場の空気が一瞬にして変わる。
そして彼が示す防弾プロテクターは分厚い素材で作られており、その表面には銃弾がめり込んだ跡が鮮明に残されていた。
それを誇示するかのように、カナエは見せつけながら、周囲の部下達に目を向ける。
「即座に武器を下ろして、警戒を解きなさい!」
彼の命令が静かに響くと部下達は、戸惑いながらも徐々に武器を下ろした。
その動きには依然として警戒心が残されているが、彼の指示に従うほかないようである。
「悪いのはこっちさ。なんせ、あのホロコーストを騙そうとしたんだからね」
肩を竦めてカナエは苦笑いを浮かべた。その笑みには、どこか自嘲の色が見える。
「……グールさん、プロテクターの存在を知ってて撃ったんですか?」
一歩進めて大介の横に寄り添い、アンナは冷静な口調で尋ねた。
大介は彼女に目を向ける事無く、依然として銃を握り締めたまま、周囲を睨み付けている。
「さあな、どうだろうな」
口元に僅かな笑みを浮かべると肩を竦めた。
その曖昧な返答にアンナは眉を顰めるものの、それ以上の追及はしない。
彼女は静かに視線をカナエへと戻し、彼の脂汗まみれの顔を冷静に見つめている。
「……ああ、そうだ! キミ達、この街で暫く休んでいったら、どうかな?」
突然なにかを閃いたようにカナエは口を開くと、その声には柔らかい響きが含まれていた。
「今のやり取りが終わったばかりで、よくそんな気の抜けた事を言えるな」
彼の言葉に、驚いたような表情を一瞬だけ浮かべた後、大介は顔を顰める。
そんな大介の声には呆れも滲んでいた。
「キミは……一日中、休む間もなく動いている。それは……普通に考えて危険だろう? ここで何日か寝泊まりして、しっかりと体を休ませるべきだ。それに、ちゃんともてなすよ……ふふっ」
無理に笑みを浮かべながら、カナエは言葉を続ける。
「グールさん、私もカナエさんの提案に賛成します。夜通し動いていたのであれば、自分の体調を考慮すべきです!」
彼の提案にアンナが、すかさず横から口を挟んだ。
「……お前まで、ぐたぐだ言うのかよ。……ったく、わかったよ」
深く溜息を吐き捨てると、大介は片手で自身の頭部を軽く掻く。
その動作には隠し切れぬ、疲労の色が浮かんでいる。
「よう、カナエ。俺とアンナをVIP扱いしろよ。それぐらいはできんだろ?」
カナエを一瞥しながら、皮肉めいた口調で、大介は言い放つ。
「も、もちろんだとも……」
弱々しくも何処か困り顔でカナエは応える。
「……いいか、キミ達! このお二人をVIPとして、おもてなしするんだ。案内は、お前達に任せたぞ」
大介とアンナを見やり、薄く笑みを浮かべながら、部下達に向けて声を張り上げた。
その指示を受けた部下達は無言で頷き、大介とアンナに丁寧に手振りで案内を促す。
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。
宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。
活動の励みとなり更新が維持出来ます。




