第24話 初kiss!
「そして、もちろん彼女も……」
口角を上げてカナエは振り返ると、とある女性を視界に入れてから、腰を僅かに曲げて軽いお辞儀を披露した。
そう、そこには地上世界では明らかに浮いている服装、ネオテックススーツを着たアンナが平和守護隊の者達を護衛として連れ添い、まるで一凛の花のように悠然とした姿で立ち尽くしていたのである。
そんな彼女は、この場で一際目を引く存在だ。
純白の髪が揺れる度に艶やかな光を放ち、まるで入浴でもしたかのようにアンナの肌は、ほんのりと赤みを帯びている。
その胸元に密着するネオテックススーツは、彼女の女性らしい曲線を際立たせているのだ。
包帯で固定された両手は、欠損した指が無事に結合された事を、意味しているかのようである。
そしてアンナは既に平和特区の者達と打ち解けているのか、鞄を抱えながら穏やかな笑みを浮かべて、平和守護隊の者達に軽く声を掛けて会釈すら披露していた。
「……よし、約束の物資はこれで全部ですね。いやぁ、今回の取引は想定上に上手くいきました。これで暫くの間ここは、その名の通り平和が維持される事でしょう」
積み上げられたコンテナを一個ずつ目視で確認していくと、カナエは小さく頷き笑みを返す。
「ほう、思ったよりも綺麗に結合してんじゃねぇか。だが……それは見た目だけじゃなく、ちゃんと動くのか?」
カナエの言葉を半分ほど聞き流しながら、大介はアンナの手へと視線を移す。
その目は鋭く、まるで傷口の奥まで、見通そうとするかのようだ。
「はい、問題ないですよ! ここの医療チームは、ネオテックスの医師たちよりも優秀なようで、迅速に対応してくれました! もう、殆ど違和感もありません。ただ……縫ったばかりなので、激しい動きはできませんけど。あははっ」
微笑を浮かべながら、アンナは軽く両手を振ると、全てが順調である事を主張する。
「ほう、そりゃ大したもんだな。……だが、油断はするなよ。一度取れた指は脆くなっているからな。下手に酷使すりゃ、またぽっきり取れちまうぜ」
口元に薄い笑みを浮かべる大介の、その目には冷静な洞察が宿るようだ。
「もちろんです! 酷使なんて絶対にしません! ……それにしても、ここでの時間は短かったけれど、皆さんに本当に良くして貰いました。温かい食事や入浴はもちろんですが、娯楽まで提供してくれて。久しぶりに心が安らぎました」
彼の言葉にアンナは深く頷くと、平和特区の住民たちへ、感謝の意を込めた様子の言葉を返す。
「娯楽だと? 随分と余裕じゃねぇか。俺が血反吐吐いて動き回っている間に、優雅に遊んでたってわけか」
彼女の言葉に大介は眉を顰めつつ、どこか呆れたような笑みを浮かべる。
「遊んでいたわけではありませんよ。ただ、少し心を休める時間があっただけです。本を読んだり、彼らが持っていた簡単なボードゲームを、教えて貰ったりしただけです」
微笑みながらもアンナは、軽く首を横に振り、彼が不在中の出来事を述べた。
「……あっ、そう言えば指を治療している時に、看護師さんから聞きましたよ。グールさんが私の為に、夜通し働いてくれたって」
突然、何かを思い出したかのように顔を上げ真面目な視線を大介へと向けると、その声色には緊張と怒りと何処か申し訳なさが入り混じる。
「ああ、そりゃあ確かにちょっと厄介な条件を飲まされたが、大したことじゃねぇさ」
軽く肩を竦めて何処か気怠げな表情で応えるが、その言葉とは裏腹に大介の目元には僅かな疲労の色が見えた。
「……でも、私の為にこんなに無茶してくれたなんて……本当に……ありがとうございます」
彼の行動に感情が揺さぶられたのか、アンナの瞳に涙が浮かび、声を震わせながら感謝の言葉を紡ぐ。
そして次の瞬間、彼女は感情を抑えきれない様子で、大介の胸へと飛び込んだ。
その動きは激しくもあるが、どこか頼るような弱さも含んでいる。
彼女の腕が彼の体を抱き締め、顔を埋めるようにしながら涙を流す。
その体温が伝わる距離に、大介は少し戸惑いの姿を見せる。
「おいおい、なに泣いてんだよ。こんな湿っぽい展開、お前のキャラじゃねぇだろ」
気まずそうに彼は顔を上げた。
しかしアンナは、その言葉に耳を貸さず、顔を上げると大介を見つめた。
その瞳には覚悟のような煌めきが宿る。
そして次の瞬間、彼女は大胆な行動に出た。
唇を褪せようと顔を近づけるアンナ。
その動きは躊躇いがちでありながらも、確かな決意に満ちている。
しかし寸前の所で大介は、彼女の顔を手で押さえて動き止めた。
まるで無防備な動物を、軽くあしらうように、彼は彼女を引き離す。
「おいおい、そういう恋愛ドラマのような甘ったるい展開は、お呼びじゃねぇんだよ。ったく、すべてが片付いたなら、さっさとここを出るぞ」
苦笑いを浮かべながら大介は軽く肩を竦めると、その声は軽いものだが、どこか本気の警告が含まれていた。
アンナは驚いた表情を浮かべた後、屈辱と羞恥心が入り混じるように頬を赤らめる。
「生れて初めてのキスだったんですよ! もう! せっかく勇気を振り絞ったのに!」
突き放すように彼から離れると彼女は、その場で震えるように拳を握り締めて抗議の声を上げた。
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